ピティナ調査・研究

第20回 ソナタ第35番 Hob.XVI/43 変イ長調

ハイドンの世界
SONATA No.35 Hob.XVI/43 Moderato-Menuetto-Trio-Rondo(Presto)

この曲は、全体を通して変イ長調で書かれていて、変イ長調のもつ凛々しい雰囲気と、一貫して流れる勢いが心地よいソナタです。1楽章では再現部に入る前の3小節がAdagioになり、その間にフェルマータが5つも添えてあります。ハイドンはよくこのようなフェルマータの使い方をするので、今回も演奏する際、少し意識してみましたので、ぜひお聴きください。左手だけ弾いていても面白い曲で、バスとしての役割はもちろん、右手に対しての相槌のようなフレーズ、伴奏系をひたすら続けていると思っていたら、急に右手と一緒にユニゾンをはじめてみたりします。私はハイドンのこういったユーモアのセンスがとても好きです。続くメヌエットとトリオでも愛らしいメロディーが続き、最終楽章はRondo(Presto)で始まります。この楽章には、またフェルマータがたくさん登場し、その数はなんと15個。明るく元気に進んでは急に思いついたように立ち止まり、少し歩いたと思ったらまた想いにふけってみたり...と、気まぐれのような繰り返しが、聴く人を虜にしてしまう曲です。

第1楽章
第2楽章
第3楽章
ハイドンひとことメモ
「第20回 ハイドンのクラヴィーア・ソナタ ─ 鍵盤楽器について ─」

ハイドンがクラヴィーアのためにソナタや小品を作曲した18世紀後半は、バロック時代から受け継がれてきたクラヴィコードやハープシコードなどの古い楽器から、その後新しく誕生することになるピアノへとゆっくり移って行く時期でした。クラヴィーア・ソナタをハープシコードで書き始めて、後期になるにつれてピアノで書き終えたことは明らかですが、いつハープシコードからピアノになったのかは不明で、当時出版された楽譜にも、その時代を反映するかのように「ハープシコードまたはフォルテピアノのためのソナタ」と書かれているものも多数あります。

1750年 Hob.XVI/6 など ハープシコードのイタリア語にあたる、
クラヴィチェンバロの名前を楽譜に記す
1760年後半~1770年初め Hob.XVI/19
Hob.XVI/20
Hob.XVI/45 など
1790年に完成されたソナタ 1788年以後、最後の5曲のみ フォルテ・ピアノのためのソナタと記す
また、"クラヴィーア"というのは、弦を振動させて音を出す鍵盤楽器全般を示す言葉なので、上記に書いたハープシコードからピアノまで幅広く使えるという意味で、ここでは使用しています。