12の練習曲より第6曲:8本指のために
ドビュッシーはこの作品で親指を除いた8本の指ですべて演奏することを要求しています。しかも、彼は、もしも親指を使うと、演奏がアクロバティックに難しくなってしまうからだといっています。これはさまざまな物議をよんでいます。まず、彼は、この曲集の冒頭で指使いは自分で決めるようにと明言していて、このことはそれに矛盾するからです。実際にこの作品を演奏してみると、その人の5本の指の長さのバランスによっては、曲を通じてすべてに親指を使わない場合、極めて困難な部分があります。この作品を弾くのに理想的な手の形は、あまり大きくなく、指が太くなく、2から5の指の長さがあまり変わらない、ショパンの手のような形です。ちなみに、そういう意味ではぼくはこの作品を弾くにはまったく恵まれていません(笑)。結局、指使いとして、2,3,4,5のかわりに1,2,3,4または1,2,3,5などとした方が楽な場合が多いと思います。しかし、ここでドビュッシーがいっている難しさとは、物理的な弾きにくさではないと思います。彼がこの曲に求めている、活発で軽快で滑らかにということと、変ト長調というクラリネットなどの木管楽器、もっといえば、クラヴィコードなどの古い鍵盤楽器のもつ柔らかさをイメージするフラット系の調であるということの質感には、1,2,3,4の指使いで弾くよりも2,3,4,5の指使いで弾く方がより柔らかくて適しているといいたいのかもしれません。さらに、この作品は左右の手で交代して音階やアルペジオを演奏しますが、この技法は、今ほど音域が広くなかったバロック時代の鍵盤楽器での奏法なのです。つまり、演奏技法に古楽器のそれを用いつつ、現代的なピアノの質感と古楽器それを融合させたものととらえることができると思います。
従って、真に優れた演奏者は、弾きにくくても、質感を優先するために、あえて2,3,4,5で弾く道を選ぶのです。
まず、曲中のテヌートやスタッカートや細かい強弱の変化記号はすべて守る必要があります。そうでないと、変化に乏しく面白くありません。そして、練習方法は人それぞれですが、ぼくはリズム練習などは一切やりません。そのかわり、手のポジションや打鍵する指の位置の最適な部分を考えます。また、音階の場合はつなぎ目のところが滑らかになるようにしたいのですが、この練習曲はそれがとても難しいです。ゆっくり響きをすべて聴きながら練習するのが一番効果的だと思います。5小節目の3拍目の左手のcesは3の指ですが、これは白鍵の細い部分で弾くことになるので男性の太い指にはとても難しいです。また、12小節も慎重に鍵盤上の指の位置を決めて、素早いポジション移動が求められます。29,30小節は左手を右手の上にするか下にするか判断しにくいですが、上にした場合、小指が短い人は困難です。ただし、下にすると31小節目で手の上下を変えなければいけないので、今度はここが難しくなる人もいるでしょう。41,42小節は、desとg、dとasという増4度の和音の響きの揺らぎが綺麗に出ると良いと思います。67小節は64分音符ですが、しっかりと倍のテンポで、テンポを落とさずに1拍に16個の音符を入れたいところです。