ピティナ調査・研究

第10回:演奏と身体 第1回

当時の音をめざすことは作曲家の言葉の"翻訳"

一生懸命譜読みをし、練習をして迎えた本番。思うような演奏ができなかった...ということはありませんか?

「テンポがどんどん速くなり弾けなくなってしまった」
「思わぬところでつっかえてしまった」
「暗譜を忘れてしまった」...など、思い出すだけでもドキドキしてしまうようなあの瞬間。
できれば繰り返したくないですよね。

そのためには、その時取り組んでいた曲の難しさや当日の体調に集中力...という一時的な問題だけでなく、日々の練習や譜読みの仕方、さらには身体の使い方について見直さなくてはなりません。

そこで、これから数回に分けて、「本番」を楽しむための身体づくりと譜読みについて考えていきたいと思います。

まず、本番でうまくいかないときには何が起こっているのか、ということについて考えてみたいと思います。

緊張したとき、みなさんの身体はどんな状態になっているでしょうか?
主に挙げられるものとしては以下のようなものでしょうか。

  • 心臓がドキドキする
  • 頭や顔がのぼせたように熱くなる
  • 手足が冷たくなって震える
  • 手足に汗をかく

...このように、"いつもと違う"状態になりますよね。

筆者の場合、心臓がドキドキするのをはじめ、手足が震えるのはもちろん、曲を頭で思い浮かべているうちに、「あそこの音、なんだっけ・・・?」混乱してしまったりすることがありました。そして実際に演奏すると、とにかく速くなってしまい、普段何でもないようなところで変な音を出して余計混乱していく...というループに陥ってしまったのです。

これらが起こるのには、自律神経のうち、身体を活発に活動させるための交感神経が作用しています。自律神経には心拍数を増やす、血圧を上げるといった働きがあります。
日常生活や普段の練習やレッスンなどでこういう状態にならないのは、身体をリラックスした状態にさせる「副交感神経」が活発に働き、バランスをとっているためです。

すなわち、本番で緊張状態になったときは副交感神経を活発化させ、交感神経を落ち着かせる必要があります。スポーツ選手が試合中にガムを噛んでいるのを見たことがあると思います。ガムを食べることで唾液がでるというのは副交感神経の作用なのです。

もちろん演奏中にガムを食べたりするのは難しいですよね。そこで精神科医の川村光毅先生は次のような提案をされています。

「フレーズを歌いながら演奏する」
唾液が出る、味覚を刺激することで副交感神経の働きが高まる
「深呼吸する」
心拍数や血圧が下がる。鼻から息を吸ってお腹に息をため、口からゆっくり息を吐く

上記の対策は気軽にできますし、演奏会などに行くと、実践している方も多いように思えます。もちろん、みなさんそれぞれが緊張を落ち着かせるために色々な試みをされていると思います。呼吸法や体操などのメソッドも様々なものが考案されていますが、本番の環境や楽屋の状況などによってはスペースもなかったり、人目が気になる...ということもありますよね。

筆者の場合は、あるとき、本番前に人とあまり話し過ぎるとうまくいかない傾向があることに気が付きました。「あがり」からくるテンションの高さに任せ、「どうしよう」などとネガティヴな言葉を繰り返していたのです。そこで控室ではなるべく静かに過ごし、座ってひたすらに深呼吸を繰り返すようにしていたら、以前よりも本番のときに冷静に弾けるようになりました。また特に効果的だったのが、「曲について文章を書く」のをはじめたことです。これは本番前日以前に行うのですが、曲に物語を作って、そのイメージをどのように音にするか、を考えながら練習してみたところ、どんどん弾くことが楽しくなりました。本番当日も「物語を表現する」ことに重きを置いて演奏したら、以前よりもずっと本番が怖くなくなったのです。

もっと気軽に、ちょっと考え方や見方を変えることで楽しく本番を迎えられたら素敵だと思いませんか?このシリーズでは「譜読み」を通して本番をもっと自由に楽しめるような方法がないかを探っていきます。そのため、ぜひみなさまからのご意見や体験なども伺わせて頂きたいと思います。ぜひアンケートにご協力ください。

参考資料
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