ピティナ調査・研究

Vol.1 谷合廣紀 さん(将棋棋士)

Enjoy! Piano ピアノで拡がる、豊かなミライ
Vol.1 谷合廣紀 さん
将棋棋士・四段、東京大学大学院博士課程在籍

プロの将棋棋士四段である谷合廣紀さんは、現在東京大学大学院でAIを研究する大学院生。史上2人目の東大生棋士となった谷合さんは、実はピアノ歴20年以上と、ピアノとは将棋よりも長い付き合いだそう。そんな谷合さんに、ピアノとの関わりについてお話を伺いました。

父からピアノ、祖父から将棋の手ほどきを受ける

ピアノとの出会いはいつ頃でしたか?

幼稚園の年中の頃から、父にピアノを教えてもらっていました。父は音楽が趣味で、家にはアップライトピアノやシンセサイザーなどがありました。その頃どんな曲を弾いていたのかは覚えていませんが、幼稚園でピアノを弾いたら「すごいね」と友達に言われたのは覚えています。小学校に入って、ピアノ教室に通うようになりました。父とも発表会で連弾をした記憶があります。

お父様と連弾とは、いい思い出ですね。その頃は、他に習い事はされていましたか?

小学校へ入る直前から、祖父の手ほどきで将棋を始め、小学生の頃、将棋道場にも通うようになりました。習い事は、低学年の頃は水泳や英会話、高学年からは公文と色々やりました。一番長く続けているのが、ピアノと将棋ですね。

小学生の頃は、学校の勉強に、将棋にピアノ、他の習い事と、どのように時間を使われていましたか?

毎日決められたスケジュールで少しずつ、というよりは、その日の気分で好きなようにピアノや将棋をやっていたように思います。わりとハマりやすい性格で、好きになるとそればっかりやってしまうタイプでした。最初に小学校低学年でハマったのがピアノで、没頭すると5時間くらいピアノを弾き続けることもありました。その後に将棋にのめり込むと、平日は帰宅してネット将棋、休日は将棋道場へ通う、という生活でした。小学生の頃は、家にいる時はピアノか将棋のどちらかをやっていることが多かったと思います。

小学校の頃のアンサンブルや即興が原体験に

多くの習い事の中で、ピアノが長く続いた理由は何だったと思いますか?

純粋に、弾くのが好きだったのだと思います。それから、小学校の同級生に、フルートやヴァイオリンなど色々な楽器をやっている子が多くて、よく友達と学校でアンサンブルをして遊んでいたのが、今でも記憶に残るほどとても楽しかった、というのが大きかったのではないかと思います。

小学校には教室や音楽室など、色々な所にピアノがあり、休み時間などに自由に弾くことができました。小学5年生の頃に、戦前からあったベヒシュタインが修復されて、私も弾かせてもらった記憶があります。音楽の先生も熱心で、放課後などに週に一度くらい児童が発表する場も設けてくださり、そこでアンサンブルを披露したりもしました。年に一度の音楽会も力を入れていて楽しく、何人も弾ける子がいる中で、いつもピアノの伴奏を奪い合っていました。

小学校での楽しい音楽活動が、原体験だったのですね。ピアノのお教室では、どのように続けていかれましたか?

近所のピアノの先生に習いに行っていたのですが、好きな曲をたくさん弾かせてくれて、楽しく通っていました。最初の10分くらいはいつも、弾きたいように即興で勝手に弾かせてくれていました。たぶん、私だけだったと思いますが。その頃から、その時の気分の赴くままに即興で弾くのが好きでした。ピアノ曲としては、ショパン、ドビュッシーなどの曲が好きでよく弾いていました。

中高が男子校で、ピアノをやっている友達も減ってきて、将棋にものめり込んでいたので、ピアノの時間は減っていったのですが、弾くのは好きだったし、やめるのはもったいないと思い、週1でレッスンに通い続けていました。小学校の時の楽しかったアンサンブルの思い出もあったので、簡単にはやめたくないな、という気持ちもあったのだと思います。大学受験の時には中断しましたが、受験後に先生から「そろそろどう?」と声をかけていただき、月1回くらいでレッスンを再開しました。大学4年生の頃まで発表会に出ていましたが、中でも私が一番続けていた年数が長かったと思います。

行き詰った時や気分転換には、ピアノを弾きにスタジオへ

最近はどのようにピアノと関わっていらっしゃいますか?

大学院に入り研究も忙しくなり、将棋の対局も週に1回くらいあるので、ピアノを弾く機会が減ってしまいましたが、聴くのも好きなので、作業しながらBGMとして聴いています。J-POPも聴きますが、半分くらいがクラシックで、中でもやはりピアノが一番多いですね。好きな曲をYouTubeのプレイリストにして聴いていますが、ピティナのコンペティションの演奏動画や、亀井聖矢さんのYouTubeチャンネルもよく観ます。グランプリを受賞された時のサン=サーンスのピアノコンチェルトも好きでした。

自分がピアノをやってきた中で身についた音楽の基本的な知識があるので、どのジャンルの音楽を聴く時にもこれだけ楽しめているのかな、と思います。将棋を指している時にも、最近よく聴いている曲が頭に流れてきて、だんだんと頭が音楽でいっぱいになって困ってしまう時もありますが。

ここ数年は、行き詰った時や気分転換、ちょっと時間が空いた時などに、スタジオをレンタルしてピアノを弾きに行ったりします。どうせ弾くならグランドピアノが気持ちいいので。ふらっとスタジオに行って、その時の気分でずっとピアノを奏でているのが、私の好きな時間になっています。

ピアノ弾きの棋士の手
ピアノの前に座ると、心の赴くままにピアノを奏で始めた谷合さん。ドビュッシーやショパンが好き、というのが分かる、とても優しい音色が響きました。
「将棋を指す動きに、ピアノで培った指の器用さが活かされているかどうかは分かりません(笑)」
お気に入りの1曲
ピティナのYouTubeチャンネルの演奏動画もよく観ます。特に亀井聖矢さんの特級グランプリ受賞時のサン・サーンスの演奏が好きです。

(2021/7/5 東音ホールにて)

東京都生まれ。お茶の水女子大学附属小学校、獨協中学校・高等学校を経て、東京大学工学部電気電子工学科を卒業。同大学院情報理工学系研究科電子情報学専攻博士課程に在籍中。自動運転技術を開発するベンチャー企業でもエンジニアとして解析に尽力。著書に『Pythonで理解する統計解析の基礎』(技術評論社)がある。第66回奨励会三段リーグ戦にて14勝4敗でリーグ2位の成績を挙げ、2020年4月1日付で四段昇段、棋士となる。東京大学出身の棋士は史上2人目。
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取材・文=加藤哲礼・二子千草
撮影=石田宗一郎
協力=公益社団法人 日本将棋連盟
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