ピティナ調査・研究

25曲を斬る!第12回  なぐさめ

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第十二回 Consolation なぐさめ

♪第13曲 Consolation なぐさめ YouTube 演奏 友清祐子

傷を負った後に・・・

前回の、非常に辛い内容だった「さようなら」に引き続いて、今回は第13番《Consolation》ですね。「なぐさめ」という邦題でなじみ深い作品です。

 

「さようなら」に次ぐ「なぐさめ」・・・(ため息)。この曲はとても切なく感じますし、ある意味とても現実的な曲だとも思うんです。冒頭は、属七の和音から始まっていますね。

 
譜例
譜例1:冒頭1~2小節

おぉっ、そうですね。これはまた結構なことですよ。

 

しかも、右手の指番号は4、5、4、5と来ています。

   

ええ、ええ。もっとも弱い4の指ね。あえて弱い指で始めてるのね。

 

弱いですから、もう・・・、音にもならないような音というか、音楽が停滞してしまいそうな響きを、むしろブルグは許しているっていう気がするんですよね。そして8、16、24小節目と、3回もin tempoと記述があります。

 

ああ、このin tempoは、「さようなら」で別れ、傷ついてしまった心に「止まりそうになるかもしれないけれど、急がなくていいよ、そのテンポでいきなさい」って、優しく言ってるみたいですね。

でも、「止まりそうになるよね」・・・ていう。

 

なるほど。本当のところはもう、失恋でメンタル的にもフィジカル的にもボロボロっていう状態ですね。ボロボロなんですよ。だって、4、5、4、5ですよ?

 

そしてさらに、3、4、3、4と続きますよ。4の指、酷使ですよ。本当にボロボロなんですねぇ。

 

3、4、3、4、って。もう、ひどいですよ!シューマンは弱い4の指を鍛えようとして傷めたくらいなんですから!あえて、4のきついところを使うなんて。

   

このdolce lusingandoは、あまり見ない表情記号ですね。Lusingandoは「媚びるように」といった意味があるようです。

 

ややっ!それは意外ですね。

 

え、未練?

結構未練たらしいですね。悲しんでいるところをチラチラ見せる的な感じでしょうか?

 

うわっ(苦笑)。でもいるよね、そういう人。「わたし悲しんでます」アピールするの。別れた後も、相手と職場が一緒だとか、どうしても顔を合わせなきゃいけないときとかにアピールする人、いるいる。いやだね~・・・

 

くっくっくっ・・・(苦笑)。まぁ、その線で解釈できる部分も、多々ありますが・・・

 

確かにいますね、そういう人。でも流れからしてイメージ的には、家に帰って、一人で布団にくるまって一人ボロボロに落ちている、っていう感じだと思っていたんですが・・・まさかのアピール?

   

う~ん。私のイメージでは、右手のメロディーが、サワサワしてる音型じゃないですか。だから心にさざ波が立っていて、今私に触らないでっ、触らないでっ、触られちゃうと・・・・

 

泣いちゃうから。

 

そう!そう言ってるように感じるんですよ。ですから、「媚びるように」っていうイメージはないかもなぁ。

まぁ確かに、8小節目のin tempoから(四分音符の)旗が上に付いているあたり、見せてきてるかなぁ、という気がしないでもない。

   
譜例
譜例2:8小節目

ああ、チラチラと、見せてきてますかね。

   

その前まではレミレミレミレ、ドレドレドレドと二度の間隔でやってたんだけど、気付いてくれないから、4度、5度、6度と広げて見せてきてる、とか(笑)。まぁでも、そこまで言っちゃうと厳しすぎるかなぁ(苦笑)。

悲しみは見せないで

ぱっと見て、和音は属七の範囲までで収まっていますね。あまり複雑な和音はない。

 

調性も、14~15小節目や22~23小節目でふとホ短調を覗かせたりしますが、大きく転調する様子はないですね。

譜例
譜例3:14~15小節目
 

・・・となるとあまり、何かを見せつけようとしている風でもなさそうな・・・

 

あ、先のlusingandoですが、他の意味を調べてみましたら、「よく見せること」というのもあるようです。となると、本当はまだ落ち込んでるけど「もう、元気だよ」って気丈に振る舞っている風にも受け取れますね。

   

あ、なるほど!ピンときますね。

 

そっちだったらわかるな。

 

ですよね。

人に悲しみを見せようとするなんて、子どものやることですからね。そうか、そっちの意味ですよ。だから属七までしか使っていないんだね。

凝った和音で、卑屈さとかを見せたりしてない(笑)。シンプルな音遣いで平静さを出している。

「大丈夫だからー。うん、ぜんぜん、ぜんぜん(口をとがらせて)」みたいな。

ああ、それであまり大きな転調もないんですね。「そりゃいろいろありましたけどね」ってホ短調を小出しにしたりしつつ。

・・・耐えてんのね。

ああ。

耐えてんのよ、やっぱり。・・・見習いたいね、こういうところ。

笑。

そうですね、見習いたいです。見習うところ、いっぱいありますよ、この曲集。

ところで楽譜ですが、版によっては曲の繰り返しをリピート記号で処理して、1ページに収めているものがありますが、私は見開き2ページ使っているのがいいと思うんです。やはり「さようなら」のあとは、時間をかける感じてたっぷりと、2ページで弾きたい。

そうね、この情感は、2ページあると出しやすいね。

形式は序奏-A-A-B-B-コーダとなっていて、AとBは完全に繰り返しているだけですもんね。それにしても、このコーダの終わりの部分、可愛いらしいですね。ソ♯レミソド、って「もう平気だよっ」と言っているみたい。pでね。

譜例
譜例4:41~42小節

この最後の左手も利いてるね。結構、右手との音域が広いですよね。これはプロコフィエフ的ですよ。

!!

非常に広い。とくに子どもが弾く場合は、すごく広がりを感じるんじゃないですか?もう、胸はりなさい!みたいな。

ああ!なるほど。胸はって、もうスッと行きなさい、みたいなね。明日に向かって。

そうそう。明日、明日。

猫背になってちゃだめだね。未来に向かって。ああ、やっぱりいい曲だなぁ・・・「なぐさめ」。

第12回 Consolation 後記
隠しきれない悲しみを負った心を、どのような音で表現するか。ブルグミュラーが示したのはこのConsolationだった。健気にも美しいこのシンプルな作品が、13番という曲集中盤で登場する。曲の難易度からすれば、この位置に置かれることは不自然であり(次の「スティリエンヌ」との難易度の差も大きい)、やはり「さようなら」との深いつながりを否定することはできない。堪え難きを堪え、明日へと胸を張るような気持ちで、優しい音で奏でたいものだ。

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