ZADAN:第10回 サロン音楽とオルゴール ~全音ピアノピースってすごいよね!!~
ハイシーズンにつき、すっかりご無沙汰しておりました。
ハイシーズンって・・・、日頃の会長の活動が謎ですが。
ところで、オルゴールお好き?オルゴールの世界ってピアノピース的なサロン音楽と印象ダブりません?
あいかわらず唐突ですね、会長。オルゴールですか。懐かしいなぁ。私が子供のころはたくさんオルゴール持ってました。「エリーゼのために」とか、「白鳥の湖」とかね。あの音色、たしかにサロン風な居間とか、喫茶店などでひっそり流れている印象ですね。
でしょ?短い一曲が延々と繰り返されて、ノスタルジックな気分になりますよ。
そうですね。サロン音楽といえば「乙女の祈り」のように、延々繰り返す変奏曲。そしてオルゴールといえば、やっぱり同じメロディが何度もくるくる登場します。あっ、よく考えてみたら、オルゴールもピアノも、音楽の再生装置なわけですねぇ。
そうなんですよ。オルゴールの誕生した時代は、なんと19世紀!そう、サロン音楽が盛んだった時代と同時期なんです。当時のオルゴールといえば、小物入れのような小さな物から、レコード盤のような金属の円盤を機械にかけて再生する、本格的な音楽再生装置もありました。今となっては、オルゴールも、サロン音楽も、わたしたちの記憶まで「再生」してくれる懐かしい感じの響きがします。思い出、時代感、遠い記憶・・・。
おお。同時代ですか。どこか似てるわけです。じゃあサロン音楽がいっぱいのピース・ナンバーと、オルゴールの定番曲って、もしかして、かぶってます?!?!
そうくるかと思いましてね、ちょっとオルゴールの世界を調べたんですよ。最近の定番では童謡やポップスが多いです。クラシック系では「ブラームスの子守歌」とか。
ほほう。で、ピースのナンバーは?!
あります。おちついて。まずはピース178番、E.ワルトトイフェル「スケーターワルツ」。これは皆さんご存知のメロディでしょう。今回もピアニストの友清祐子さんに弾いてもらいました。
E.ワルトトイフェル「スケーターワルツ」♪mp3演奏:友清祐子♪(公開終了)
おお、これは超有名!でも意外とピースで楽譜が手に入るなんて知られてないかもね。
こちらオルゴールの定番曲ということですが、ピアノ曲としての印象はどうですか?
いやぁ。すごいですね。こんな長かったの?この曲。最初のメロディは有名だけど、中間部は耳なじみないですね。でも、ここを聴かなきゃもったいない。3分過ぎたあたりの所なんて、ちょっと泣かせるノクターン風のワルツじゃないですか。
なんと、ワルトトイフェル君は当時、「パリのワルツ王」なんて、言われたらしいです。普通「ワルツ王」と言えば、同時代にウィーンで活躍していたシュトラウス二世を指しますが。
「パリの」っていうところが、若干の限定付きですね。
お次は、ピース164番「ダニューヴ河の漣」。ルーマニアの人、J.イヴァノヴィッチ(ピアノ曲事典へリンク)の作品でございます。ダニューヴ河とは、ドナウ川のことですよ。
J.イヴァノヴィッチ「ダニューヴ河の漣」♪mp3演奏:友清祐子♪(公開終了)
いやぁ!なんか、演歌っぽい!すごい哀愁。
でしょう?このワルツには、どこか土くささがあるっていうか。スケートしてるパリ人とはちょっと違う。短調なメロディラインが、日本人にはぐっとくるものがある。
ドナウといえど、シュトラウスの「美しく青きドナウ」ともまた別世界だね。これまた長い曲ですよー。さすが、ヨーロッパで2番目に長い川だけありますね。
ちなみに友清さんは、ハンガリー留学中、この川の漣を聞いてたそうです。10分近くも、よくぞ弾ききってくれました。
こんなに真剣にピースナンバーに向き合ってくれるピアニスト、正直ありがたいです。トレモロとか、けっこう大変。これが「難易度B」って、全音さん・・・
ピース27番、S.イラディール君の「ラ・パロマ」も定番曲ですね。スペイン人の作曲家ですよ。
S.イラディール「ラ・パロマ」♪mp3演奏:友清祐子♪(公開終了)
これはまた。キューバの舞曲「ハバネラ」のリズムですか。雰囲気ありますね。
イラディールが南米からスペインに持ち込んだハバネラを、あとでフランス人のビゼーが聞いて、あの有名オペラ「カルメン」に使ったそうです。なんともグローバルな話ですね。
でも私には、このリズムにこのメロディ、昭和時代の洋食屋でかかっている、そんな音楽にも聞こえます。
さて。そろそろ本日のメインとも言える作品にいきましょう。なんとピース235番に、その名も「オルゴール」という曲が!!!
おおっ。 A. リャードフ(ピアノ曲事典へリンク)???すみません、あいかわらず耳慣れない作曲家です・・・ロシアのお方なんですね。
彼のイメージするオルゴール、聴いてみましょう。だが、その前に!!今回私は、友清さんにお願いして、あえて2バージョンの録音をいたしました。
と、いいますと?
ひとつは、割と楽譜に忠実というか、楽曲の冒頭のスタッカートを生かした演奏。そしてもう一つは、あえてペダルを踏んでもらって、わんわん鳴らしてもらったんです。これが実は、非常にオルゴールらしい濁りが出まして、味わい深いんです。
リャードフ「オルゴール」
スタッカートバージョン♪mp3演奏:友清祐子♪(公開終了)ペダルバージョン♪mp3演奏:友清祐子♪(公開終了)
なるほど!オルゴールに聞こえました。スタッカートは小さめのオルゴール、ペダルを入れると残響たっぷりな大きなオルゴールを想像します。違うもんですねぇ。それにしても、クリスタルな高音域の響きがチャーミング。
楽譜を見ると死ぬほどオクターブ記号がついてる(笑)。楽譜の冒頭にある「Automaticamente」という指示がおもしろいじゃないですか。
オートマティックってこと?機械っぽく?オルゴールの暖かなムードより、機械的な性質を前面に出してますね。
曲を演奏しているうちにノッてきて、テンポを揺らしたり早めたりしたくなるかもしれませんが、そこはグッと押さえ込んで下さい。なにしろオルゴールなんですから。
オルゴールは、テンポの減衰こそあれ、加速はない・・・しかし、人の心は音楽の流れに押され、走り出したい・・。ああ!演奏者泣かせの一曲だわ!
ところで、英語のタイトルには「A Musical Box」ならぬ「A Musical Snuff-Box」とありますが、どんなニュアンスですかね?
これは単なるオルゴールじゃないですね。Snuff-boxというと、ふつうはタバコケースのことです。それも、葉の香りを嗅いで楽しむ類のタバコ。19世紀に流行っていたらしいです。どうやら当時は、オルゴール付きのケースという、小じゃれたアイテムがあったようですよ。
おや。なかなかの大人アイテムですね。でも、この曲は確かリャードフが息子のために作った曲なんですよね。若干謎ですねぇ。
ところで会長、会長のオルゴール定番曲調査リストによると、R. プランケット「コルヌヴィルの鐘」とありますが・・・。なんですか、これは?
パリ出身の作曲家プランケット(1848-1903)です。この人、今やほとんど知られていません。でもなぜか、オルゴール曲としては生き残っているという・・・。どんな人物かといえば、意外にも、権威ある音楽大辞典のニューグローヴには、けっこう記載がありますよ。
そうなんですか。初めて聞いた名前ですよ!
けっこう世渡りが下手な人だったみたいです。作品が大ヒットしても、版権を手放していて何も恩恵がうけられなかったりとか。経歴も、パリ音楽院卒の有名作曲家はたいていピアノや作曲で主席ですが、プランケットはなぜか、ソルフェージュで1位なんですねぇ。
び、微妙な経歴ですね。
そんな彼が、29歳の時に発表したオペレッタが「コルヌヴィルの鐘」です。これがなんと、大当たり。なんでも1877年に初演され、400回以上連続公演、その後も10年間に1000回の上演回数があったというんですから、当時の非常な人気っぷりが窺えますね。それでこの曲、今でもオルゴールの世界では定番らしいです。
プランケット「コルヌヴィルの鐘」(部分)♪mp3演奏:友清祐子♪(公開終了)
ほほう。プランケットの名前は知らなくても、曲はどこかで聞いたことがあるような・・・。
そのあたりの感覚は、まさにサロン音楽こその真骨頂。私、そのうち「サロン音楽検定」作りたいんですけど、この検定では、作者や曲名がわからないほど「サロン度が高い」と判定されます。
会長それ、受験者いますかね・・・