ZADAN:第06回 ピース的花鳥風月の世界 ~全音ピアノピースってすごいよね!!~
このZADANも前回、前々回は全音さんへの取材を行って、ちょっと外へ出て参りましたので、会長と二人きりでのZADANは少し久しぶりな気がします。
そうですね。まだまだ全然話し足りないというのに。今日は何から行きますかね。
私、最近あることに気付きました。あのピース裏表紙の一覧を見ていますと、ある種の傾向に気付いたのです。あのラインナップから浮かび上がる景色のようなものです。
ああ。それなら私も「ピース花鳥風月ライン」として認識しております。
花鳥風月、ですか?!
ええ。花鳥風月、それは「天地自然の美しい景色」(広辞苑)。ピースの作品には、まさにそんなテーマが目白押しです。
ざっと見ても、花、森、水・・・そんなキーワード、目に付きます。
例えば「アルプス」、しらみつぶしに見てみますか?ピースはね、本当にアルプス好きですよ。29「アルプスの夕ばえ」、41「アルプスの鐘」、157「アルプスの乙女の夢」に続いて158「アルプスの山小舎にて」。そしてなぜかずっと間をおいて441に「アルプスの花」が登場する。ベールという人の曲ね。
No.441といえば一覧表も後半です。後ろのラインナップの曲を買わないと見られない一覧ですね。
そうなんですよ。
ピースの後半のラインナップって、ちょっと芸術的作品が多くなっている気がしますが・・・。
ええ。ピースの後半のラインナップといえば、日本人作曲家作品の現代曲とか、難易度EとかFが多くなって、前半の風景とは違うんです。微妙に住み分けがあるかのように。
しかし、そんなアルプスの面影なさげなところにきて...なぜかベールの「アルプスの花」!しかも難易度A。ベールはちなみに「音友人名」に載っていない。マイナーな人物でしょうか。
ピース的にはそんなことはありません。前半では、ベール作品がNo.101「ト調のワルツ」、102「水の精」、103「スイスの田園詩」とゴソっと続いています。この「アルプスの花」も、前半のラインナップに入っていれば、仲良しの「アルプス」たちがいっぱいいたのにね。
そうだよ...前半に入れなかったがために、あまり弾かれていないかもしれない・・・。
後半のリストに入ってしまったがために...?
ええ。ほら、ここはもう「タイム・シークエンス」な人たちですから!!かの一柳慧さんの難曲をチェックできる人たちなんですよ!ああ、急にベールが不憫に思えてきました・・・。
いえいえ、きっと、そんなことはありませんよ。たしかに、No.410~414で難易度F・F・F・F・Eの邦人作品で並び、さらに425~430ともうひと波、邦人現代作品がドドンときます。
石井眞木氏、湯浅譲二氏、高橋悠治氏・・・そうそうたるメンバーじゃないですか!そして、そのあとにNo.441ベール「アルプスの花」、A・・・。
ここで、人は初心に帰るのですのです!!
ああそうか、そういうことですか!!ここで、あの懐かしき19世紀サロン風音楽に、ちょっと立ち返るってワケですね?!
あと「花」系ね。「花の歌」、「南国のバラ」、「すみれ」、「のばらに寄す」、「花のワルツ」、「荒野のバラ」、「すずらん」、「野花」、「アルプスの花」・・・。
これは多いですねぇ。「花」系で言うと、発表会でもお馴染みのNo.297平井康三郎氏の「幻想曲『さくらさくら』」のすぐ後No.299に「『さいたさくら』の主題による七つの変奏曲」というのもあります。ヒルトブランという人が作ってる。
おや、本当だ。これは私死角でした!「さいた」さくらなんですね。
297から299にかけて咲いたんでしょうかね。ヒルトブラン氏はジュネーヴ音楽院の先生で、日本人も含め、たくさんのピアニストを輩出していますよ。
平井康三郎の「さくら」とヒルトブランの「桜」、どちらも20世紀に書かれた作品ですが、雰囲気違いますね。ざっくり言えば、平井さんのはお琴のように固い音質で弾いてもかっこいい。ヒルトブランさんのは、不協和音がフワンと響いて20世紀現代音楽っていう感じかなぁ。そう簡単に「西洋と東洋の違い」とかで言いたくないですが。
ほぉ。ぜひこの二曲、実際並べて聞いてみたいじゃないですか。
そうですね。「花」並びで。
たとえば、ショパンの「ノクターン」や「マズルカ」が何曲も続く演奏会っていうのはありますよね。しかし、そんなに「アルプス」だけ聴くっていうのは、ない。
まずないですね。
ま、ピアノの先生によってはちょっと変わってて「アルプス」ばかりを弾かせる発表会というのを、企画していたりする・・・かどうかは、わからないが。
たぶんいない・・・です。
ま、「こんなのどうですか?」っていう軽いご提案です。
いや、いいですよね。日本にいながらにして、そんなに「アルプス」を堪能できることってないですから!「ピース発表会」ね。ぜひ、花鳥風月にそったテーマでやっていただきたい。
そうだね。やっぱりワンテーマでね。ワンテーマで発表会をコーディネートするとどうなるのかっていう。そのなかでも曲順はいろいろだと思いますよ。いろいろとシャッフルしていただいて。
そうね。水系ライン(「銀波」「舟歌」「水車」等)とか、乙女系ライン(「乙女の祈り」「女学生」「乙女の願い」等)、愛と夢系ライン(「愛の挨拶」「愛の夢」「人形の夢と目覚め」「舞踏の後にみる愛の夢」等)、ジプシー&オリエンタル系ライン(「ジプシーの踊り」「ジプシーの群れ」「ジプシー・ロンド」「トルコふうロンド」「トルコマーチ」等)とか、できそうです。
バッチリです。そんな発表会あったら、私飛んで行きます。
さて、このZADAN読者の皆様にかねてよりお届けしたいと思っていた「乙女の祈り」の音源が出来上がりました。演奏はブルグミュラー25の練習曲の録音でもご協力いただいたピアニスト友清祐子さんです。友清さんには今回のZADANテーマである「花鳥風月」より花系ラインとしてランゲの「花の歌」、またアルプス系ラインとしてオースティンの「アルプスの夕映え」も演奏していただきました。ぜひお楽しみ下さい♪
♪オースティン(エステン)作曲 《アルプスの夕ばえ》♪演奏:友清祐子
こういう花鳥風月のラインですが、じつは結構ブルグミュラーの25や18練習曲に、凝縮していますね。
たしかにそうですね!花ラインの代表といえば「やさしい花」、「鳥」ラインとして「せきれい」や「つばめ」がある。乙女ラインは「貴婦人の乗馬」や18練習曲の「陽気な少女」とかね。
ジプシー&オリエンタルラインも豊富で「アラベスク」、18練習曲の「ジプシー」、それに全音ピアノピースから、No.244「トルコふうロンド」!ちなみに私、この曲は楽譜が破れるほど弾いてガムテープで貼っていました。
さすが!!
そう考えてくるとですよ、やはり、ブルグミュラーはある種本当に19世紀的な作曲家と言えるかもしれません。
おそらくピース前半のサロン音楽作家たちは、ほぼみんなブルグミュラーと同時代人。「芸術家」然として上段に構えるのではなくて、サロンに響くオシャレな花鳥風月BGMを量産していた人たちですね・・・。
そんな彼らのピース・ラインナップを、しつこく見ていくことで、19世紀という時代、そしてブルグミュラーその人が、これまたよく見えてくるっていう仕掛けです。
おお。ZADANが「ブルグミュラー」の裏サイトである理由、本当は裏でも何でもない濃~い繋がりが見えてきますね。