ピティナ調査・研究

ZADAN:第03回 ミッション:欠番の痕跡を追え!~全音ピアノピースってすごいよね!!~

みんなのブルグミュラー
ラインナップの栄枯盛衰
楽譜裏表紙

さて、前回途中で触れられなかった「欠番」問題についてですが、そのあたりに少し近づいていきたいと思います。

穴の開くほど一覧表を眺めている私ですが、全てを知りつくすことはできません。

そりゃそうです。

で、どんな曲がいつラインナップ入りを果たし、あるいはラインナップから外れてしまったのかなど、その動きはもう、簡単に追いつけるシロモノではございません。

もっともです。会長のお持ちになった3つのピース、昭和23年、25年、27年モノと現行ピースのラインナップを見くらべるところくらいからはじめてみましょうか。

いやぁ...それが。これらの裏表紙の作品一覧表を見るだに、楽曲の栄枯盛衰、はなはだしいのですよ!!

そうなんですか!

ではさっそく。手持ちの中で最も古い昭和23年モノ。当時はピース作品は全60曲。そのNo.18につけているのはシンディング「春のさゝやき」です。

No.18ですか。おや、これは現行カリニコフ(カリンニコフ)の「悲歌」ですね。この曲自体・・・あまり聞いたことがありません。

カリニコフ。その名からも想像するにロシア系。私の所属先のロシア人研究者に「カリニコフって有名??」と聞いてみたら、そりゃもう「交響曲で有名だ!」と即答いただきましたよ。

おお!左様ですか!はずかしながら、わたくし知りませんでした。日本ではチャイコフスキーの陰に隠れてしまってますけど、ロシアでは随分と有名ということなんですねぇ。

嗚呼、カリニコフ君。

そうなんですよね。まさにロシアのタキレン的存在ですよ!!!

タキレン・・・あ、滝廉太郎。そりゃあ本国のメジャーどころですねぇ!!

これは私の説だけれども(笑)。

しかし・・・知らないなぁ。全音No.17までの作曲家だったら、ZADANも第二回までに知らない名前はなくなりました。しかしここでNo.18カリニコフ。哀しい哉、さすがの音友人名にも拾われていませんね...。

お。ピティナピアノ曲事典(ココをクリック)には載っているぞ!

おお。なんだか・・・若くして亡くなってるあたりもまさにロシアのタキレン!?苦労なさった方ですねぇ・・・そんな彼の「悲歌」。わたくし気になって楽譜を買ってきました。それが、会長!!これはもうたいそう素敵な楽曲でございます!!!
♪カリニコフ「悲歌」 by 広報♪
なんと5拍子。泣かせるじゃないですか。はぁ・・・

いいいいいねぇ。5拍子か。1拍多い分だけカリニコフ君の悲しさを分かち合えたような気分ですよ。これがさほど弾かれていないというのは、あまりに惜しいじゃありませんか。

そうですよね。どうでしょう。タキレンの「憾(うらみ)」(全音ピースNo.402)(♪曲冒頭 by 広報♪)、カリニコフの「悲歌」、並べて弾いて日露の悲痛曲対決とか。べつに対決しなくてもいいけど。曲想全然違うや。

ま、そんな「悲歌」のピース入りにより、シンディング作品「春のさゝやき」は「春のささやき」(♪曲冒頭 by 広報♪)となって、現在ピースNo.475に行きましたね。

えらく後ろ行ったなぁ!!

この二曲の入れ替え劇にはどんなドラマがあるんでしょう...。我々には知る由もないと思うと切ないです。

ですね。後発曲がものすごくメジャー曲ということなら、わかりやすいですが。

大御所の台頭

まぁ、他の楽曲の動きをみると、その傾向は無きにしもあらず、ですね。

そうなんですか。

たとえば、やはり昭和23年モノのNo.40、 A Ponchielli作(当時は日本語の作曲家表記がありません)「歌劇『ジョコンダ』中の時の舞曲」ですが、それがいつからかベートーヴェンの「ロンドト長調Op.51-2」になりました。

おお。ベートーヴェン。大御所。かたやポンキエッリって・・・歌曲は多い人みたいだけど、ピアノ曲作家としては知られない名だ。

また、昭和23年モノのNo.24 J.E. Jonasson「カツコウワルツ」は、かの大人気曲モーツァルトの「きらきら星変奏曲」に取って代わられ、No.42、N.W.Gadeの「スケルツオ」は、超メジャー人物シューマンの「再会」へとなりました。

ちなみに♪カッコウワルツ by広報♪はNo.290に返り咲きを果たしてますね。

ところでGade ガーデって誰でしょう。

あ、この方はシューマンの「子供のためのアルバム」に入ってる「北欧の歌(Gへの挨拶)」のGその人だそうですよ。

じゃあガーデは当時のヨーロッパでは大物なのね。

そうらしい。でも、全音ピースの世界ではね、挨拶を送った側のシューマンにとって代わられちゃったわけですね。ピース的下克上?!まぁガーデはシューマンより若い人だけど。

ほほぅ。興味深いですね。そんな全音ピース俎上における栄枯盛衰、下克上の様を、気付いた所だけまとめてみましたよ。ご参考までに。

★昭和23年3月25日発行 No.1~60までのラインナップ
No.18 「春のさゝやき」C. Sinding →昭和27年3月20日発行時点「悲歌」 カリニコフ
No.24 「カツコウワルツ」J.E.Jonasson→時期不明、「きらきら星変奏曲」 モーツァルト
No.40 「歌劇『ジョコンダ』の中の時の舞曲」A.Ponchielli→時期不明、「ロンドト長調Op. 51-2」 ベートーベン
No.42 「スケルツオ」N.W.Gade→時期不明、「再会」 シューマン
★昭和25年5月25日発行 No.119までラインナップ
No.61 「歌劇『ミニヨン』中のガボット」A.Thomas→時期不明「女学生」 ワルトトイフェル
No.92 「カヴァチナ」J.Raff→現在欠番(以前は「主よあわれみ給え」 バッハ=高橋)
No.109 「湖上の扁舟」T.Kuollak→時期不明「フーガト短調」 バッハ(後藤丹編)(以前はバッハ=高橋)
No.114 「スケルツオ」J.N.Hommel→時期不明「シャコンヌへ短調」 パッヘルベル(一時欠番時代あり)
No.117 「ロシヤのダンス」P. Tschaikowsky→時期不明「ロンドハ長調Op.51-1」 ベートーべン
No.118 「歌詞なき歌」P. Tschikowsky→時期不明「ロマンツェ変イ長調KV.Anh.205」 モーツァルト
★昭和27年3月20日発行 No.137までラインナップ
No.133 「子守唄」R.Schumann→時期不明「アルフェウス・サンライズ」 J.ツエグレディ(一時欠番時代あり)

なかなか欠番そのものへのアプローチまで到達できないですが、まずは楽曲の入れ替わり劇がある、ということがよくわかりました。

「すごいよね!!ライブラリ」、増曲。

ところで会長!!前回よりピース音源を大募集した甲斐ありまして、ついに一曲とどきました!!

なんですとっ!!!

mp3音源での募集がハードルとなったのか、なかなか応募が来ず、わたくし首を長くして待っていたのですが、ついに先日送って来てくださいました!新潟県にお住いのM.A.さん、31歳女性の方でございます!

おお!!曲は?

ランゲですよ。ランゲの「花の歌」(PP-038)!!いただいたメッセージを引用してみますね。

「1年半前に一念発起して習い始めたピアノ。(ちなみに30歳で始めました)それまで憧れの曲をピースで買っていたこともありましたが、完成させて、こうして人前で弾いた曲はこれが初めてです。ちょうどピアノを始めて1年経ったときの初めての発表会で弾きました。なので演奏は...なのですが、思い入れだけは人一倍あります。私のピアノピースデビューです♪
ピースは憧れの曲を聴きながら眺めたり、目標として買ってみたりといろんな方の想いを叶えてくれる素敵な楽譜だと思います。これからも沢山のピース曲を弾いていきたいです。」

ではお聞き下さい。

♪ランゲ「花の歌」(mp3) by M.A.さん♪(公開終了)

...酔いしれました。

...会長、この方は天才ですか??だって、1年でこんなに立派に弾かれるなんて!私はこのピース、買ったんですけどね、なかなかに大変で弾けなかったんです。だからM.A.さんのおかげで我が「すごいよね!!ライブラリ」が充実しました!ありがたいです!!

すごいですよねぇ。また曲への憧れというのは、それだけ人のモチベーションを上げるということでもあるのでしょう。

うむ。おそるべしピース。元気ツールでもあるわけですな。

それにしても、大人の方のランゲはいいですねぇ~!!!こんなに楽しくサロンな雰囲気は、大人だからこそでしょうか。

ますますランゲへの関心が高まりました!いずれランゲ・トークはあらためてやりましょう、会長。

それはマストだね。

ところで、音源募集、我々のライブラリはまだまだ足りてないのでやりますよ!皆さんぜひご協力をお願いします!

また、もし音源が難しいという場合でも、「ピースのあんな曲にこんな思い入れが!」といったメッセージだけでも募集します!人気投票のように、皆さんのお好きなピース作品、メールやお便りでお知らせくださいませ!よろしくお願いします。

視覚的インプレッション

さて、ピースといえば、その独特の表記がやっぱり面白いです。ベートーヴェンとすることなくベートーベン、とか。どこまでも視覚的なニュアンスが独特です。

そうですね。やはり古いものはとりわけ時代の香りがして面白いです。こちら、ご覧下さい。昭和23年当時のピースの世界です。

目次

こ、これはっ!!

そうです。おなじみの「トルコマーチ」ですが、モーツァルトのは「タキシーマーチ」、ベートーヴェンのは「土耳古行進曲」です。

はは、すごい。あとエリーゼの「爲に」なんてやられると、すごく心が染み入る感じがします!この曲、その昔は「バガテル」と呼ばれていたみたいですよ。「トラウメライ」や「ポロネエズ」も芳しいですね。

ZADAN第三回後記:広報
我々ピース音楽需要者の気付かぬ間にひっそり進められていた作品の栄枯盛衰。今回のZADANを通して、その一端を見て取れたような気がします。ところで、そうした入れ替わりドラマの背景はいかに?!?!謎と好奇心は深まるばかりでございます。次回はそうした謎を胸に、いよいよ全音楽譜出版社へと会長&広報が取材にお出かけです!!どうぞお楽しみに。

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