ピティナ調査・研究

第16回 芸術性を高めるソルフェージュを目指して(3)

子どもの可能性を広げるアート教育-フランス編-
ルイ14世が幼少時代を過ごしたパレ・ロワ イヤル(本文とは直接関係ありません)

前回ご紹介した中級(第2課程3年目)のクラスを、また3ヵ月後に取材させて頂きました。今回は同じレベルのクラス2つを見学しました。同じ教材(モーツァルト『魔笛』、リュリ『アルミード(Armide)』)を用いてのレッスンですが、音楽へのアプローチが若干異なります。仮にAクラス(平均年齢14~15歳)、Bクラス(平均年齢15~16歳)としましょう。それぞれ何にポイントを置いているのでしょうか。
(取材協力・パリ13区ラヴェル音楽院)

なぜここで、その音程が使われているのか?

この日A・Bクラスともモーツァルトのオペラ『魔笛』を用いて、音程を聴き取る練習から。現在練習しているのは六度・七度音程の聴きわけ。『魔笛』「Die zauberflote」の主旋律(ニ短調旋律的短音階)の音程がきちんと聴き取れるように、一音ずつ丁寧に拾っていきます。

先生「まず調性は?」生徒「ニ短調」
先生「では次に音程を取りましょう。7~10小節(ミ♭ファ♯ファ♯ソラシ♭ ソミレド♯)まずは歌ってみましょう」
先生「ミ♭ファ♯(7小節1~3拍目)の音程は?」
生徒「う~ん、増二度」
先生「ミ♭レド♯(9小節3拍目~10小節1拍目)のカデンツは?」
生徒「半終止かな」
先生「では11~14小節(ファラドファ ドラソファミレドシ♭ラ シ♭ソ)」で、14小節1-2拍目の音程は?」
生徒「シ♭ソは長六度。だから、その転回音程(renversement)は短三度」
先生「14~16小節(ソシ♭ラソファミレドシ ラファ)で、16小節1-2泊目の音程は?」
生徒「・・短六度!」
先生「その転回音程は?」
生徒「長三度!」

その他にも「増六度を転回すると?」「減三度!」、「じゃあ減七度の反対は?」「増二度」といったように、六度、七度の音程に慣れさせる演習が続きます。音程を取る演習は下級生クラス(第2課程1年目)でも行われていますが、この上級生クラスでは転回音程と、実際の楽曲を使っているのが特徴です。

それぞれの音程がもつ、響きや色彩感を知る

音程にはそれぞれ特徴的な響きや色彩感があります。(長六度の例:モーツァルト「魔笛」/ショパン前奏曲第7番(*))楽曲の中でどのように使われているかを知ることで、その音程がなぜそこで使われているのか、どのような効果があるのかを、より明確に把握することができます。

モーツァルト 魔笛
モーツァルト 魔笛
◆ショパン前奏曲 第7番
ショパン前奏曲

その後Aクラスでは、ソプラノの聴き取りへ。CDをかけながら、全員で歌いながらソプラノの旋律をなぞっていきます。一方のBクラスは同じ教材を使っていますが、ソプラノではなくバスの聴き取り。年上のクラスでは、より難しい低音の聴き取りに挑戦していました。このようにして、実際に聴いて歌いながら、和声感のある耳を養っていきます。

リュリのオペラで、パッサカリア形式を学ぶ
「Armide」教材の表紙は、リュリの同時代人ニコラ・プッサンによるArmideの画。プッサンは神話や宗教画を多く描いた。

次はモーツァルトから遡ること約100年、リュリのオペラ「アルミード(Armide)」を用いての演習です。

Aクラスでは各自の専攻楽器を持ち出し、一度主旋律を弾いた後、トロンボーンとピアノでバスをなぞり、他の生徒はソプラノを合唱します。これを何回か繰り返しました。

BクラスではまずChépélov先生がピアノで、テーマとなるフレーズを様々なバリエーションを加えながら演奏します。「これはパッサカリアという形式で、同じ音形のバスを繰り返しながら(basse obstinée)、上声部を次々に変奏していきます。今日はこれを勉強しましょう。」

オペラよりパッサカリア1曲を取り上げ、まず通奏低音(ソ―ファ―ミ♭―レ―・・・)に、カデンツとアルペジオを確認しながら和音を加えていきます。また三和音の第三音に刺繍音を加え、響きに変化をつけます。その後、右手で即興を入れていきました。即興といってもなかなかぱっとできるものではありませんが、センスの良い即興をした子(飛び級の11歳・ピアノ科)が一人いました。

やや年上のBクラスでは、既に学んだ音程や和音の知識を通奏低音に生かすとともに、即興を取り入れることで、音楽の「規律と自由」のバランスを学んでいたのが印象的でした。

なぜリュリのオペラを教材にしているのか?
リュリが仕えたフランスの太陽王ルイ14世(ルーブル美術館所蔵)。

ところで、この「Armide」が作曲されたのは1686年、モンテベルディがオペラの基礎を築き、ルネサンス期からバロックへと時代が移行して半世紀ほど経過した頃です。なぜこのオペラ作品をソルフェージュの教材に用いたのでしょうか。

まずリズムにあまり変化がなく、カデンツや調性を理解しやすいので、和声の勉強に適していること。また音域が広くないため男女とも歌いやすく、変声期の男性でも対応できること。また主題のリピートが多いので旋律を覚えやすい。さらにロンドやサラバンド、パッサカリア等といった舞曲や楽曲形式の勉強に適していることも、重要なポイントです。

昨年10月シャンゼリゼ劇場でこのオペラが上演された折、Chépélov先生は生徒を30人ほど連れて観劇したそうです。生徒たちには既に馴染みの曲になっており、ソルフェージュで取り上げるには丁度良いタイミングでした。なお同主題でグルック、ロッシーニの作曲もあり、いずれもそれらも教材として使う予定だそうです。

*参考:Guide de La Théorie de La Musique, Claude Abromont, 2008
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