アンケート結果:ピアノ指導・演奏と女性特有の悩みについて その1
アンケート結果
ピアノ指導・演奏と女性特有の悩みについて
11月に実施した「ピアノ指導・演奏と女性特有の悩みについて」のアンケートには、10代から60代以上の方までの54名の方々から、真摯な回答をいただきました。
「今まで思っていたけれど口に出せなかった」「ただ我慢するしかないと思っていた」「もっと他の人の経験談や意見を聞きたい」という多くの切実な声が聞こえてきました。ぜひこうした声に耳を傾け、「女性と生理」の問題について、広く考える機会にしていけたらと思います。
回答者の分布
Q.1 ご自身の立場について(複数回答可)
Q.2 年代
Q.3 ご自身の主宰する/通う教室の生徒のうち、10歳~50歳の女性の人数の割合
回答者の中では、女性が半数以上在籍している教室が6割でした。女性が在籍しない教室はほぼなく、ほとんどの教室で、女性と生理の問題は避けて通れない問題であることが分かると同時に、女性がマイノリティである教室での問題も考えなければならないことが分かりました。
ピアノに影響する生理の症状について
Q.4 ピアノの練習・レッスン・本番に影響する生理による症状は何ですか? (複数回答可)
Q.5 ピアノの練習・レッスン・本番において、生理によって困った経験がありますか
「生理は当たり前」「仕方ない」と思っていても、85%以上の方が、実は生理により困った経験があることが分かりました。「困っていないから出てこない」のではなく「困っていても言えない」問題であることが表れました。
Q.6 ピアノの練習・レッスン・本番において、生理によって困った経験(具体的に)
具体的な事例を教えていただきました。
身体的な痛み、倦怠感
- 腹痛、腰痛のため、練習で姿勢を保つのが辛くなってくる。
- 特に演奏中に腹に力を込めなければならない時にうまくいかない、fの音が出ない。
- 生理前から生理中の1週間ほどは倦怠感が酷く、まともに練習できない。
- PMSで手が震えてレッスンでなかなか弾き始められないことがあった。
- 本番も練習も、辛い痛みや眠気で集中できない、十分に練習時間が取れない。
- 生理痛が酷かったため、先生の話も頭に入らず、演奏にも集中できず、脂汗を流しながらレッスン受けていた。
- コンクールやコンサートのための長距離移動で乗り物酔いが普段より強くなり、吐き気や食欲不振になる。
- 本番前に痛み止めを飲んだら、痛みは治まっても頭がボーっとして遅いテンポで弾いてしまった。
精神的な不調
- 直前〜当日に重なるとメンタルを良い状態に保つのが大変。
- レッスンで練習不足、つっかえ弾き、中途半端な練習などがあると、過去に遡って思い出してイライラが増幅する。
- 普段であればすぐにトイレに行くところ、一定の時間我慢することになり不快。
損害
- 途中で立つことができず、教室やホールの設備を汚してしまった。
- レッスンが終わって生徒さんが帰った後、ピアノの椅子に血がついていることがあった。
不安
- 演奏中、漏れが心配であまり体を動かせず、腰まわりが硬直して余計に痛くなる。
- ずっと座っている時、お腹に力を入れた時、立ったり座ったりした時に心配で集中できず、演奏に没頭して、思い切った演奏をすることができない。
- 汚さないように意識的にこまめにトイレに行くようにすると、練習がどうしても途切れ途切れになる。
- 本番が近いのに練習が思うように出来ず焦る。
- 本番・レッスン中は自分のタイミングでトイレに行けない不安と緊張感を常に抱えている。
- 本番直前/ステージ演奏中に突然なったため、集中力を高めるのに苦労した。
- 発表会やコンクールの本番の時、どのタイミングでトイレに行くか迷う。直前が安心だが衣装に着替えた後は汚す心配があり行けない。
- ちょうど本番とぶつかると、薄い色のドレスが着られないなど服装も考え直さなければならなくなる。
- リハから本番までのタイムスケジュールに気を遣う。ツアー中に生理が来ると大変。
不利益感・モヤモヤ感
- 本番当日がちょうど生理2日目の一番出血がひどく体調が悪い日にあたってしまった。
- 本番当日に生理がきて、慌ただしく用意をし、本番中も頭がボーッとして集中力を欠いた演奏になってしまい、モヤモヤが残った。
- 自分の体調管理のせいではないのに、練習の成果が本番で出せず、自分の力が発揮できずに悔しい思いをする。
- 吐き気を伴う酷い生理痛になったとき、やむを得ずレッスンを中断し、既に来ていた生徒に帰ってもらったことがあった。後日振り替えをお願いした。
- 野外フェスやイベントの場合はトイレが遠い、あるいは簡易トイレで生理中は非常に面倒、汚物入れがないなど、男性の利便性しか考えていないトイレセッティングになっており、気が重い。スタッフや出演者はほぼ男性のことが多い。
- 服や椅子を汚さないか心配したり、イライラ等精神的な症状があったことにより、先生からの指導内容が頭に入らず、次回同じことを指摘いただくことになった。
- 学生時代、生理中のレッスンは先生から「集中できてない」と怒られることが多かった。
- ひどい時は自分が通っているレッスンを休むこともあるが、自分のお仕事のレッスンは、休めないので薬を飲んで痛くても耐えている。
- コンペの本選がちょうど重なってしまうと分かって憂鬱になった。日程を調整できない。予選も早く申し込むので日程を合わせられない。
- 本番一週間ほど前からの調整の際、体調が整わず、予定通り練習が進まない。
- 個人宅でのレッスンでは、主に生理で腹痛になった場合など、ご自宅のトイレを借りてよいのか悩み、我慢することが多い。
Q.7 それは解決できましたか?
多くの方が、困ったことがあっても我慢して過ごしてきたことが分かります。
次回の記事では、実際にどのように対応したか、皆さんの経験談を見てきたいと思います。
自由記述より
- 今までずっと言えませんでした。
- 学生の頃は特に、本番前にメンタルが集中できない、落ち込む、悲観的になる、などの時に、ただ自分のせいだと思い込んで、PMSかもしれないとは思いませんでした。経験のある先生から、そういうことも考えて本番の日程を決めたり、本番前のスケジュールを調整するなど、アドバイスいただけたらよかったと思います。
- 生理の事はタブーと考え、皆言わないで我慢していると思います。理解されずに不利。女性のピアニスト達はそれを乗り越えよくやっていると感心します。
- 高校時代(音楽科)、教師から「女性は生理があるから男性を超える一流になれないんだ」と言われたのが30年以上経った今でも心に残っています。「生理」というだけで気が重く憂鬱なのに、いつものようにピアノが弾けなくて、さらに気が滅入ります。他人には「今日は生理で調子が悪い」なんて言えず、でも自分自身は「今日はもうダメだ」と妥協してしまっています。生理の症状とうまく向き合いながらピアノをやっていくにはどうしたらいいのか、知りたいです。このようなアンケートを実施してくださってありがとうございます。
- 生理で演奏にどういう影響があり得るのか、指や手にも影響があるのか、知りたいです。
- 他の方が本番や練習の時にどのように対処しているのか、また本番でパフォーマンスが落ちるのをどうすれば防げるのか知りたいです。
- 低容量ピルを服用している方に、ピルの使用で症状は楽になったかどうか、使用された方のご意見を広く伺いたいです。
言い出しづらい、聞きづらい内容、個人差、思い込み、情報不足、ピアニストや指導者特有の問題…、様々な理由から、そして様々な症状で悩む方々が多いことが見えてきました。「共感する」「こんな対処方法が役立った」「今後はこうしていきたい」「悩む人たちへのメッセージ」など、ぜひ引き続きアンケートにお寄せください。心身の不調は、生理に限らず様々な原因でどの性別、世代にも起こり得、かつ、今回のように外に訴えにくいことも多く潜在していると考えられます。このアンケートが、そうした様々な問題を考えるきっかけとなれば幸いです。
思春期、そして成人女性がピアノ演奏・指導をしやすい環境づくりのため、アンケートへのご協力、どうぞよろしくお願いいたします。