尾城杏奈さんレポート:ナウェンチェフ音楽祭に参加して
2022 年7月18日~29日、ポーランドの東部に位置するナウェンチェフにて開催された、第 25回ナウェンチェフ音楽祭に参加してきました。
この音楽祭は、Kazimierz先生と奥様のトモコ先生が主宰され、ピティナのサポートにより毎年ピティナ特級グランプリが派遣されています。この度は2度のソロリサイタルとオーケストラとの共演、先生方のマスターレッスンの受講やショパンツアー(観光)等素晴らしい経験をさせていただきました。ウクライナの情勢により宿泊施設や参加人数など例年と違う部分もあったようですが、先生方の温かいサポートと素晴らしい環境作りにより、全てにおいて充実した 10日間となりました。
乗り換え先での 17 時間の航空機遅延などアクシデントに見舞われながらも、無事にワルシャワ・ショパン空港に到着し、ワルシャワから 3 時間ほどバスに乗って Kazimierz Dolny という美しい街へと向かいました。例年は Naleczów(ナウェンチェフ)のホテルに宿泊するようですが、ウクライナからの移民の影響によりホテルが埋まっており、今年は Kazimierz Dolny にある先生方の素敵な別荘に滞在しました。先生のお宅にはピアノが 3 台あり、練習するには充分の環境を整えてくださりました。
朝・昼・夜はお隣にあるレストランで毎食とても美味しいお食事をいただいたのですが、毎回先生・受講生皆で一緒に食べるのですぐに皆さんと距離を縮めることができました。又、朝ご飯を食べ終わるとすぐに各々練習に向かう様子が音楽合宿のようで、居心地良く過ごすことができ、感謝しています。滞在が終盤になるにつれて、ずっとポーランドにいたい!という気持ちで溢れていました。初日は先生方や受講生との顔合わせ、そしてリサイタル会場での試弾を行い、その後は Kazimierz Dolny の街を散策しに行きました。
2日目はショパン音楽大学教授のアンナ・ヤストシェンプスカ=クイン先生に、ショパン バラード第 1 番のレッスンをしていただきました。アクセントの弾き分けに関してのアドバイスや、パッセージごとのキャラクターを更に明確に表現すること、根拠に基づいた細かいルバートのかけ方、一音一音の音程間に対する音の扱い方・タッチの拘りを説得力のある考えと共にアドバイスくださりました。とても情熱的なパワー溢れるレッスンでした。アンナ先生の門下生には日本人学生も多く、今回の講習会にもお二方が参加されていました。
3日目はお昼からテレビの収録があり、ショパンのバラード第 1 番の演奏と、インタビューを受けました。今回のフェスティバルはテレビやラジオ収録が入ったり、市長の方が来場されていたり、音楽祭の注目度の高さや先生方の地域への貢献度の高さも感じられました。
夜は第 1回目のソロリサイタルがあり、Kazimierz Dolny の市民ホールで 60分のプログラムを演奏しまし
た。海外での初リサイタルに少し緊張していたのですが、海外では珍しく新築で木の香りがするホールだったので日本を思い出し、自然と緊張が落ち着きました。よく響くホールだったのでペダルの扱い等に注意しながらよく耳を使うことを心がけ、60分間気持ちよく演奏させていただきました。地元の方々が沢山聴きに来て盛り上げてくださり、とても温かい雰囲気の中コンサートは終演しました。
4日目は朝から30分かけて Naleczów へ向かい、主宰の Kazimierz 先生にバラード第1番のレッスンを受けました。先生からは主に和声の移り変わりに対する意識やバランス、フレージングと構成の組み立て、レガート時の指の使い方などについて、曲の最後までみっちりとアドバイスをいただきました。
Kazimierz Dolny に戻ってからは、ワルシャワまで続くビスワ川を流れる観光船に乗って少し気分転換をし、翌日のリサイタルに備えました。
5日目はメイン会場となる Naleczów のホールにて、70分ソロリサイタルを行いました。
200 名ほど入るホールで、ショパンのバラードとソナタ第 2 番、シューマンの謝肉祭などを演奏しました。
やはりショパンを弾くと会場は大盛り上がりで、日本のソロリサイタルではあまり経験したことのない盛り上がりで、とても嬉しかったです。満員のお客様が駆けつけてくださり、温かい雰囲気の中ショパンとスクリャービン、シューマンという自分が大切に勉強してきた作品を皆様に聴いていただくことができ、幸せで夢のような時間でした。
無事に2度のリサイタルが終わり、土日は観光に連れて行っていただきました。土曜日は Kazimierz Dolny から車で1時間ほど移動し、ポーランドの古都 Lublinへ。お城や塔の見学をしたり旧市街を食べ歩きしたり...ルブリンは屋根がピンク色のお家が連なっていてとても可愛い雰囲気の街で、観光を存分に楽しみました。夜は Kazimierz Dolny に戻り、教会で行われたオルガンのコンサートに行ったのですが、教会で演奏されるオルガンの響きや趣があるプログラムが印象的で、とても貴重な体験となりました。
まずはジェラゾヴァ・ヴォラへ行き、ショパンの生家を見学しました。ショパンの生家でショパン国際ピリオド楽器コンクールで優勝された Tomasz Ritter さんのコンサートが開催されるとのことで、その時間に合わせて連れて行って下さいました。
演奏者の姿は見えず、外で演奏を聴くスタイル。ショパンの生家から聞こえるピリオド楽器でのショパンのプレリュード。様々な感情やイマジネーションが湧き、そして爽やかな気候も相まって、とても心地のよいコンサートでした。その後はワルシャワへ向かいショパンの心臓が埋められた教会や、ショパン博物館へと行き、ショパンのルーツを巡る素敵な旅でした。その後はワルシャワの旧市街にも行ったのですが、第二次世界大戦中からそのまま残された城壁などが当時のまま残っており、ポーランドの歴史を少しですが感じとることができました。
7日目は Naleczów のメインホールにてコンチェルトのリハーサルと指揮者である Kazimierz 先生との打ち合わせをし、午後はピティナとの zoom インタビューに参加しました。ポーランドでの充実っぷりはそちらの動画でも拝見いただけたかと思います(笑)そして夜は student concert。他の受講生の方とともに、Kazimierz Dolny の市民ホールでのコンサートにて数曲演奏させていただく機会をいただきました。
8日目となる7月26日は聖母マリアの両親、聖ヨアキムと聖アンナの祝日であり、市民ホールでパーティーとコンサートが開催されました。私はアヴェ・マリアのメロディーが後奏に出てくることから、シューマン=リストの献呈を演奏しました。
"アンナの日"ということで、コンサート終了後には私とアンナ先生のために先生方がプレゼントやケーキを買って下さり、温かい気持ちに満ちた、幸せな1日となりました。夜は今回ナウェンチェフ音楽祭にゲスト参加していた Kamil Pacholec(前回ショパン国際ピアノコンクールのファイナリスト)のコンサートを聴きに行きました。
そして 12日目のナウェンチェフ音楽祭最終日。 4名がピアノコンチェルトを演奏し、音楽祭の締め括りとなります。私はショパンのピアノコンチェルト第 1 番を演奏いたしました。ショパンの故郷であるポーランドの地で様々なことを経験してこの作品と向き合い、お世話になった先生と共に、ポーランドの聴衆の前で演奏する事はとても感慨深く、私の記憶に刻まれる経験となりました。10日間で 2 度のリサイタルやオーケストラとの共演、2度のリサイタル。その他にも毎日のようにお客様の前で演奏する機会を用意していただきましたし、レッスン、旅ツアーと、音楽はもちろんの事、ヨーロッパの慣習や歴史、自然など、日本では経験できないことに触れることができました。このような宝物のような貴重な経験をさせていただいき、主宰の Kazimierz 先生と奥様のトモコ先生、様々なサポートをして頂いたピティナの皆様、派遣に際してクラウドファンディングで支援していただいた皆様、三菱UFJ様銀行に大変感謝しております。この経験を糧にますます成長できるよう、これからも精進していきます。