ピティナ調査・研究

南 杏佳さん海外レポート:ポーランド・ナウェンチェフ音楽祭

ポーランド・ナウェンチェフ音楽祭
Summer in Chopin's Homeland 28th International Piano Festival in Poland
南 杏佳さん海外レポート

初めてのポーランド。音楽、街、人々との交流の中で感じた「音楽と平和」を綴ります。

◆ コンサート内容

Kyoka Minami Solo Recitals
July 28,at 19:00 Hotel Energetyk Conference room, Naleczow
July 31,at 16:00 St. Anne Wikarowka hall, Kazimierz Dolny

Kyoka Minami Concerto
August 1, at 16:00 Hotel Energetyk Conference room
Cond&Piano.Kyoka Minami Orch.Lublin Chamber orchestra


1日目

ともこ先生、Kazimierz先生、他の参加者の皆様と空港で合流し、そのままワルシャワ観光へ。聖ヨハネ大聖堂や旧市街市場、16世紀に建てられた要塞など、まるでタイムスリップしたかのような街の美しさに、時差ボケも忘れて楽しみました。ポーランドは第二次世界大戦で大きな被害を受け、街のほとんどが壊滅状態だったそうですが、復興の際に「新しく生まれ変わる」のではなく「昔のままに再建された」と聞きました。様々な国を見てきましたが、今では平和が広がる、安全で美しい街でした。

その後ショパンの生家へ。日本とは違い、7月に咲き誇る紫陽花が綺麗なお庭を歩きながら、家の中も一周してきました。私だけかもしれませんが、著名な作曲家はあまりに有名すぎて、実在していたことを忘れがちになってしまいます。ですが、彼が本当にここで生を受けたんだと実感し、同じ地球に存在していたことに改めて感慨深いものがありました。

バスで2時間ほど走り、今回の音楽祭が開催されているナウェンチュフへ。ワルシャワとは違い、緑に囲まれた小さな街。ともこ先生と初のポーランドビールを交わし、怒涛の1日目は終了しました。


2日目

ルブリン観光の予定が大雨予報で中止に。みんなそれぞれホテルの中にある練習室で練習。私は翌日にリサイタルを控えていたので、ホールのピアノで練習させていただきました。

お昼は、昨晩到着されたばかりのArthur Greene先生とご一緒し、ポーランド名物のピエロギをいただきました!(美味!)Arthur先生は現在アメリカ・ミシガンで教鞭を取られており、ボストンで良くしてもらっているMichael Lewin先生とはジュリアード時代からのお友達だとか。共通の話題で盛り上がり、とっても仲良くなりました(笑)

まだまだひどい時差ボケが続いていたので、お昼寝をしたり練習したり、ゆっくりと過ごす日曜日でした。


3日目

この日は初のポーランドでのリサイタル。ラモー、ブラームス、メンデルスゾーン、そしてシューマンと「ポーランドでショパン弾かんのかーい」と思われそうですがドイツものを中心にしたプログラムを演奏しました。

200席ほどが満席となり、お客様の熱気が直に伝わる環境に、「本当に音楽を愛する、音楽にあふれた街なんだな」と実感しました。曲ごとに大拍手をいただき、終演後にはスタンディングオベーションも。ポーランド語の「ポ」の字も分からない私ですが、お客様の笑顔に感動し、音楽で心がつながるその瞬間に、言葉にできない感動がありました。

2度目のアンコールもいただきましたが、あまりの疲れにそっと鍵盤を閉じてみたところ、ポーランドで笑いを取れました。(やってみたかった!)


4日目

朝からArthur先生のレッスンを受け、「音」への執着心に胸を打たれました。先日のリサイタルで感じたことも一つ一つ丁寧に説明してくださり、終始笑いにあふれた、とても充実した時間でした。
そして夜には彼のリサイタルが。バッハやリスト、ショパンなど幅広い時代の作品を演奏され、どの曲からも作品への実直な愛を感じ、本当に幸せなひとときでした。
「僕はいつまでも新しいレパートリーを増やしていきたい、しんどいけど」とおっしゃる彼に、「新しい曲を舞台で演奏する怖さは、あなたほどの一流のピアニストになっても消えないんですか!」と笑っていました(笑)音楽への愛情を深く感じ、私もこんなピアニストになりたいと思いました。

夜はほぼ全員の参加者でディナーへ。野生肉を扱う珍しいお店で、これまたビールを飲みながらジビエをいただきました。臭みもなく美味しい料理に、ぐっすり眠れました!


5日目

朝からKazimierz先生に運転していただき、彼の別荘があるKazimierz Dolnyのサロンでレッスンを受けました。今回のモーツァルトのコンチェルトは初の「弾き振り」ということで、どのように音楽全体を組み立てていくか、細部までアドバイスをいただき、有意義な時間でした。

その後、近くの小さなサロン「Wikarówka」でStudent Recitalが開催されました。次世代を担う皆さんの演奏に心を打たれ、純粋に「音楽が好きだ!」という想いが伝わる素晴らしい演奏の数々でした。
ホテルに戻ると、本日2度目のStudent Recitalが。昼のコンサートに続いて、別の曲を演奏される方もいて、皆さんのエネルギーに「私も負けていられない!」と気合が入りました。


6日目

この日も朝からKazimierz先生のレッスンを。昨日いただいたアドバイスをもとに、先生にオーケストラパートを弾いていただきながら、弾き振りの練習をしました。
学生時代に副科で指揮は履修していたとはいえ、「人前で指揮をする怖さ」&「自分も演奏する怖さ」にビクビクしていたところ、「大丈夫だよ!できるよ!」と温かい笑顔をくださり、とても安心しました。

その後Wikarówkaへ移動し、約1時間のリサイタルを行いました。先日レッスンを受けたことで、考え方が大きく変わった部分もあり、比較的満足度の高い演奏会となりました。
このサロンは小さい割に残響が多く、小さめのベーゼンドルファーをどのように効果的に使うか、リハーサルで悩みながらも、本番では「音が鳴る瞬間瞬間を味わう意識」を持ったことで、悪い癖である「暴走」もせず、楽しむことができました!

夜にはまたまたStudent Recitalがあり、今回は聴講で参加されていたフルーティストやヴァイオリニストの方の演奏も楽しませていただきました。


7日目

音楽祭最終日はコンチェルトコンサート。朝からオーケストラの皆さんとリハーサルを行い、Kazimierz先生に通訳していただきながら、スムーズに細かい箇所の確認を行いました。
会場にはピアニストの後ろにも席が設けられていましたが、座れないお客様が多数いらっしゃり、立ち見が出るほどの大盛況でした。
私もそんな熱気に助けられながら、人生初の弾き振りを披露し、温かい拍手をいただいて、楽しみながら演奏することができました。

終演後は、音楽祭参加者全員でのレセプションへ。ナウェンチュフ市長の前でいただく、美味しいポーランド料理に少し緊張しつつも、すぐに打ち解けて、気づけば爆食いしながらビール片手に参加者の皆様と楽しく音楽祭を振り返っていました。

今年は比較的参加者が多く、なかなか一人一人とゆっくりお話しする時間が取れませんでしたが、このレセプションでは皆さんとしっかり交流ができ、とても楽しい時間となりました。


8日目

朝から皆さんはそれぞれバスで帰路へ。私はともこ先生とKazimierz先生と共に、先生方の別荘で一晩お世話になりました。

ともこ先生とKazimierz Dolnyの街を散策し(もちろんビール片手に)、さまざまなお話をさせていただきました。本当の娘のように接していただき、楽しくて温かい時間でした。
夜はスーパーで買い物をして、ともこ先生の手料理をいただきました。これまで食べた中で一番美味しいボロネーゼに、白ワインを合わせて、ポーランド最後の夜をゆっくり過ごしました。


9日目

ルブリンへ移動し、先生方に街を案内していただきました(もちろんビール付きで!)アメリカや日本では味わえないような歴史にあふれた、何時間あっても見飽きないくらい素敵な街でした。

夕方に先生方とお別れし、ワルシャワまでバスで移動。旅の疲れもあってか、2時間のバスの中は爆睡でした。
空港へ到着し、時間があったのでお土産コーナーをゆっくり散策。空港内で日本人のピアニストの方もお見かけし、やっぱりここはワルシャワなんだなぁと、旅を振り返っておりました。


おわりに

今回、初めてのポーランドでリサイタルやコンチェルトをさせていただき、自分では気づかないくらい「喧騒の中で生きてきたんだな」と思い知らされました。
ポーランドでは時間がゆっくりと進み、静かで自然あふれる環境の中で1週間を過ごしたことで、心も身体も休まり、音楽だけに囲まれた生活に憧れさえ抱きました。
改めて「自分がどれだけ音楽が好きか」、音楽と生きていくことの幸せ、そして今生きている「平和」が当たり前ではないことを知り、感謝の気持ちにあふれた日々となりました。

今回の経験は、クラウドファンディングによるご支援があってこそ実現できたものであり、心から感謝申し上げます。ご支援くださった皆様、本当にありがとうございました!!

南 杏佳

調査・研究へのご支援