ピティナ調査・研究

特級2021開催記念 スペシャルインタビュー第1弾 二ノ宮知子先生(漫画家)

ピティナ特級2021開催記念スペシャルインタビュー
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『のだめカンタービレ』作者
二ノ宮知子先生(漫画家)

2001年に発表され、多くの読者をクラシック音楽の世界に導いた名作「のだめカンタービレ」。主人公、野田恵「のだめ」を中心に、音楽に打ち込む若者たちの悲喜こもごもの日々を生き生きと描き、漫画・アニメ・実写ドラマ・映画と、空前のブームを巻き起こしました。
2021年度「特級」開催にあたり、なんとその二ノ宮知子先生のスペシャル・インタビューが実現しました。あの頃「のだめ」にのめりこんだ方も、「のだめ」をきっかけにピアノを始めた方も、そしてこれから「のだめ」に出会う方も、ぜひお楽しみください。

聞き手・構成:堀内菜々子・加藤哲礼(ピティナ広報部)
協力:講談社
二ノ宮知子先生プロフィール
二ノ宮知子先生
2004年、『のだめカンタービレ』で第28回講談社漫画少女部門を受賞。同作はテレビドラマ・アニメ・映画化され、国民的人気を博している。現在は「Kiss」(講談社)にて『七つ屋 志のぶの宝石匣』を連載中。その他作品に『GREEN』『トレンドの女王ミホ』等。
「むき出しの才能」と「自由さ」を持ったピアニスト

今日は大変貴重な機会をいただきありがとうございます。早速ですが、「のだめ」が誕生した経緯から教えてください。

実は、私自身はいまだにちゃんと楽譜も読めないのですが、音楽を聴くのはずっと好きでした。締切間近になるとピアノが聞きたくなったり、朝はバッハが聞きたくなったり、その時々でよく聞いています。

「のだめ」にはモデルとなった方がいるんです。「リアルのだめ」ちゃんは音大生で、私の作品のファンが集まるネットの掲示板にいらしていたんですが、ある日、ファン同士が交流した写真をアップしていて、見たらグランドピアノのまわりにゴミらしきものが散らかっていて!(笑)私の中で「ピアノを習って音大に行く人は、洋館に住むお嬢様みたいな人だろう」という勝手なイメージが一気に吹き飛びました。それで、こんな人をモデルに作品を描いてみたいと思ったんです。

全てはこの部屋から始まった
(「のだめカンタービレ」第1巻32,33ページより)

すぐに音楽大学に取材に行って、実際に通っている学生さんたちにお会いしたら、そこにはピアノだけではなく、ヴァイオリンやティンパニをやっている人たちもいて、他の楽器のことを考えてもいなかったけれど一緒に学んでいる雰囲気がとても魅力的で、それで色々な楽器のキャラクターや、果てはオーケストラや指揮者まで登場させようということになりました。

音楽大学の仲間たち
(「のだめカンタービレ」第2巻94,95ページより)

色々な楽器を勉強し、演奏している登場人物たちが、それぞれに本当に魅力的でした。描いていくうえでの難しさやご苦労もあったのではないでしょうか?

ストーリーの最初での、のだめのキャラクターは、プロになることには興味はなくて、ただ楽しく音楽をし、楽しい音楽を子供たちにも教えたいみたいな子でしたから、プロを目指して本格的に勉強している千秋みたいな人とどう絡めていくのかを考えるのが大変でした。主人公(のだめ)が恋した相手が、たまたまプロを目指していて、いつかどこか遠くへ行ってしまいそうな人(千秋)、それに引っ張られてのだめ自身も、という物語だったのですが、最後には、千秋のほうがのだめを引っ張るために出会ったのかな、と私自身が感じるようになっていました。

「上を目指す」ってどういうこと?
(「のだめカンタービレ」第6巻30ページより)

のだめの「むき出しの才能」と「自由さ」。クラシックの<本流>にある人たちが、のだめの自由さに惹かれる様子、才能が突出している子への嫉妬、それでいて育てたいという気持ち。時には千秋だけでなく、ミルヒーの立場になってみたり、漫画の世界に置き換えたりしてみながら、どうすればのだめのような子が成長していくのか、考えながら描いていました。

クラシック音楽の演奏家も漫画家も、<才能>というキーワードが出てくる世界という意味で共通するところはあるかもしれません。先生は「才能」ということについては、どのようにお考えですか?

「才能」といっても色々な意味があると思います。たとえば、時々「うちの子は漫画家になれますか?」と聞かれることがありますけれど、そういうとき私は「お子さん、1日じゅう椅子に座っていられます?」って聞き返します(笑)。上手な絵を描くことができることもひとつの能力だけど、「何かに夢中になってずっと続けていられる」ことも才能だと思います。ピアノや音楽も同じなんでしょうね。最終的には、本人しだいなのかなと思います。私の場合は、小さなころから「絵を描くことが好き」というのがずっと変わらなくて、漫画家になりたいなという思いは早いうちからありました。

お子様がピアノを習っていると伺いました。「のだめ」(単行本4巻)にも、小学生時代、のだめ自身が受けたリカちゃん先生のレッスンの様子も描写されます。ピアノを習っている様子を見ていて、いかがですか?

そう、実は子供がピティナのイベントにも参加させていただいたこともあるんです。お世話になっています(笑)。
のだめとリカちゃん先生のレッスンは、ピアノ教室をなさっている先生のお話などを取材して描きましたが、改めて子供をピアノ教室に通わせてみると、ピアノの先生ってホントにすごいなぁと思います。ふだんは自分の子供のレッスンの様子しか分かりませんが、発表会などで集まってみると、「これだけの生徒さんを、それぞれの個性に合わせて教えていくのは大変なことだな~」と感慨深いものがあります。
私も夫も音楽が好きで、子供にも「楽譜が読めて、自分を表現する手段がひとつ増えるといいな」という気持ちでピアノを習わせましたが、子供たちも楽しそうで、習わせてよかったなと思っています。もう中学生になりましたが、コンクールにも自分で出たいと言って、小さなコンクールに参加したりしています。親戚のお子さんが金賞や銀賞を取っているのを見て「自分も取ってみたい!」とは言うんですが、よくその練習量で言いますね、と思いながら見ています(笑)。出るのが楽しいようですよ。

のだめの幼少期を描いた「リカちゃん先生の楽しいバイエル」
(「のだめカンタービレ」第4巻167ページより)
「ピアノコンクール」を描くということ

「コンクール」というと、学習者向けのものから、のだめや登場人物たちも挑戦する専門家向けのコンクールまで色々なものがあります。のだめたちがチャレンジするような「コンクール」の世界について、どのように描きたかったのでしょうか?

いろいろな意味があると思いますが、腕試しでもあり、そして若い人たちにとっては、自分が表に出ていくためのチャンスでしょうね。コンクールのシーンを描いていると、1位、2位を決めて、落ちてしまう人もいて、「私はこの子の演奏がすごく好きだけど、コンクールでは一般的ではないのだろうな~」などと考えてしまって、なかなか難しかったですね。実際にコンクールの現場には足を運べなかったのですが、映像などで取材しながら、たくさんの「ドラマ」があるなと感じていて、そこを描きたいなと思っていました。

コンクールには波乱がつきもの
(「のだめカンタービレ」第7巻144ページより)

コンクールのシーンでは、選曲なども本格的でした。先生がお考えになったのですか?

音楽大学の先生から「テレビドラマの中のコンクールで弾いているような曲は、実際のコンクールでは弾かれないのよね」というお話を伺ったこともあって、では「実際に弾きそうな曲」で描いてみようと思ったんです。音大の先生や作曲家の方などにも相談しながら、決めていきました。
マラドーナ・コンクールの1次予選では、シューベルトの16番のソナタを弾きます。地味だけど聞けば聞くほどクセになる1曲なんですが、後でドラマ版の制作の方々は「なぜこの曲・・」と困った顔をされてました(笑)。

「自分の話ばかりしていないで、相手の話もちゃんと聞け!」
(「のだめカンタービレ」第8巻123ページより)

3次予選のドビュッシー「喜びの島」は、私自身フランス物が大好きなので、嬉々として描きました。のだめちゃんは、テクニックもある設定ですが、それだけで「すごい!」というようにはしたくなかったですし、漫画では音が鳴りませんから、読んでいる方に感情移入してもらうためにはどうしたらよいか、色々な工夫をしました。ピアノを弾けるアシスタントの子に聞いたり、弾いている姿を写真に撮ってみたりしながら、手探りで描き進めていきました。音楽のこの盛り上がりをどう描こうかと、時にはスコアを見てみたり。漫画であっても、その音楽に共感してもらえて、「この曲、実際に聞いてみたいな」と思っていただけていたら嬉しいです。

まさに、のだめたちの演奏で「この曲、聴いてみたい!」と何度も思わされました。さて、ピティナの特級ファイナルは、4人のピアノ協奏曲の競演のコンクールです。二ノ宮先生は、ピアノコンチェルトでお好きな作品はありますか?

私は、ラヴェルのコンチェルトが好きなんです。特に第2楽章。サンソン・フランソワの演奏をよく聴いています。もちろん他の作曲家だと、他のピアニストも聴きますが、ラヴェルに関しては、フランソワが多いかな~。

「のだめ絶対あの曲を先輩とやりたいです!」
(「のだめカンタービレ」第20巻76ページより)

そうなんですね!確かにフランソワのラヴェルは、どこかのだめに通じるような感じがしますね。ラヴェルのコンチェルトは作品中にも登場はしますが、でも、主人公ののだめには弾かせなかったですよね。そこにはどんな意味があったのでしょう?

好きな曲をそう簡単に弾かせるわけにはいかないなと思っていました。ストーリーにしても、千秋とのだめのコンチェルト共演が実現したらよかったのに、と言っていただくこともありましたけれど、ふたりとも若くてまだまだ発展途上ですから、「完成しないでいてほしいな」と思いましたし、私も作者として、ふたりを最後まで満足させるわけにはいかないぞと考えていました(笑)。「まだ終わった気がしない、この先があるんじゃないかな?」という感じもいいかな~と思っているんです。

新たな「のだめ世代」へのメッセージ

「のだめカンタービレ」の連載開始が2001年ですから、今年ちょうど20年という節目です。その間、多くの方に読まれ、影響を与え、この作品をきっかけに音楽の道を志す人もたくさんいました。ピティナ「特級」に参加するような方々と話していても、愛読者は多いです。今、改めてどんなお気持ちですか?

もうそんなに経ったのかと驚きますね。20年経って、最近はライブ配信のコンサートやYouTubeもありますし、Zoomで世界中の人たちと簡単につながれる時代ですから、今の子供たちとは感覚が違うのかな~と思うこともありますが、それでも、「のだめを読んでいました、見ていました」という音楽家・ピアニストの方たちとお仕事でお会いしたりすると、本当に嬉しく、不思議な気持ちがします。ありがたいことですね。

20年を記念して、まもなく新装版が刊行されると伺っています。新版の見どころを教えてください。

まだ詳しくは言えないんですが(笑)、今回のための描き下ろしも入れて、昔から読んでくださっている方にも新たに楽しんでいただけるように考えています。そこは、出てみてのお楽しみ!

最後に、ピアノを学ぶ方々に向けてメッセージをお願いします。

「のだめカンタービレ」によって、全国にたくさんの「リアルのだめちゃん」が生まれたことを聞いて、本当に嬉しかったです。20周年を機に新装版も出ますので、あらためてこの漫画を読んでいただき、「音楽って楽しいな」と思って、どんどんピアノを楽しんで上手になっていただけたら嬉しいです。ぜひ頑張っていただきたいと思います。

今日は本当にありがとうございました。

◆『のだめ』新装版情報

『のだめカンタービレ 新装版』第1巻が9月13日(月)に発売決定! 
全13巻で、毎月1冊ずつ発売予定。

  • ちょっと大きめのB6サイズ
  • 描き下ろし漫画も続々追加!

各書店にて、予約受付中!

新装版表紙
1巻の表紙イラストはこちら!
◆公式Twitter
のだめカンタービレ【公式】
(@Nodame_Official)
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