ピティナ調査・研究

映画『サイレントラブ』劇中曲紹介

サイレントラブ
2024年1月26日(金) 全国ロードショー
映画公式ページ

声を捨てた青年と光を失った音大生の物語。
久石譲によるオリジナル曲とともに、音楽大学の旧講堂で奏でられるピアノ曲が作品を彩ります。
静かに紡がれる、ピアノ曲の数々をピティナ・ピアノ曲事典の解説・演奏動画とともにご紹介いたします。

Introduction

世界でいちばん静かなラブストーリー

声を捨てた青年と光を失った音大生〈夢を持てない彼〉がすべてをかけたのは〈彼女の夢〉を叶えること

声を発しない青年・蒼が出会ったのは、交通事故で目が不自由になり、ピアニストになる夢が途絶えそうな音大生の少女・美夏。ある事件をきっかけに「自分には夢をみる資格はない」と自らを責める蒼は、美夏の夢を叶えることに初めての希望を見いだしてゆく。
「YESなら1回、NOなら2回、私の手の甲を叩いて」それが、蒼の気持ちを知るために美夏が提案してくれた〈会話〉だった。初めて触れた美夏の手の温かさが、蒼の凍えた心をとかしていく。やがて蒼に深い信頼を寄せるようになった美夏は、「私にとってあなたの手は神の手。いつもこの手が助けてくれた」と感謝を伝える。美夏のその言葉は、暗闇にいた蒼に一瞬だけ灯をともす。
だが、蒼にはわかっていた。「本当の自分の手は、ずっと前から汚れている」と。今はただ、君を傷つけるすべてのものから守りたい。君が心に光を取り戻すその時まで─そんな蒼の願いは、思わぬ運命とぶつかり合う─。

映画公開記念!オリジナル「ホットリサイクルカイロ」を5名様にプレゼント

ピアニストたちの必需品「ホットカイロ」が、映画オリジナルグッズとして登場(非売品)。ピティナ・プレゼントコーナーにて、抽選で5名の方へプレゼントいたします。普段の楽器練習前に、大切な本番前に、その暖かな温もりが必要な瞬間にぜひご活用ください。
※受付は終了しました。

応募受付期間:1/25 17:00~2/1 16:59
劇中曲のご紹介

物語を静かに彩る、旧講堂で演奏されたクラシックの名曲の数々を、楽曲解説とともにフルバージョンでお届けします。

リスト :愛の夢-3つのノクターン S.541 R.211

この曲はフランツ・リスト(1811-1886)が書いたソプラノのための独唱歌曲を、自身の手でピアノ編曲したものです。作中で奏でられるのは第3番 変イ長調。ピアノ作品の中でも大変ポピュラーな曲のひとつで、一度は映画やドラマなどでも耳にしたことがあるのではないでしょうか。「O lieb, so lang du lieben kannst!(おお、愛しうる限り愛せ )」から始まる愛の賛歌を優美に、そして語り掛けるようにピアノが歌います。どこか儚げで、しかし永遠のようにも感じられるハーモニーは、フラジャイルな若者たちの夢や心、そして映画の根底に在る純粋で献身的な愛を象徴しているようにも感じられます。

ベートーヴェン :ピアノ・ソナタ 第8番「悲愴」 ハ短調 Op.13 第3楽章

「月光」「熱情」と並び「ベートーヴェンの三大ピアノソナタ」と称される作品。ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(1770-1827)が難聴を自覚しはじめた苦難の時期に完成されたものとされています。曲の持つ力強さや凛とした美しさは出版当時から人気を博し、時代を越えて今も人々の心を震わせ続けています。
作中では、第3楽章の冒頭フレーズが印象的に用いられており、不穏の暗示や、登場人物の抱える靄のかかったような先行きの見えない不安や焦燥感、切迫感からくる苛立ちや葛藤などを感じ取ることができるのではないかと思います。

ショパン :ポロネーズ第6番 「英雄」 変イ長調 Op.53

39年の生涯で「子犬のワルツ」「革命のエチュード」などを多くの名曲を生んだフレデリック・ショパン(1810-1849)の最高傑作のひとつにも数えられる作品です。ベートーヴェンの交響曲「英雄」と区別するため「英雄ポロネーズ」とも。本人がつけたタイトルではないとされていますが、聴けば誰もが堂々とした英雄の姿を思い浮かべずにはいられない壮麗な曲です。
ところで、音楽は元来、奏者の心を映す鏡のような一面を持っているように感じたことはありませんか。映画を鑑賞の際には、是非この曲を通して登場人物の心の内に触れてみてください。台詞で語られない複雑な心情を、きっとピアノが伝えてくれるでしょう。

ラヴェル :ソナチネ 嬰ヘ短調

「ボレロ」や「亡き王女のためのパヴァーヌ」「夜のガスパール」など数々の名曲を世に残したモーリス・ラヴェル(1875-1937)の作品です。演奏時間11分ほどの作品ながら、ラヴェルの繊細かつ流麗な色彩美を余すところなく堪能できる完成度の高い曲として高く評価されています。作中では第1楽章の中から演奏され、ドラマティックで可憐なメロディが、登場人物たちの生きる希望や理由、淡い恋の始まりを予感させ、心と体の奥から次第に色づくようなばら色の頬を思わせます。
作中に演奏される他の5曲のようにまでは知られていない曲を組み込んだこだわりも感じられます。この曲があることで、これらのピアノ曲が単なる有名曲メドレーではなく、台詞の少ない作品の中で登場人物たちの心理描写や語り部として重要な役割を果たしていることが分かります。

ドビュッシー :ベルガマスク組曲 月の光

クロード・ドビュッシー(1862-1918)は、この曲をフランスの詩人ポール・ヴェルレーヌの詩から着想を得て作曲しました。詩にはこんな一節が。
「Tristes sous leurs déguisements fantasques.(彼らの空想的な仮装の下で悲しい)」
「Au calme clair de lune triste et beau,Qui fait rêver les oiseaux dans les arbres(静かな月明かりの中、悲しくも美しく、木々の中で鳥に夢を見させるのは誰だ)」
ピアニッシモで静かに柔らかく奏でられる旋律に包まれながら、安心感とは逆の綱渡りのような刹那の感傷も同時におこるのは、音の魔術師と称されるドビュッシーがかけた魔法によるもので、8分の9拍子もそのひとつ。曲の持つ恋の美しさ尊さと醜さ悲しさが表裏一体となって登場人物たちに降り注ぎます。

モーツァルト :フランスの歌 「ああ、お母さん聞いて」による12の変奏曲(きらきら星変奏曲) ハ長調 K.265 K6.300e

この曲は、18世紀末にフランスで流行していた民謡をヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-1791)が変奏曲にしたものです。この民謡は日本でも「きらきら星」として大変有名で、変奏されながら慣れ親しんだフレーズが繰り返されます。
はじめはシンプルな元のメロディで、徐々にリズムが変わり、多声的になり、音域も広がって、奥深く大きな音楽へと変化してゆきます。モーツァルトならではの子供のように無邪気な音型が映画の場面を「きらきらと」明るくします。しかしモーツァルトの音楽が光り輝くほど、彼の活躍を疎ましく思った当時の音楽界には暗い影が落とされたこともあったようです。作中でも「月の光」に続き「きらきら星変奏曲」にも光と影の役割を持たせています。

ページ内楽曲解説:寿すばる


オリジナル楽曲は内田英治監督が熱望し念願成就した久石譲 氏が手掛けています。そしてテーマ曲「Silent」の演奏は、ピアニスト・角野隼斗さんがピアノ演奏をされるという奇跡のタッグが実現しました。

角野隼斗さんコメント(公式より)

久石さんは自分が幼いころから大好きな作曲家でしたので、オファーをいただいて純粋にとても驚きましたし、とても嬉しかったです。久石さんの作品の世界観を崩さないことに徹しようとしていたのですが、角野くんらしさを出してもらって良いよと言ってくださり、特に中盤の軽やかな部分は自由に演奏しました。美夏がこのテーマ曲を演奏をするシーンでは、シンプルな旋律の中に秘めた確固たる彼女の決意のようなものを感じました。自分がピアニストとして生きていくことを決めた時の心境とも重なり、胸が熱くなりました。関わることができて光栄です。

ピアノとガムランボールの音色に導かれ、声を捨てた青年と、光を失った音大生の密やかな情熱が交差する、世界でいちばん静かなラブストーリーをぜひ劇場でお楽しみください。

作品情報
出演 山田涼介 浜辺美波
野村周平/吉村界人 SWAY 中島歩 円井わん
辰巳琢郎/古田新太
原案・脚本・監督 内田英治
共同脚本 まなべゆきこ
音楽 久石譲
主題歌 「ナハトムジーク」Mrs. GREEN APPLE(ユニバーサル ミュージック / EMI Records)
配給 ギャガ
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