第19回 マズルカ第20番(4つのマズルカ Op.30より 第3曲 変ニ長調)

哀しく憂鬱な前半の2曲とは対照的に、第3曲には力強さ漲る符点リズムが印象的なマズールが置かれています。しかし16小節単位で場面や表情が移り変わり、強弱の幅の広さ、そして調性、リズムやハーモニーがヴァリエーション豊かに変化していく様が非常に魅力的な作品です。
鐘の音のように大きく鳴り響く属音は、エネルギッシュな踊りの始まりの合図でしょうか。序奏の後半で弾みをつけると、いよいよマズールが始まります。「タンッタ タン タン」というリズムが全体を支配する16小節間 [A]。堂々とした大きなエネルギーは低音から大胆に跳躍する左手からも生まれてきますが、これがショパンらしからぬ大きさ...彼の別の一面を見るようでもあり、何かを取り繕った仮の姿のようにも思えます。するとフレーズの一部がフォルティッシモの長調とピアニッシモの同主短調を何度も行き来し始め、ショパンの心理的な摩擦が映し出される場面がやってきます。ピアニッシモの中に響く H♭♭は非常に儚く、触れてはならない彼の心の痛みを見るようで印象的ですし、ピアノに向かってそれを吐露する姿こそショパンであると筆者は思うのです。やはり彼の音楽の魅力は、このように哀しくも美しい音色のうつろいにあるのではないでしょうか。
その後も、ショパンはピアノの前で霊感に導かれるかのようにうつろい続けます。クーヤヴィアクが半音ずれた調性(Ces-durとB-dur)を物憂げに行き来したり([B] 25~40小節)、マズールがf-mollから怪しげに再開し、3度転調を繰り返して上昇したり([C] 41~56小節)。この曲の中で最もロマンティックな広がりを持つ場面となるのがこの後([D] 5~72小節)、次第に熱を帯びたメロディーが6度の重音となって主調と平行調で濃厚に歌い上げます。
音楽に命を注ぐショパンが人生において日々感じていたであろう「光と影」。彼の音楽ではそのコントラストがくっきりと表現されるほどに「影」の部分が浮き彫りになり、聴く者は心を揺さぶられます。

