ピティナ調査・研究

第11回 マズルカ第12番(4つのマズルカ Op.17より 第3曲 変イ長調

マズルカを味わう
第11回 マズルカ第12番
4つのマズルカ Op.17
第3曲 変イ長調

セピア色、儚さ、孤独、さまよい・・・Op.17の後半は、確信と情熱にあふれた前半(第1、2曲)とはあまりにも対照的なムードになります。
1832年2月26日、混乱の続くパリ、プレイエルのサロンで行われたショパンの演奏会は大成功に終わりました。その作品と演奏(協奏曲第2番、ラ・チ・ダレム変奏曲)は、「はじめの音から、控えめで慎ましい魂の持つおどろくほど高貴な資質を感じた(リスト)」「ショパン氏の霊感の中には形式の革新があり、これはおそらく、ピアノという楽器のために書かれる作品の将来のあり方に対して深い影響を与えるだろう」などの言葉で、専門家に絶賛されます。一躍サロンの寵児となり生活が一変したショパンは、しかし、友人に宛てた手紙で次のようにこぼします。

進むべき道も自他共に認められるようになったが、まだ自分がその理想から程遠いところにいることを思い知った。行動や身につけるものは洗練されていなければならない。しかし上流階級や偉大な芸術家の中にいて、本来の自分の性格がどんなものかわからなくなってしまいそう・・・

Legato assaiと書かれたこの第3曲で浮き彫りになるのは、ピアノの前で自分自身と対話し内へ内へと入っていく青年ショパンの姿です。冒頭のメロディーで何度も繰り返される「ド・シ・ラ」、またそれに寄り添う和声(属9和音 - I度)構成音の「ファ・ミ」、並べると民族調の香り漂うこの5つの音が作品の核となっています。まるでため息交じりの独り言のようなこれらの音はクーヤヴィアク風マズールのリズムを持ち、臨時記号の付加によって鍵盤上でさまよいます。そして右手左手のいたるところに散りばめられ呼応し合いますが、発展していくことはありません。エンハーモニック(異名同音)でホ長調に転じた中間部、音楽が高揚していこうとするその熱も「ド・シ・ラ」の軽やかな渦の中に消え、さらに3連符の音階となって楽しげなオベレクに変化します。そのオベレクの伴奏に5つの音が使われていることも、彼の遊び心のひとつでしょうか。騒がしい社交界から離れて静かにピアノに対峙し、霊感に導かれてファンタジーの世界へ、音と一緒に戯れ始め夢中になっていくショパン。クライマックスも解決もなく、ただ音が漂っていることが美しい音楽です。

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