ピティナ調査・研究

シンフォニア第6番

シンフォニア探求
シンフォニア第6番

はじめに

石井なをみ

トリオソナタ風に書かれた舞曲的な曲です。8分の9拍子という複合拍子で出来ています。時々ヘミオラも出てきますので、その拍節感(ビート)を感じる事が大切です。 通奏低音的な発想の元、ハーモニックに調和して響くといいですね。

コラム

上田泰史

第6番の最大のポイントは、コーダにおける「期待の裏切り」という幻想曲風の身振りです。主題は順次進行で上昇する喜びの情緒を喚起する主題とシンプルな書法を基調とします。歌唱的な旋律ですが、8分の9拍子で舞踏的な性格も備えているので、ジーグ風に急速なテンポで弾く解釈もじゅうぶんに可能です。それでは、冒頭から特徴を見ていきましょう。

冒頭は、《シンフォニア》の典型的な方法により、主調による主題提示と属調による応答で幕を開けます。第10小節までは常に主題がいずれかの声部で聞こえ、他の2声部は繋留をうまく使って(第3~5小節、第7~8小節)、和声的な推進力を生み出しています(第1番の第3小節にも同様の繋留音の活用が見られます)。

第11小節からはトッカータ風の下行分散和音による模倣です。ここから、右手のgisから第15小節の左手eまで、3オクターヴと3度、一気に下行します。その後、主題の反行形(第17小節)を合図に属調上のカデンツで前半が締めくくられます(第18小節)。

後半(第18小節~)は、主題が折り重なるように今度は低音域から高音域へと上り、第22小節で上声部が最高音aに達して主題を奏でる時、低声部も主題の反行形を聴かせます。主題とその反行形が天と地のように両極を形づくると、第22小節から第26小節にかけて主題の反行形が展開されます。第27~28小節小節には少し面白い操作が見られます。この部分では主題を構成する①、②、③の要素(譜例1)が、②、③、①(譜例2)のように置き換えられ、最小限の素材によって新たな展開が導かれていることがわかります。

譜例1
譜例2

さて、第6番の修辞学的な醍醐味は第30小節以降に凝縮されています。第2部冒頭(第18小節)と同様、主題は低声部から次第に高音域へと移ります。しかし、第34小節で予期せぬ「事件」が起こります。突然の休止です。しかも、休止する際の和音は、根音を欠いた属7第3転回形というきわめて不安定な和音です(減3和音)。これだけでも「期待に反する」進行ですが、その印象をさらに強めているのが、旋律動向です。第33小節の第9拍にあるaは第7音なので、当然、gisへの解決が期待されます。ところが、再び7の和音がくるので、声部の配置転換が生じます。このとき、問題のaはdisに進行し、「音楽の悪魔」と呼ばれていた増4度が聞こえます(青い矢印)。そして、音楽は中断されます。聴き手の驚いた顔を想像して、バッハが悪戯っぽい笑みを浮かべているようです。再び主題(中声部)とその反行形(上声部)が始まりますが、中声部の主題はまたもやgisに解決できず、gへとはぐらかされてしまいます。

譜例4

第38小節では、はじめて16分音符が現れ、それまでのリズムパターンを乱しながら、この曲の最高音(h)へと昇っていきます。hに到達すると、それまで反行形と組み合わされていた主題が、どちらも元の形で、6度で重ねられます。天と地の隔たりは解消され、主題は幸福な調和の中で手を取り合います。最後の2小節は、前半に出てきたトッカータ風の音型が不意に現れ、終止形へと導きます。

最後の12小節に見られる予期せぬ身振りは、のちにJ. S. バッハの次男、カール・フィリップ・エマヌエルが豊かな実例を生み出した幻想曲(ファンタジー)の様式をはっきりと示しています。あたかもその瞬間に思いついたかのような即興的な身振りを楽譜に記すことで聴き手の注意を引くのは、幻想曲というジャンルの特徴です。このようなレトリックは、他のジャンルでも用いられます。有名な例の一つは、ハイドンの「ジョーク」という愛称で親しまれる《弦楽四重奏曲》作品33-2です。この愛称は、楽曲の終わりをはぐらかす最終楽章に由来します。アリエル弦楽四重奏団の演奏では、奏者の演技も功を奏して、聴き手は見事に期待を裏切られ、会場は笑いに包まれます。

Ariel Quartet - Haydn: Quartet in E-flat major, Op. 33 No. 2, "Joke"
シンフォニア第6番をよく理解するための「練習問題」

橋本彩

問題
8分の9拍子は大きな何拍子ですか?
この曲の最低音を探しましょう。
譜例部分で転調のきっかけとなっている音を探しましょう。
第8小節~
背景色がかわっている部分のように、3拍子2小節の中に2拍子が入ることを何というでしょう?
○印部分の音程を答えましょう。
第27小節~
答え
大きな3拍子
第40小節~のH音
この曲は全体的に高めの音で作られています。低音があまり出てきません。
第40小節
楽譜参照(○がついた音が、c mollの「導音」です。)
ヘミオラ
減8度
半音上がるのではなく、減8度下がることで、低音を出しています。
J.S. バッハ / シンフォニア第6番 和音譜

山中麻鈴

1.両手で全て和音にしたもの
2.右手は和音、左手は1番下の旋律をそのまま弾く
3.左手は和音、右手は1番上の旋律をそのまま弾く
  • 楽譜は一例です
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