シンフォニア第12番
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石井なをみ
12番はフーガ的書法で書かれており、演奏技術的にもとても難しい曲です。左手にはチェルニー30番の13番のようなテクニックも出てきます。
長い音符も度々出てきますが、伸ばしている間その音をよく聴き続けないとなかなか多声には聴こえません。
ゼクエンツの扱いも工夫しながら、軽やかな音で歌えるといいですね。
上田泰史
全15曲の中でもとりわけ明るく、喜ばしい情緒に満ちた楽曲です。しかし、その中にも随所に短旋法の陰りが散りばめられており、ドラマを作り出しています。
冒頭からフーガ風の書法で、イ長調による主題提示のあと、属調(ホ長調)での応答があります。第1番(ハ長調)と同様、フーガ演奏の予備的練習ではありますが、第1番のように「逃げる」という含意はあまり読み取ることができません。この印象は、行進曲のようなリズムに起因しています。冒頭の主題を構成するのは第1番のように駆け出すような16分音符ではなく、反復的な長短短のリズム(ダクテュロス)を特徴とし、軽快な8分音符によるバスがこの主題を伴奏します。
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この主題のもう一つの特徴は、第2小節の右手1・2拍目を構成するジグザグ音形です。この音型は、1声部でありながら一時的に2声部に聴かせ、主題を豊かに立体的に響かせています。
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主題が上声部(主調)→中声部(属調)→下声部(主調)→上声部(属調)の順で提示され応答された後、トニックとドミナントの交替による調的対比は放棄されます。第9小節からは、それに代わって長短旋法による対比が打ち出されていきます。第9~14小節にかけて、上の譜例のaとbのモチーフがそれぞれ右手と左手に配置され、嬰ヘ短調の下行ゼクエンツを形作ります(左手の擬似的な2声部のうち、バスが順次下行のカタバシスを聴かせています)。冒頭の陽気さから一転して、深刻さが漂います。第13・14小節で、嬰ヘ短調の属音ペダルが1小節半にわたって響きますが、嬰ヘ短調の主和音に解決することなく、続けざまに主題が嬰ヘ短調に姿を変えて現れます。第17小節から再びゼクエンツが始まり、経過的にイ長調・ホ長調が響きますが、このとき、バスは今度はH→C(第17小節)→Dis→E(第18小節)へと、今度は上行し(アナバシス。最上声も順次上行します)、イ長調の明るさの中に、先ほどまでの深刻さが溶け込みます。
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イ短調のドミナント・ペダル(第18・19小節下声部E音)、第21~23小節のゼクエンツを経て、最後に第24小節から主題が主調で下声部に現れます。今度は近接した模倣で、主題が終わらないうちに主題が上声部に現れます。ゼクエンツを経て第28~30小節の属音ペダル(E)上でさらにゼクエンツが継続されます。第29小節で上声部はA音まで舞い上がり夢見心地で順次下行していきます。この心地よいゼクエンツがまだ続くだろうと思われたその時、第30小節4拍目でIVの準固有和音が響き、断ち切られた夢のようにカデンツが訪れ、行進曲風の付点リズムで曲が閉じられます。
橋本彩
【並行に動いている ・ 反行している】
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フーガではこのようにテーマを属調で受ける(応答する)ことが多いです。
ここで音楽的な広がりを感じることができます。
ここはfis moll(主調の平行調)の部分です。バスパートがfis mollの属音(ド#)で伸びています。
その前から平行調(fis moll)に転調していますが、第15小節からバスパートにテーマが出てきます。
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山中麻鈴
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