シンフォニア第14番
石井なをみ
14番の特徴はなんといっても 「ストレッタ」 が多く用いられていることです。 春が来た喜びを表すような変ロ長調で始まります。が、ストレッタの技法を用いて、主題が次から次へと転調しながら表れます。緊張感を持って対話しながら、尚且つ調和出来るよう、立体的に構築出来るといいですね。
上田泰史
これまで見てきた《シンフォニア》の楽曲では、フーガ風の模倣で始まる曲が多くありました。この曲も、中声部に始まる主題が上声部で応答されることによって始まります。しかし、これまでのフーガ風の曲とは異なり、第14番では主題とそのモチーフがいたるところに現れます。
この曲で重要なのは、「ストレッタ」です。図の第1部では、主題(Th.)が、全体が示されてから応答されています。しかし、第2部・第3部では少し様相が異なり、主題同士が重なり合っているところがあります。このように、主題が完結しないうちに他の声部に主題が畳み掛けるように現れる部分のことをストレッタと呼びます。第12・13小節および第17・18小節、第20・21にストレッタが見られ、とくに第17小節では、中声部が上声部に半拍遅れで入る近接したストレッタを形づくっています(譜例の2小節目)。
ストレッタは、模範的なフーガの形式においては主題提示部と主題による自由な展開をする嬉遊部が終わった後に置かれ、音楽的密度の高さから切迫感が高まる部分です。バッハのストレッタの妙は、《平均律ピアノ曲集》第1巻第1番ハ長調のフーガにも見ることができます。次の譜例の第14小節(上段2小節目)からストレッタが始まり、すべての声部で主題が次々に現れます。
ストレッタは、その切迫した効果からさまざまな意味を持ち得ますが、キリスト教の讃歌であれば、神や聖母マリアを褒め称える言葉がこだましながら世界に響き渡るような、空間的な広がりを演出することができます。下の譜例(リダクション譜)は、クラウディオ・モンテヴェルディ(1567~1643)による《聖母マリアの夕べの祈り》から7声部で歌われる頌栄〈初めのように今もいつも世々に。アーメン。Sicut erat in principioa〉の終結部(「アーメン」が歌われる箇所)です。
(譜例出典:Claudio Monteverdi, Vespro della Beata Vergine, Vienna, Universal Edition, 1949. Plate U.E. 11954.)
このように理解すると、生き生きとしたリズムの主題が響き合うように現れ、ストレッタを形作る第14番は、讃美の言葉をはっきりと述べるような、讃美の音楽に聴こえてこないでしょうか。
橋本彩
山中麻鈴
- 楽譜は一例です