シンフォニア第10番
石井なをみ
フーガ風の小品です。
ト長調の明るく喜ばしい調で始まりますが、途中短調に転調することで、曲の表情が変化します。同じテーマでも調性によって異なる表現が出来るといいですね。
上田泰史
威厳あるヘ長調の第8番と同じく長調ですが、第10番は明るく開けた平野のように広々とした感じがします。それは、第1番ハ長調のように、順次進行によるなめらかな旋律が主題に使われているからです。加えて、16分音符の動きが各声部で顔をだすので、複数の人々がせわしなくおしゃべりをしているようでもあります。
この曲でもやはり主題はフーガ風に応答されますが、第5小節目以降はフーガらしい厳格さはなく、むしろ機械的とも言えるほど簡明に作られています。その印象は、ゼクエンツを多用しているところから来ています。形式図を見てみましょう。
全体は全終止で区切られる3部からなり、各部では主題の提示を2、3回提示したのち4、5小節にわたるゼクエンツが続きます。ゼクエンツとは、同じ旋律・和声の型を、異なる音程で立て続けに反復する書法(反復進行)のことを指します。33小節あるうちの14小節(全体の半分弱)が反復進行で占められているわけですから、どこか機械的な印象が残るのでしょう。
とはいえ、面白みに欠けるわけではありません。冒頭4小節間はバスがついていますが、これは冒頭だけ現れる通奏低音です。第5、6小節では、終止感を2度、強く打ち出したこのバスが消えて、主題が風に舞い天に登るような無重力感を演出しています。第7小節でようやく下声部に主題が出たと思ったら、すぐにゼクエンツで二度ずつ下行が始まります。短調が支配的な第2部でも、下声部の役割は限定的です。主題は中・上声部だけで提示され、第16小節で最高音のcに達すると同時に、下行ゼクエンツが挟まれます。
さて、ここまで避けられてきた低音部主題が主張を繰り出すのは第3部に入ってからです。主題が下声部で2度、立て続けに繰り返されます。この反復もまた、実はゼクエンツになっています。このように「繰り返し言う」という強調の仕方によって、それまで下声部(=左手)の主張の弱さが回復されているのです。最後のゼクエンツを挟んで、主題は再び最上声部に返されて曲は閉じられます。
橋本彩
主調のテーマを属調で受ける(応答)形は、フーガで使われる手法です。
この部分はa mollに転調しています。音型は下行していますが、旋律短音階上行形の音が使われています。
山中麻鈴
- 楽譜は一例です