シンフォニア第8番
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石井なをみ
厳格な対位法書法が用いられたフーガ風の曲です。ストレッタや重複など、フーガによく使われる技法も多く見られます。主題は様々な調で現れます。複数の登場人物が会話をしているかのように、立体的に聴こえるといいですね。
上田泰史
先の2回では、悲しげな曲が続きました。第8番は、それとは対照的に明るく快活な音楽です。主題の音型はトランペットのような輝きに満ちた讃美の感情を生き生きと喚起します。演奏時間で見れば、15曲の中で最も短い曲の一つです。しかし、書法はたいへん技巧的で、フーガ風の模倣と展開、さらにはカノンも登場します。こうした特徴からわかるように、この曲は一見自由に展開しているように見えながら、学習者を厳格な対位法による模倣様式の理解へと導こうというねらいがあります。
ピアノ曲事典の解説に掲載されている形式図を掲載します。
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全体は3部に分けられます。第1部には、わずか6小節の間にフーガのエッセンスが凝縮されています。冒頭の主題の最初の4音は、c-a-d-cという音の並びになっています。第2小節目で上声部に主題が出てきますが、主題は属調、つまり5度上のハ長調に移されています。その際、冒頭の主題ではc-aだった短三度音程が、f-eという短2度の音程になっています。これはフーガの書式に則った変化です。最初の主題(フーガでは主唱と呼ばれます)の属音(ここではc)は、次に出る主題(応唱と呼ばれます)においては、5度ではなく4度上に移高するという規則があります。これを変応(へんのう)と呼びます。
経過的な第4~5小節には、フーガが主題から採られた一部のモチーフが使われています。これはちょうど、フーガの展開部分である嬉遊部を要約しているようです。主題のどのモチーフが使われているか、調べてみましょう。
第2部が始まる第7~10小節は12度音程によるカノンで、中声部はお休みし、1拍ずれて上声部と声部が2声のカノンを奏でます。この部分はカノンですから、フーガに特徴的な「変応」が起きていないことを確認しましょう。カノンは、フーガよりも厳格に後続する旋律が先行する旋律を模倣します。
第3部は、ニ短調の終止形が響く第15小節から始まります。第4小節と同様に、主題のモチーフを使って上昇したのち、はじめて、第17小節で上声部と中声部が変ロ長調で主題を同時に奏でます。それまで、フーガ風の主題提示やカノンによってズレていた主題が、はじめて手をとりあって6度で同時に奏でられるのですから、とても印象深い瞬間です。第19~20小節は、主題モチーフによる上昇する経過部(3度目)で、讃美の声が何度も天に上りこだまするようです。
橋本彩
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山中麻鈴
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- 楽譜は一例です