シンフォニア第4番
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石井なをみ
ニ短調という緊張感のある調の中で、ところどころに半音階の上行形、下行形を使いながら、暗い沈鬱な情感を表現している作品です。 途中、転調によるキャラクターの変化もあります。
音に表情を作って語るように演奏できると良いですね。
上田泰史
この作品も模倣様式で書かれていますが、快活な第1番とは異なり、ニ短調の悲しげな情緒を湛えています。冒頭に出るニ短調の主題は、フーガのように四度下で応答しますが(第2小節)フーガとは違って、音程をそのままイ短調に移高する形でカノン風に繰り返されます。
主題の形に注目してみましょう。16分音符でd音を半音下に刺繍してd-cis-dと修飾したのち、突然完全4度下行(d-a)、その後短6度上行(a-f)します。短6度の上行を、何人かの18世紀の理論家たちはとくに「驚き」の情念と結びつけて「エクスクラマツィオ」と呼びました(英語の「エクスクラメーション」ですね)。「驚き」を引き起こす情念には、称賛や喜び、憤り、苦しみなどさまざまなものがあります。
J. S. バッハの《マタイ受難曲》のアリアから、〈神よ、憐れんでください〉(ロ短調)を挙げてみましょう。これは、キリストの弟子ペテロが、キリストの仲間であることを追及されて、仲間ではないと3回否認してしまったことを泣きながら後悔する場面です。啜り泣くように装飾されたヴァイオリン 独奏の後に、歌がfis-dの短6度上行で「憐れんで下さい」と歌い始めます。悲しみとともに懇願する強い情念が、この音形に託されています。
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ニ短調の第4番も、悲しみの音楽です。沈み行く気分は、ニ短調の響きだけでなく、そこかしこに現れる下行半音階にも表れています。第12小節の内声の2拍目からは、fis-f-e-dis-d-cis-c-hと、完全5度の半音階の階段を下っています。最後の4小節は、最上声でaからdまで完全4度を半音階で上ったのち、こんどは更に広い音程である1オクターヴ下のdまで、半音階で下っていきます。下行する音形は、理論家たちによって「カタバシス」と呼ばれ、ルネサンス時代から、歌詞に即して「下行」のイメージと結びつけられ、特に半音階では陰鬱な気分を呼び起こすために用いられてきました。
このように楽曲に託された情緒を読むと、模倣様式による第4番では、何度も「エクスクラマツィオ」の叫びが聞こえてくるような気がしてこないでしょうか。
橋本彩
倚音・掛留音・刺繍音
第1小節~
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また、その調はこの曲の主調からみて《 属調 ・ 同主調 ・ 平行調 》です。
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第14小節3拍目~第15小節
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第14小節3拍目~第15小節
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山中麻鈴
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- 楽譜は一例です