ピティナ調査・研究

第3回 美しい表紙

素顔のアンティーク楽譜

第3回目は表紙が美しいものを集めてみました。
前回は初版譜という貴重なものではありましたが、絵的には少々モノトーンなものでしたので。


(1)パデレフスキ/旅人の歌 Jurgenson社

1冊目は題字に金をあしらったものです。曲はイグナーツ・パデレフスキ(Ignace Jan PADEREWSKI 1860?1941) 作曲の『旅人の歌 Chants du Voyageur』作品8です。名前の表記は Ignacy となっていることもあります。パデレフスキといえば何と言っても『メヌエット 作品14-1』と結び付けられ、この曲は世界中で演奏されて彼に莫大な利益をもたらしました。しかしなぜか最近はこの曲すらめったに演奏されません。彼は単なる音楽家ではなく祖国ポーランドのために自らの財産を投げ打ち、第1次大戦後は首相・外交官としても活躍しました。そんな彼を指してサン・サーンスが語ったとされる次の言葉は象徴的です「彼は(たまたま)ピアノを弾く天才なのだ」。彼の作品は多岐に渡りオペラ"Manru"、交響曲、ピアノ・コンチェルト、ヴァイオリン・ソナタなど。1990年に発見されたヴァイオリン・コンチェルト、また弦楽四重奏もあるそうです。ピアノ曲は代表的なものではピアノ・ソナタ変ホ短調作品21があり、優れたソナタで第3楽章にフーガを伴ったヴィルツオジティー溢れた作品で個人的には大変気に入っています。
さて今回紹介する曲は1882年に出版され彼の2番目の妻である Helene( Helena) GORSKA に献呈されました。この表紙は中々凝ったもので中央にエンジェルを配し、4つの旅のシーンが添えられています。ちなみに曲集は5曲から構成されていて、有名なものは第3曲『メロディー』です。しかし曲全体を通しで聴いて(弾いて)みると表紙のイメージはあまり内容とは関係なさそうです。しかし楽しげな表紙です。


(2)バラキレフ/イスラメイ Jurgenson社

2曲目はバラキーレフ(Mili BALAKIREW 1836-1910) 作曲の『イスラメイ=東洋的幻想曲』です。この版は1890年代後半の第2版です。かつて似たようなデザインの同じ曲を所有していましたが、そちらも金をあしらったアラブ風の文字配列のものでした。わざわざ別の表紙を作るほど人気があったのでしょう。まるでモスクのモザイクを連想させるようなこの表紙を見ていると、こちらは曲のイメージとぴったり来ますね。名ピアニストのチェルカススキーの名演が今でも耳に残っています、素晴らしい曲です。バラキーレフといえば、マズルカをともなった素晴らしいピアノ・ソナタがありますが、日本でもどんどん演奏してもらいたいですね。


(3)ケッテン/パラフレーズ集 1863年初版 Lemoine 社
表紙
中表紙

最後は梅の花をあしらった春らしい表紙のピアノ曲です。これは1886年の楽譜です。当時日本風のものがヨーロッパで流行したいわゆるジャポニズムの影響によるものです。表紙を開けると次のページも花をあしらったもので、作曲者・ケッテン(Henry KETTE) のパラフレーズのカタログになっています。この手の楽譜はヨーロッパでは中身よりもそのデザインによってコレクターがたくさんいて中々入手困難なものの一つです。個人的にはお気に入りの一つです。右下にデザイナーのサイン GIRADON も読み取れます。

次回もお楽しみに。

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