ピティナ調査・研究

はじめに

スクリャービン:「神秘」の向こう側へ
はじめに

帝政ロシアの作曲家、アレクサーンドル・ニコラーエヴィチ・スクリャービン(1871/72~1915)。2022年は、西暦で考えると1872年に生まれた彼の生誕150周年にあたります。それに関連して、ロシア国内では音楽祭が開催され、また、スクリャービン作品全集は第12巻をもって完結しました。記念年に関係なくとも、スクリャービンに対する関心は継続的に高く、音楽院やスクリャービンの家博物館ではたびたび学会が行われ、論集が頻繁に出版されています。また演奏の場では、スクリャービンはロシアに限らず、特にピアニストのレパートリーとして定着した感があります。歴史的観点から考えると、スクリャービンは彼なしに世紀末~20世紀のロシア音楽・芸術文化を語ることは難しいほどの存在になっています。

しかし、スクリャービンという作曲家がどのような存在なのか――これをはっきりと見通すことは、今日の我々にとってなかなかに難しい問題です。100年以上にわたって重ね続けられた、まさしく「神秘」のベールに、彼は包まれているからです。本連載では、そのベールを注意深く観察、分析して、なぜそのようなベールが彼に被せられるに至ったのか、その奥にいるスクリャービン、彼が書いた音楽がどのような存在なのか理解していきたいと思います。彼の音楽や、ロシア音楽を愛する人々に、興味深く読んでいただければ幸いです。