第22回 川上 昌裕さん
北海道出身のせいか、 毎日食べても飽きないほど"鮭"が大好き!&ドラえもん並み!?に "どら焼き"もお好きとか。
先生は、全国で公開講座、講演会など行われている他に、国内外の音楽祭やセミナーにも招聘されていらっしゃるそうですね。
ええ。今年もイタリアの「ペルージャ音楽祭」に講師として参加しました。現地での初日の朝、ホテルの階下から、このカプースチンのエチュード1番が聴こえてくるのには驚きましたね。この音楽祭には、世界のトップレベルの若手ピアニストたちが120名ほど集まってきてレッスンを受けるのですが、何人もの生徒が普通のレパートリーとしてカプースチンを持ってきているんです。つまり、世界中でカプースチンの曲はもう当たり前に弾かれている、ということなんです。そして、先生方もカプースチンを普通にレッスンしている、という時代になりましたね。
これも、川上先生が彼の作品を世に送り出してくださったお陰ですね。そもそも、カプースチンとの出会いは?
1999年に、アムランのオペラシティでの演奏で初めて知りました。その後カプースチンの自作自演CDも聴き、「こりゃすごい!」とぶっとびましたね。その当時は作曲者の自筆だと思われるコピー譜しか出回っていなくて、「これはちゃんとした出版社から出さなくては」と勝手に一人で動き始めたんです。絶対ロシアにも行かなくては、と思っていたところ、2003年に彼のレコーディングに立ち会わせてもらえる機会に恵まれました。
そのときに具体的な話はされたのですか?
まだ言葉も通じない段階でしたし、彼も寡黙ですから、殆ど言葉は交わせませんでしたね。ただ、日本に戻ってから出版社と引き合わせることはできました。
その後、ロシア語を何とか習得して、ある時カプースチンに「実はロシア語が出来るんだ」とメールしたら、がーっと返信が来たんです!あんまり待たせると苦労しているのがバレるので、それは必死に返信しましたよ(笑)そのお陰で、すごく信頼関係が出来たんです。この楽譜の解説も、全て私がロシア語を翻訳(英語&日本語)しましたが、それはそれは大変な作業で、苦労の賜物といえます。
カプースチンの作品はいざ弾くとなると難しい、との声をよく聞きますが、易しい曲は書かれないのでしょうか?何から入るとよいでしょうか?
彼自身が現在進行形でまだまだ進化しているので、さらに前衛的になっていっているんですね。彼にわかりやすい作品、と言うのは無理かなとも思います。やはり「24のプレリュード」「8つの演奏会用エチュード」あたりから入るのが王道でしょうね。カプースチン自身の指使いも入れたので、参考にしてください。
あとは、唯一の連弾曲「シンフォニエッタ」もおすすめです。楽譜も見やすく、音楽がわかりやすくて楽しいので、発表会などでも盛り上がりますよ!
ステップ課題曲に、「24のプレリュード」「8つの演奏会用エチュード」も入っていますので、ぜひ演奏のアドバイスもお願いします。
重さをかける音と抜く音を意識する、強い音、弱い音の関係を探ることが大事ですね。ただ音を並べて弾いては面白くない。裏拍にアクセントがつくことが多く、また逆にアクセントをつけてはいけない音もあります。その独特のリズム感は、カプースチンの自作自演や、ジャズピアニストの演奏を聴くのが一番よいでしょう。そこに自分のセンスをプラスする。そうしないと、ジャズっぽいかっこよさが出てこないと思います。
たとえば16分音符が並んでいるところは、ノンレガートで練習してみるのも効果的です。交互に「入る音」「抜く音」で弾いてみる。最初はアタマの音にアクセント、次の音は抜く。それが出来たら、逆に後の音にアクセント、さらにテヌートもつけるとバウンスする感じも出せますよね。その両方が自在にできると、いろんなニュアンスが自由に出せるようになります。
今までジャズを勉強されたことはおありですか?
いいえ、幼少の頃からクラシックだけです。ジャズを弾くとクラシックに戻れない?(笑)という迷信のようなものが以前はあって、あえて弾かなかったですね。カプースチンに関しては、まずは真似から入ったわけですが、10年も弾き続けているとそれらしくなるみたいですね。カプースチン自身にも褒めていただいて、「これでいいんだ」とようやくわかってきたような気がします。
カプースチンの演奏を聴くと、「とてもあのスピードでは弾けないわ」と断念される方もいるようですが。
もっと自由に考えていいと思いますよ。楽譜に書いてあるテンポでなくても、遅く弾いてもいいんです。音とリズムは守るとしても、テンポは表示どおり弾けない曲が殆どだと思います。彼は、遅いテンポで弾いても怒らないので心配しないでください。人間的に包容力がある方ですし、バッハのようにいろいろなアプローチがあってよいと思います。世界では本当にいろんな弾き方をしている人がいますが、皆さん楽しんで弾いてますよ。
まだまだカプースチンの、世に出ていない作品が山ほどあるとのこと、もったいないことですよね。この取材を機に「カプースチン協会」も立ち上がるとのこと、ぜひ素晴らしい作品の数々を皆さんにも弾いていただきたいですね。本日はお忙しいところありがとうございました。
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