第16回 鈴木 奈美さん
「ポピュラーはアレンジが命!」「良いアレンジをみかけたら、アレンジャー名を覚えておくこと」と、よく皆さんにお伝えしているのですが、正に奈美さんは、アレンジャー名で選ばれる方ですね。
ありがとうございます。気付いたら、アレンジ・採譜した曲は3000曲を超えていました。今は他の方の校正も月に12冊ほどこなしているのですが、校正作業は夜遅くまでかかることも多く、そこから急ぎのアレンジがあれば一晩で仕上げたり...基本的には音楽漬けの毎日ですね。
音楽歴を教えていただけますか?
4才からエレクトーンを習っていました。地元の音楽高校に入ってからピアノを始めたので、キホン左手が動きにくい、というコンプレックスはいまだにありますね。一旦エレクトーンで音大に入ってみたものの、「ちょっと違うな」というのを感じて、上京してヤマハ音楽院に入学。そこで藤井先生に師事し、ジャズ・フュージョン系のピアノに目覚めたわけです。
ジャズ界の大御所、藤井英一先生のレッスンはどのようなものだったのでしょうか?
説明がしがたいのですが、数学博士になろうと思われていた先生ならではの"音楽のメカニズム"がありまして、超現代曲の初見があったり、それを急に移調するとか、移調をスムーズに行うために先生の考案された記号を記憶したり...当時は全くといっていいくらいついていけないシステムでしたね。アドリブに関しても、リードシートだけ渡されて、先生が一度弾いてくださる。次の週には1コーラスずつ先生と掛け合いで延々アドリブをつないでいく、みたいなことをしてましたね。ただ、たくさん弾いてくださるので、それが今自分が指導する際にもすごく役立っていますね。
大人の初心者の方には、ジャズをどう教えていらっしゃるのですか?
既成曲をたくさん弾いていただいてから、アドリブや即興演奏に向かっていくわけですが、最初にジャズのスケールから入ると難しくなりますよね。左手の押さえだけ決めておいて、右手は例えば一音でもリズムだけクッたりハネたりしてノリが出るようにしていくんです。音を段々増やしていったり、しりとりのようにいいタイミングで入られるようにしていく。発表会はピアノトリオ(ベース&ドラム)形式で開催しているのですが、指が動くことだけを目標にするのではなく「いい音・リズムを生み、音符で会話をしよう!」という気持ちで臨むと、皆さんちゃんと出来るようになってくださるんですよ。
奈美さんのアレンジが"弾きやすく弾き映えする"のは、こういった現場での体験が生きているのでしょうね。
レッスンは大人の生徒さんが中心ですが、アレンジする際に、大人の初級の方がどれくらい手が広がるのか、弾き勝手がよいのかどうか、指使いなども検証できるので...そういった意味でも毎日が勉強の連続ですね。
先生方が、生徒さんのレベルに合わせて楽譜を易しく手直ししたいときに、どのようなことに気をつけたらよいでしょうか?
ピアノとしての響きを考えて、やはり全体のバランスですよね。テクニック的に易しくても、左手の入り方がよければグルーブ感が出ることもあります。メロディーと伴奏のコンビネーションにより、新たなリズムが生まれることもあります。やはりたくさんポピュラーやジャズを聴いて、どれが本筋のビートかをわかってからアレンジするとよいですよね。
ステップ課題曲『ルパン三世』(応用1)は、初級ということで悩まれたのではないですか?
やはり初級用のアレンジが一番難しいですね。この曲の特徴はリズムなので、16分音符は右手に任せて、ベースはライン的なことに絞っています。難しくならないよう、左手に16分音符を入れすぎずに、しかし原曲のイメージは損なわないように、ビート中心のアレンジにしてあります。譜面に書いてない音やビートも感じて弾けるとよいですね。
『ジャズアレンジ・セレクション』も、弾き応えあるアレンジ揃いですが、新課題曲『きらきら星』『OneLove』(発展5)についても一言アドバイス願えますか?
『きらきら星』の方は、ルイ・アームストロングの『この素晴らしき世界』と曲調がマッチングする面白さもあるので、その特徴でもある"渋さ"が欲しいですね。常にバックにリズムを感じて、左手はあくまでもカウントとりなのでテヌート気味に。強調する音と軽めに弾く音、メロディー以外のラインなども考えて弾くとよいでしょう。アドリブからは「細かい音を必死に弾かない、上手に弾こうとしない」(笑)のがコツですね。Dの6小節目9連符の箇所は、一応3つを一単位としてますが、数にこだわる必要はありません。
『OneLove』の方も、"カウントが命!"ですね。イントロはペダル・ベース(D音が続く)、その後のメロディーの入りをはっきりわかるように。Eに出てくるランニング・ベースは、アフター・ビート(2・4拍)を強調して。Hのタイでクッていく右手の重音は、アクセントをつけて。全体的にリズムの"クイ"がすごいので、やはりカウントを常にしっかりとって弾くことですね。
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これはフィギュアサイズのアレンジなんですよ。ただ、そのままだと曲のつなぎが少し不自然だったりするので、ピアノソロでも通用するように直してはあります。私がアレンジした『ジャンピン・ジャック』(初級)(中級)の他にも、『ブエノスアイレスの冬』(ピアソラ)、『タンゴ』(シュニトケ)など、話題曲をお楽しみいただけると思います。
最後に、今後の抱負を一言お聞かせください。
毎日勉強とはいえ、忙しすぎて同じことの繰り返しになるので、もっと外の空気を吸わないといけないな、と思っています。やはりセッションすると生き返りますね。あとは、クラシックや現代音楽の音の積み方・演奏法などをピアノアレンジに盛り込んで、皆様に楽しんでいただける作品を書いていきたいと思います。
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