第13回 塩谷 哲さん
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塩谷さんの音楽のルーツを教えていただけますか?
オスカー・ピーターソンが原点ですね。父がジャズが好きで、家族でドライブするときも、延々とオスカーピーターソンを流していたので、そのうち僕もアドリブが歌えるくらいになってたんです。また、父がその頃始めたウクレレで、ジャラ~ン♪と鳴らしたコードを当てたりと、ゲーム感覚で聴音もしてました。なので、5歳のときにヤマハ音楽教室でエレクトーンを習い始める前に、すでにコードもかなり覚えてましたね。
ピアノはいつ頃から始められたのですか?
その後、段々興味がアレンジや、ドラム・ピアノなどの生楽器に移っていったんです。それで中2の頃からピアノも始めたわけですが、音大に行くと決めたときには、ピアノの先生に驚かれてしまいました(笑)。なので、ピアノに対してのコンプレックスが、逆に原動力になっているところは今でもありますね。手も小さいですし、皆さんが思っているほど楽に弾いているわけではないんですよ。
芸大では作曲を学ばれたわけですね?
即興演奏も素晴らしいことだと思いますが、一方作曲という作業は「感性+知性」。建築物における構築美のようなものにも憧れてたんです。でもいざ入ってみると、いきなり現代曲一色でびっくりしましたね。
在学中に、「オルケスタ・デ・ラ・ルス」でも活動されましたね。
同時期に、"芸術としての音楽"と、片や"生活の営みとしての音楽"、両極端を経験できたことは貴重でしたね。
デ・ラ・ルスで、海外の地元の人と共演できたことも素晴らしい経験でした。楽譜は読めなくても、彼らの中に音楽はある。感覚として持っているんですね。音楽的に優れていることと、ソルフェージュ力は必ずしも一致しない、もっと大事なことがあると気付かされました。どうやっても彼らにはかなわない、全部中途半端と悩んだ時期もありましたが、自分の音楽を逆に彼らが「新しい!」「素晴らしい!」と言ってくれるのを聞いて、救われました。そして、自分が感じた音楽が、本物として通用するように覚悟を決めよう、自分を偽ってはいけないなと思ったんです。
塩谷さんといえば、グルーヴ感には定評がありますが、その感覚はどこで養われたのでしょうか?
子どもの頃から「叩く」ことが好きで、菜箸を使って、バケツや鍋のフタいろいろなものを叩いてたんですよ(笑)とにかく楽しかった。なので、まずは"いい音がする鍋"を探すことですかね(爆)。両親が、うるさがらずに、気のすむまで叩かせてくれたのもよかったんだと思います。あとは、やはり原体験のピーターソンの影響も大きいですね。子ども心にも訴えかけるものがあり、とにかくスウィングしていてジョイがありましたから。早い時期から、ホントに良いものを体験することも大事だと思います。
アンサンブルの魅力とは?
アンサンブルが出来ないと、いい音楽家とはいえないと思いますね。ソロは自分をアピールしがちですが、ホントはそうじゃなくて、「自分と音楽の関係」。音楽が先にあって、音楽に導かれてその人の感性が表れてくる。それを共有するという意味で、アンサンブルはすごく大事で、何より楽しいですね。ジャズセッションなどでのピアノは、いかにみんなでグルーヴを作ることが大事。ホントにアンサンブルがうまくいくと、たとえ自分が弾かない箇所でも「イェーイ!」となる。実はそこが楽しいんです。
小曽根さんとのピアノ・デュオコンサート、ライブアルバムも絶賛されていますね。
以前(2003年頃)僕がピアノで悩んでいたときに、小曽根真さんが、「二人で、二人にしかできない音楽を作ろうよ」と声をかけてくれたんです。いろんな意味でとにかくすごかった。ミュージシャンにとって、自分よりレベルの高い人と共演することは、何より成長できますね。また、音楽を一緒に作っていく過程が、その後ソロにも返ってくると思います。
ではここで、課題曲《2つのメヌエット》のアドバイスをお願いできますか?この曲は、リズミカルなト長調と、ジャズハーモニーが美しいト短調の対比が面白いですね。
ト長調の方は、機能的な書法ではなく、即興的にスケルツォのような遊び感覚で、敢えて"不思議なニュアンス"を出したかったのです。なので、の左手は、ひとつひとつに意味があるわけではなく、パーカッションの合いの手が入っていると思ってください(譜例1)。意味のある音と、遊びの音があるんです。ただ、それぞれのフレーズの終わりには、最低限のツジツマは合わせています(ハーモニー的アプローチ)。続くト短調の方は、ハーモニー重視です。2回繰り返す場合、前半はクラシカル、後半はよりジャズっぽいハーモニーと変化をつけています。(譜例2)内声を含めメロディーをよく感じること、瞬間ごとに変化するハーモニーをよく味わうことなどを心掛けてみてください。
最後に今後の抱負を
今年は上妻宏光さん(津軽三味線)とのユニット、「AGA-SHIO」の国内、海外ツアーを中心に活動していきます。2人の個性が重なり、前人未踏の音楽世界を切り開いていければと思います。また今後は、クラシカルな曲も書きたいと思ってますし、最近は、自分が生み出す↑それを伝えていくということもそろそろしていかなくてはとは思っているんですよ。
[Q]クラシックに馴染みのある者にとって、譜面から入ると、音と音の間のニュアンスをどう読めばよいのか悩むのですが...
[A]やはり聴くことですね。どんなに頑張っても微妙なニュアンスまでは譜面に書けない。でも、これが好き!というジャンルのものをたくさん聴けば、どう弾けばよいか自然にわかるはずですよ。また、ビートのある音楽では「まずはビートありき!」。多少音を外しても、グルーヴがあればOKなんです。休符を「ウン」とただ休むのではなく、常にグルーヴを感じていることが大事ですね。
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