大人のためのJAPAN16: 吉松隆『プレイアデス舞曲集1』
今日ご紹介する吉松隆氏作曲『プレイアデス舞曲集1』(音楽之友社刊)は、とても美しく魅力的な作品です。吉松隆氏といえば、今年のNHK大河ドラマ『平清盛』の音楽ご担当としても、話題沸騰の作曲家でいらっしゃいます。『プレイアデス舞曲集』は、1986年に作曲された現代の音楽でありながら、難解で複雑ないわゆる「現代音楽」とは一線を画す、オシャレでキュートな作品!ピティナ・コンペも終わり、もうすぐ夏も終わるこの時期、そんな素的な日本の作品はいかがでしょうか。
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1953年に東京に生まれ、中学3年生のときに自宅にあったオーケストラ・スコアとLPに出会って一気にクラシック音楽に開眼したという吉松氏。慶應義塾大学工学部を中退後、ロックやジャズのグループに参加しつつ、ほぼ独学で作曲の道を歩みます。いわゆる「現代音楽」に異を唱え、「世紀末叙情主義」を掲げて、調性的でメロディックな路線を貫く独自の姿勢...。クラシックとポピュラーとエスニックをブレンドしたようなその作風には、ジャンルを超えて多くの熱烈なファンがいます。
1986年に第1集が発表された『プレイアデス舞曲集』は、その後1、2年に1集のペースで作曲され、現在第9集まで出版されています。プレイアデス(日本名「すばる」)とは、7つの星から成る小さな星団のことで、その名の通り、各曲集は7つの小品から成ります。また、「虹の7つの色、いろいろな旋法の7つの音、3拍子から9拍子までの7つのリズム」など、作曲上のインスピレーションが7という数字から取られています。各小品には、上記の通り各々魅力的な名前が付けられていますが、いわゆる「舞曲」的な性格は薄く、作曲者自身のお言葉通り「前奏曲」的な印象があります。
演奏にあたって最も感じたことは、ポピュラー音楽のノリの存在です。目に見える形で楽譜に書き込まれているわけではありませんが、音型やリズム型からクラシック音楽にはない躍動感が要求される場面が多々あります。吉松氏は青春期に、エマーソン・レイク&パーマー等70年代プログレッシヴ・ロックに心酔された経験の持ち主で、先のNHK大河ドラマでも、その真髄を盛り込んだ音楽制作で話題を呼んでいますね。演奏にあたっては、そのノリを体ごと感じ、ノリ切ってしまう姿勢が大事でしょう。
吉松氏の作風を表す言葉として、「新ロマン主義」「ネオ・クラシック」といった言葉をよく目にしますが、これらは無調や偶然性などのいわゆる「現代音楽」へのアンチ・テーゼとして生まれた、調性的でメロディックな新しい音楽を指します。吉松氏の作品は確かに、「現代音楽」に拒絶反応を持っていまう方でも受け入れやすい様相を呈していますが、でもやはり、「現代音楽」以前のクラシック音楽とは明らかに違うように思います。ポップスのノリとグルーヴ感をもってリズム的な難しさを楽しみ、歌いすぎず冷めすぎないクールさをもってメロディーを味わう現代的な感覚が、吉松作品をかっこよく弾く秘訣かもしれません!