ピティナ調査・研究

大人のためのJAPAN15: 間宮芳生『ピアノソナタ第2番』 (1970's-3 「生の音楽」)

ピアノ曲 MADE IN JAPAN

今日ご紹介する間宮芳生氏作曲「ピアノソナタ第2番」全音楽譜出版社刊)は、とても激しい作品!楽譜も非常に複雑な、いわゆる"現代音楽"です。でもそこには、単に激しく難しいだけではない、溢れんばかりの生命力が!民謡への関心に始まり、ジャズや世界の民族音楽にも影響を受けた間宮氏の、代表作とも言えるピアノ作品です。

 
間宮芳生「ピアノソナタ第2番(第1楽章)」 (演奏:須藤英子)
 
作曲家・間宮芳生とは

旭川市に生まれ、小学校以降を青森で過ごした間宮氏は、東京音楽学校(現・東京芸術大学)卒業直後より日本の民謡を研究し、それを生かした創作を行ないました。その関心はやがて、ジャズやアフリカンドラムなど世界各国の民俗音楽に広がり、生命力溢れる作風を形成していきました。「伝統芸能と一体になり、それに溶け込むことによって無名性に達したい」という言葉から、その創作姿勢を伺い知ることができます。

「ピアノソナタ第2番」とは

間宮氏は、これまでに3つのピアノソナタを書いていますが、それぞれの特徴は、そのまま作風の変化を表しています。第1番は「日本の旋法と古典的対位法の結合」を、第2番は「前衛ジャズの反伝統の空気との接点」を、第3番では「世界の民族音楽からヒント」を求めて作曲されました。今回ご紹介する第2番は、1972年から73年にかけて作曲された作品ですが、この時期に出会ったジャズの鬼才、オーネット・コールマン(ヴァイオリン他)とセシル・テイラー(ピアノ)は、間宮氏に大きな衝撃を与えています。なお初演は、野島稔先生や田崎悦子先生、館野泉先生によって、世界各地で行われました。

ジャズの影響

オーネット・コールマンやセシル・テイラーの音楽について、間宮氏は次のように語っています。「尖鋭で攻撃的だが反面、するどい孤独がきこえる。触ったらこちらの手のひらからザラッと血が吹き出そうな荒々しい強さと、不思議な優しさの同居がきこえる。」その印象が、そのまま作品となって噴出したものが、このピアノソナタ第2番でした。頻繁に登場する強烈な「fff(フォルテフォルティシモ)」や、「→(矢印)」によって表される激しい速度変化、そして時折現れる美しい「pp(ピアニシモ)」...。それらが渾然一体となって、間宮氏いわく「より一層根元的な生命現象への再生」が、ここでは起こっています。

ポスト・モダンの中で

それまで主流だったアメリカやヨーロッパの前衛音楽が影をひそめ、代わって各地の独自性を重視するポスト・モダンの雰囲気が広がった1970年代。その中にあって間宮氏は、民謡や民俗音楽(ジャズを含む)にルーツを認め、そこから独自の生命力溢れる音楽を生み出しました。「ヨーロッパの音楽の伝統を最も美しい形で体現している優雅な楽器を、遮二無二ヨーロッパの伝統から引きちぎってきて、何がなんでも自己の表現のために使いきる」という、ジャズの鬼才たちの姿勢...。そこから学んだこのピアノソナタ第2番は、間宮氏の代表作であると同時に、70年代日本を代表するピアノ曲とも言えましょう。

参考文献
間宮芳生 ピアノソナタ第2番(楽譜後書き) 全音楽譜出版社 1974
間宮芳生 ピアノ協奏曲第3番&ピアノソナタ第1番、第2番、第3番(CD解説) フォンテック 1993
日本の作曲20世紀 音楽之友社 1999