ピティナ調査・研究

番外編: クリスマス&お正月特集!

ピアノ曲 MADE IN JAPAN

寒さも一段と増し、慌ただしい年末気分が漂う今日この頃ですが...。こんな時こそ、音楽でしっかりと季節を味わいたいものです。今日ご紹介するのは、"この季節といえば!"という2曲、「戦場のメリークリスマス」「春の海」です。難易度は、どちらも中級程度。特に中高生や大人の生徒さんには、オススメです。弾いて楽しむも良し、聴いて楽しむも良し、弾いて聴いてもらうはなお良し、です!

クリスマスといえば...坂本龍一「メリークリスマス・ミスターローレンス」(♪クリックで再生↓)
 
 

この曲は、1983年の映画「戦場のメリークリスマス」のメイン・テーマとして、坂本龍一により作曲されものです。クリスマスのピアノ曲集には、必ずといっていいほど入っているこの作品。原曲はシンセサイザーによる壮大な音楽ですが、ピアノソロも味わい深くてなかなか素敵です。多くの楽譜は他の作曲家によりアレンジされたものですが、全音楽譜出版社刊「Avec Piano」版は、坂本龍一本人が編曲したものです。

作曲者:坂本龍一とは

評論家の秋山邦晴は、坂本龍一の音楽を「現代音楽の技術で作曲された今日の新しいポピュラー音楽」と評しています。東京芸術大学大学院修了後、シンセサイザーとコンピューターを駆使したバンドY・M・O(イエロー・マジック・オーケストラ)に参加した坂本龍一は、その先鋭的なカッコイイ音楽で一躍時の人となりました。メンバーに命名された「教授」という愛称は、よく知られていますね。クラシックとポップスの境界線を取り払ったような彼の音楽は、今も多くの人を魅了し続けています。

演奏にあたって

坂本龍一が、音楽家としてのみならず、主人公の一人としても出演したこの映画は、第二次世界大戦中のジャワの捕虜収容所が舞台となっています。閉ざされた収容所のなかで、東洋人と西洋人が出会い、傷つけ合い、殺し合う...。オルゴールのような冒頭部分に続く、5音音階のアジア的なメロディー。何度も繰り返されるその旋律が、心に沁み入ります。クラシック的なメロディーの歌わせ方(レガートで美しいスラーを描く)とともに、ポップス的なウラノリ(裏拍にアクセントを置く)を常に保ち続けることが、この曲を気持ちよく演奏するための秘訣でしょうか。

お正月といえば...宮城道雄「春の海」(♪クリックで再生↓)
 
 

この曲は、1930年の勅題「海辺の巌」(勅題とは、天皇が新年の歌会始等のために毎年出題するお題のこと、ちなみに2012年は「岸」)にちなんで、宮城道雄が筝と尺八のために作曲したものです。後にフランス人女流ヴァイオリニストのルネ・シュメー氏によってレコード化され、世界的に知られるようになりました。来日中にこの曲を聴いて気に入ったシュメー氏は、翌日にはヴァイオリン用に編曲し、日比谷公会堂のコンサートで宮城道雄のお筝と協演!その日本的な親しみやすいメロディーに、聴衆は熱狂したそうです。他にも様々な楽器に編曲されていますが、ピアノソロ版としても「全音ピアノ・ピースNo.288」等のアレンジ譜が出ています。

作曲者:宮城道雄とは

日本の伝統音楽にクラシック音楽の要素を導入し、「新日本音楽」を打ち立てた宮城道雄。筝曲家として活躍した若い頃よりクラシックのレコードを聴き、和声や形式を独学で勉強、新しい邦楽作品の作曲に生かしました。特にドビュッシーラヴェルストラヴィンスキー等、比較的新しい時代の音楽を好んだようです。 「春の海」も、クラシックの形式感や技術を応用した、当時としては斬新な雰囲気を持つ邦楽作品でした。

演奏にあたって

旅した瀬戸内海の美しさを描いたという、この作品。のどかな波の音で始まる第一部では、時にかもめの鳴き声が、テンポアップした第二部では、勇ましく行き交う漁船の様子が、そして第一部が反復される第三部では、再びのどかな春の景色が描写される、三部形式です。筝とは音階が異なるピアノでは多少弾きにくい部分もありますが、左手は筝、右手は尺八を思い浮かべつつ、スラーやスタッカート等のアーティキュレーションを正確に表現することで、原曲の雰囲気を存分に味わえるでしょう。

それでは音楽とともに、どうぞ良い年末年始をお過ごしください!

参考文献:
(楽譜)「Avec Piano」全音楽譜出版社
宮城道雄「春の海 宮城道雄随筆集」岩波文庫