こどものためのJAPANピアノ作品集5: 中田喜直作曲 『こどものゆめ』 大解剖!
被災された皆様に心からのお見舞いを申し上げます。
今回特集させていただく作品集は、今年のピティナ・コンペティションの課題曲にも取り上げられている(C級:第23番「風の即興曲」)、中田喜直作曲『こどものゆめ』(カワイ出版)です。「めだかの学校」や「夏の思い出」、「小さい秋みつけた」、「雪の降る町を」など、今も日本中で歌い継がれている名歌曲を数多く残された中田喜直先生。「日本のシューベルト」とも呼ばれる中田先生の、親しみやすく味わい深い音楽は、ピアノ曲にも健在です!
日本を代表する作曲家として知られている中田喜直先生ですが、実は東京音楽学校(現・東京芸術大学)ではピアノを専攻されていました。「父や兄が作曲科で、無味乾燥な楽理や、生きた音楽とはおよそ縁遠い作曲学を勉強している姿を見て、作曲科に入る気はしなくなった」と、語られています。
大学では、あの田村宏先生と同級生で、授業前にはよくショパンのエチュード対決などもされていたそうです!それほどの腕前にも関わらず、手がとても小さかった中田先生は、ピアニストを諦めて作曲家になることを決意し、卒業後に本格的な作曲活動を始められました。
手が小さいことを悩んでこられた中田先生は、作曲家として活躍されるようになってからも、特に日本のピアノ教育については、厳しいご指摘を繰り返されました。今回ご紹介する『こどものゆめ』の前書きにも、「こどものピアノ教育で一番困ることは、ヴァイオリンのように、小さな体、小さな手に合った楽器を使用することができないことです」と、書かれています。
そして、なんと1オクターブで1センチ狭いピアノを、実際にヤマハに作ってもらい、「手の小さい日本人のために、とくにこれからピアノを習う子どものためには、鍵盤の幅を小さくしたピアノが必要です」と、たびたび訴えられました。このミニサイズのピアノが、日本で大々的に普及することはありませんでしたが、今でも数台は残されているそうです。
そんな中田先生、特にこどものピアノ曲については、強い信念を持って作曲されました。「私は、こどものためのピアノ曲は、絶対にオクターヴ以下の(最高で長七度の)指のひろがりで、20年以上前から作曲してきました」と、前書きにもあります。「手首や、腕が固くならないよう、できるだけ無駄な力が入らないような自然な指使いにも注意してきました」と、ピアニストならではの配慮もされています。
また、「音楽は楽しくて美しいことが基本」と常におっしゃっていた中田先生ですが、その通り、どの曲にもいわゆる現代音楽的な難解さはなく、代わりに、こどもの世界に密着した楽しさや美しさが溢れています。童謡を多く残された中田先生ならではの、こども目線での弾きやすさ、親しみやすさが、音楽的にも充実している教材といえましょう。
せっかくなので、発表会やコンペティションなど特別な機会のみならず、普段の教材と合わせて同レベルの曲を数曲弾いてみると、世界も広がることでしょう!また、こどもたちが学校で習う歌の中には、必ず中田先生の曲があるでしょうから、そこから話題を広げてみるのも新鮮かもしれません。
今回も全24曲を、テクニック的な難易度順に以下3つのレベルに分類させていただきました。
「★」
バイエル100番ぐらいまで
「★★」
ツェルニー30番前半ぐらい
「★★★」
ツェルニー30番後半以上
また、以下オススメ曲を各レベルより1曲ずつ、動画でご紹介させていただきました。次回以降は、各レベルごとに全曲を詳しくご紹介させていただく予定です。どうぞご期待ください!
・牛山剛「夏がくれば思い出す 評伝 中田喜直」新潮社 2009
・中田喜直「メロディーの作り方」音楽之友社 1960