ピアノ曲MADE IN JAPANニューヨーク日記
~chamber music society of lincoln center
ニューヨーク最終日。初めて普通の(!)室内楽を聴きに行きました。アメリカのアンサンブルchamber music society of lincoln centerによる、オールフランス音楽プログラム。ハイレベルな演奏でしたが、特に印象に残ったのは、ラヴェル作曲「ツィガーヌ」の台湾出身ピアニストの演奏。少し癖のある弾き方で、私自身はそれほど好きではなかったのですが、とにかくインパクトが強い!最後の部分など破壊的でさえあり、お客さんは大喜びでした。'インパクト'。ニューヨークで学んだ一番大きなことは、このことだったかもしれません。ただそれは、上辺だけの印象の強さではなく、その人の内側から出る自己主張の強さ。個人の意思が尊重されるこの地にあって、音楽を通して自分を表現する個人と、それを喜んで受け入れる個々人との健全なつながりが、ここにはある...。音楽をすることが、極端に言えば生きることにもつながる現場を、ここニューヨークでは体感できた気がします。(2008/10/5)
~櫻澤弘子さん&Richard Teitelbaumさんインタビュー
マンハッタンからバスで2時間半、美しい自然に囲まれたWoodstock。60年代のロックの聖地としても知られるこの街へ、日本人ピアニストの櫻澤弘子さん、アメリカ人作曲家のRichard Teitelbaumさんご夫妻にお会いしに伺いました。大自然の静けさに包まれた、素敵な山小屋風のお宅。この豊かな環境の中でお二人は、幅広い音楽を実践されています。中でも今回興味深くお話を伺ったのは、即興的な実験音楽についてでした。
'実験音楽'。日本では、あまり馴染みのない名称かもしれません。広義には、ヘンリー・カウエル以降のアメリカの現代音楽を指しますが、お二人が実践されているのは、エレクトロニクスを含む即興音楽。楽譜のある音楽では、音を一音でも間違うことは基本的に許されないことですが、即興の場合は、根本的に'間違い'はなく、音楽的技術を持たない人でも実践できる可能性があります。「その意味では、クラシック音楽とは対極に位置するものですね」とお二人。
Richardさんは、近くのBard collegeにて、長年この実験音楽を教えていらっしゃいます。弘子さんは、日本でクラシックと現代音楽を学ばれた後(高橋アキさんにもピアノを師事されました)、現在はそれらの音楽に加え、Richardさんと共に実験音楽も!先月、マンハッタンの実験音楽専門ライブハウス「Roullete」で聴いたオール即興演奏のコンサートに驚嘆した私ですが、アメリカではこの類の音楽が、教育という場でもきちんと存在していることを知りました。
「日本とアメリカの違いは、発表の場数の違いではないでしょうか」と弘子さん。アメリカでは企業だけでなく個人の寄付も活発で、「Roullette」などマイナーな音楽を扱うライブハウスも、それらによって支えられているそうです。場があれば気軽に発表ができ、発表が多ければ気軽に聴きに行ける...。その循環が、ニューヨークの多様な音楽文化を支えているように思いました。私にとって、新しい方向性が見えてきた、貴重な一日でした。(2008/10/4)
ニューヨークで生まれ育たれた日系アメリカ人、岩住英美さん。ジュリアード音楽院ご出身、多くの受賞暦を持たれる優秀なヴァイオリニストです。同じくACC留学生として、春にアメリカから日本にいらしていた時に、知り合いました。日本人とアメリカ人の両方の良さを合わせ持たれたような、素敵なお人柄。ずっと聴かせていただきたかったその演奏を、日系アメリカ人アンサンブルという形で聴かせていただきました。メリハリの利いた素晴らしい演奏!同じ日本の名前を持ちながら、アメリカ文化の中で育たれた彼女の演奏には、やはり私にはない主張の強さを感じました。日本語と違い、英語では必ず主語が必要です。そういう些細な違いからも、音楽性の違いは生まれてくるように思いました。(2008/10/3)
ACC仲間の女優さんに誘われて、アメリカ人の映画・演劇監督Stephen Earnhart氏のホームパーティーに伺いました。集まった方々は、みな映画や映像、美術関係の素敵な方々。Stephen氏手作りのタイカレーをご馳走になり、持ち寄ったワインを片手に語り合い...、そしてギターやキーボードで自然に音楽を楽しむ...。私も、Stephen氏とそのご友人jonathanと共に、即興6手連弾に挑戦しましたが、上手い下手ではなく、相手の音に耳を澄ませ音で会話するという経験は、それはそれは楽しいものでした。こういう音楽の楽しみ方もあったのか...、と目を開かされた夜でした。(2008/10/2)
ニューヨークと言えば、ミュージカルの本場。07年度のトニー賞8部門を受賞した話題作「春のめざめ」を見てきました。ブロードウェイ沿いには、ミュージカル小屋が無数にあります。小屋は、その座席数によって「ブロードウェイ(大)」「オフ・ブロードウェイ(中)」「オフオフ・ブロードウェイ(小)」に分かれていて、毎日同じ劇場で同じ演目が上演されています。今回の「春のめざめ」は「オフ・ブロードウェイ」での上演でしたが、劇場に染み込んだ匂いや、日々の仕事として演じている出演者の雰囲気は、クラシックとはかなり違うものでした。同じミュージカルでも、先日セントラル・パークで行われた特別公演「ヘアー」は感動的でしたが、昨日オペラを見てしまったことも重なってか、今日の公演にはなんとなく物足りなさが...。それでも、毎日上演されている演目に、ウィークデーでもこれだけのお客さんが集まり楽しむということに、ミュージカルの魅力を見た気がしました。(2008/10/1)
高校から単身カナダに渡られ、その後コロンビア大学で博士号を取られた作曲家/指揮者の三浦寛也さん。32歳の若さで、全米トップクラスのベイツカレッジ(メイン州)にて、助教授を務めていらっしゃいます。アメリカの大学には、サバティカルという休暇制度があるそうで、今年1年は大学から離れてニューヨークへ。ご自分の作曲・演奏活動に専念されています。
人生の半分以上を北米で過ごされている三浦さんですが、英語はもちろん、日本語もとても自然に話されます。「今でも本を読むのは日本語の方が速いんです。日本語には漢字と平仮名とカタカナがあって、奥行きがあるじゃないですか。英語はローマ字だけですから、最初から全部読んでいかないと分からない...」。「日本文化は'編集'に優れた文化だと思います。外国の文化をすぐに消化吸収してしまう。雅楽でさえ、中国や朝鮮半島から輸入されものですよね。でも雅楽の面白いところは、そのままあまり変化せずに日本の宮廷文化の中で存在し続けてきたところでしょうか。」日本語を完全に操りながら、日本を完全に外から捉えていらっしゃる、そんな気がします。
「日本は、一年を二十四節気に捉えて、何となく時間をやり過ごす、ということができる文化だと思うんです。そういう時間感覚を、自分の音楽でも大切にしたいですね。」昨年アメリカの公共ラジオにて、期待される'ニューアメリカン'作曲家のお一人として、作品が放送された三浦さん。現在は、映画音楽やマルチメディア音楽を中心に、活動を展開していらっしゃいます。指揮者としても活躍されているからか、とても大らかで楽しい三浦さん。グローバル化社会にあって、全く新しい感覚を持たれた「日本人作曲家」に、出会った気がしました。(2008/10/1)
世界的なオペラの殿堂、メトロポリタン歌劇場。煌びやかな雰囲気満載のこの会場にて、リヒャルト・シュトラウスのオペラ「Salome」を見てきました。ギリシャ悲劇に乗っ取ったこの作品。女王Salomeは、歌って踊って...非常な体力を必要とされます。ヌードシーンまで登場する過激な演出...。その主人公役を、フィンランドのソプラノ歌手Karita Mattilaが、最初から最後までものすごい迫力で演じ切っていて、圧巻でした。さすがに、世界最高の最高峰オペラ劇場。本物の凄さを改めて知った気がします。(2008/9/30)
ダウンタウンにある「La MaMa」という実験劇場にて、9.11の悲劇にまつわる実験オペラ「calling」を見てきました。肌の色も年齢も様々な歌手が10名ほど。指揮者の三浦寛也さんに後から伺ったところ、その背景も、オペラ歌手からミュージカル歌手まで、また楽器の方々も、現代音楽奏者から即興音楽奏者まで、様々だったそうです。ニューヨークの音楽は一般に、実験的な「ダウンタウン系」とアカデミックな「アップタウン系」に分類されてきたそうですが、近年ではその境界が曖昧になってきているとのこと。様々な音楽家がミックスされたこのオペラは、その意味で象徴的なものだったと言えましょう。比較的小さな劇場で、様々な音楽家によって、ニューヨーカーに共有される「9.11」という題材を扱ったこのオペラ。「ニューヨーク」を実感できた気がします。(2008/9/28)
パーカッショニスト、藤井はるかさんのリサイタルに伺いました。藤井さんは、東京芸大ご卒業後、渡米。ジュリアード音楽院を優秀な成績でご卒業され、現在ニューヨークをベースに活動をされています。プログラムは、日本人作曲家(近藤譲・石井眞木)とアメリカの若手作曲家の作品、最後ジョン・ケージにの「Ryoanji」というものでした。打楽器音楽は、言うまでもなく「打つ」部分で構成されるものですが、藤井さんの演奏は「打たない」部分の魅力が際立っていたように思います。日本人作品の後でケージの「龍安寺」を聴き、ケージの(もしかしたら大部分のアメリカ人の)日本へのイメージが、いかに美しいものであったかを実感しました。(2008/9/28)
~Stephen Drury&Yukiko Takagi先生インタビュー
ボストン・ニューイングランド音楽院のStephen Drury先生と、奥様のYukiko Takagi先生にお話を伺いました。お二人は、現代音楽の素晴らしいピアニスト。毎夏、SICPPという現代音楽の夏期講習を、ニューイングランド音楽院にて開かれています。ゲストとして世界的な作曲家を迎えての、約1週間の講習。今年6月の講習では、日本人作曲家・近藤譲氏がゲストとして招待されました(私も野村国際文化財団奨学生として参加させて頂きました)。
「なぜ、近藤譲氏を選ばれたのですか」という私の質問に、「良い音楽だから」ときっぱりSteve先生。「日本の作曲家にも、近藤譲や細川俊夫など良い作曲家はいっぱいいるのに、武満徹ぐらいしか知られていないからね...」。
ジョン・ケージとも一緒に活動されていたSteve先生。豊富な知識と豊かなテクニック、そしてサービス精神に満ち溢れた先生は、インタビュー前にケージ作品のレッスンまでしてくださいました。そして、「ケージ以後の作曲家は、みななんらかの形でケージの影響を受けている」と...。SICPPを通して、ケージ以後の作品を後世に伝えていこうとされている仲の良いご夫妻。その熱意に触れるたびに、私も頑張ろうと強く思います。(2008/9/26)
作曲家・小藤隆志さん。日本で現代音楽専門雑誌「音楽芸術」(音楽之友社発行)の編集に携われた後、30代半ばでご家族と共に渡米。ボストン・ニューイングランド音楽院にて修士号を、ハーバード大学にて博士号を取得された後、作曲、翻訳、教職等ボストンを拠点に活躍されています。都会的で洗練されたその作風。特にピアノ曲には、素敵な作品をたくさん書いていらっしゃいます。
「アメリカに来て自分が開放された」とおっしゃる小藤さん。確かに日本に比べてアメリカには、どこか自由な雰囲気があるように私も感じます。「例えばアメリカでは、犯罪者や難民の子供を、お金持ちが引き取って育てたりします。日本では、なかなか考えられないことですよね。因果応報、親の罪は子供に付いてくる、という儒教的思想が日本人の中には無意識に備わっているのでしょう。」なるほど、「無意識の思想」と考えると、私自身この渡米以来感じてきた日本人の特質も、納得できる気がします。
これまでは避けていらした邦楽器作品も、お筝と尺八を中心に、最近は積極的に書かれている小藤さん。アメリカの自由な空気の中でこそ生まれる新しい邦楽器作品!楽しみです。(2008/9/25)
ピアニスト、マーガレット・レン・タンによるレッスン最終回。今日は、先日の続きのノーマルピアノ曲、ジョン・ケージ作曲「四季」を見ていただき、最後に私の友人が作曲したアヴノーマルピアノ曲(!)を聴いていただきました。振り返ってみると、彼女の指導は一貫して「全ては楽譜に書いてある」ということ。'表現'しなくては、とどこか躍起になっていた私に対して、「楽譜に忠実にしていれば自然と耳が開いてくる。楽譜の上に自分の意思を付け加えようとしない!」と、常に諭してくださいました...。「'自分'ではなく'作品'。その優先順位の転換こそが、重要なのよ」...。今日やっと少し、その意味が身体で分かった気がします。(2008/9/24)
ジャズのメッカ、ニューオリンズのスペシャルバンド「THE PRESERVATION HALL JAZZ BAND」と、盲目のおじ(い)さんゴスペルグループ「THE BLIND BOYS OF ALABAMA」の演奏を聴きに、タイムズスクエアのB.B.Kingに行ってきました。全身で音楽を奏でる彼ら...。特にゴスペルは味があってノリがあって、お客さんも大熱狂!素晴らしかったです。それにしても、この圧倒的な迫力はどこから来るのでしょう...。お行儀良くピアノを弾いている場合じゃない!ソウル(魂)で弾かなきゃ!ソウルで!と、ものすごく感化されました。(2008/9/23)
コロンビア大学ドナルド・キーン日本文化センター。アメリカの大学の中でも、最も充実した日本文化研究機関のひとつです。その特徴は、「研究」のみならず「レクチャー」等のプログラムが充実していること。文学・歴史・政治・経済・そして芸術等、様々な角度から日本の紹介に努めていらっしゃいます。センタースタッフの素敵なお二人、ウォルシュ美穂さんと青木健さんに、お話を伺いました。興味深かったのは、「日本文化」と言っても、持たれるイメージは様々であるということ。お年を召した方にとっては、やはりお能・歌舞伎・茶道など、若い方にとっては、映画・アニメ・漫画など...。そのどれもを日本文化の一面ととらえて、様々な面から日本への関心を呼び起こしていくことの大切さについて伺い、とても参考になりました。先日体験した「ZEN」についても伺ったところ、ファッションとしての「ZEN」があることを!例えば「このインテリアはZENぽいね~」など、シンプルでミニマルな雰囲気に対して「ZEN」というイメージが当てはめられることがあるそうです。なるほど、外国から見ると、確かに日本や日本人は「禅」ぽい気が...。様々な人種がひしめくこの街で、自然体で柔軟に活動されていらっしゃるお二人のお姿に、ホッと安心感をいただいたひとときでした。(2008/9/23)
異文化の演奏について深く感じ入った日の夜、今度はトルコ人によるバリバリのトルコ文化を観に行きました。旋舞教団メヴレヴィーの、世にも不思議な音楽ダンス。白いワンピースを着た男性たちが、音楽に合わせて永遠に回転し続けるというものです。普段なかなか接することのできないこうした民族文化を観れるというのも、ニューヨークの魅力のひとつ。会場は多くのお客さんで埋め尽くされていました。そしてその味わいに満ちた独特な音楽ダンスからは、混沌とした土着の香りをそのまま嗅がせていただいた気がします。(2008/9/21)
私が今回奨学金をいただいているACC。そのシニアディレクター・Ralph Samuelson氏は、東京芸大に留学経験を持つ尺八奏者でもいらっしゃいます。そのRalph氏の演奏を聴きに、The Noguchi museumに行ってきました。日曜日の午後、ノグチ・イサムの彫刻作品に囲まれた和やかなコンサート。私のイメージでは尺八は、息の音が多い雑音楽器(!)だったのですが...、Ralph氏の音は、なんと澄んで美しかったことでしょう。楽器特有の雑音さえも、美しく聴こえました。彼にとって尺八・そして日本は全くの異文化。だからこそ感じ取れるその文化の浄化された姿、があるように思いました。私たちにとって、ピアノ・そして西洋は全くの異文化。もしかしたら、同じようなことが言えるのかもしれません。(2008/9/21)
ニューヨークでは、例えば本屋さんの日本コーナーなどで、「ZEN」という文字をよく目にします。日本といえば、SUSHI、SAKE、ZENなのでしょうか...。その「ZEN」をどのようにアメリカ人が受け入れているのかを知りたくて、日曜日の朝に座禅体験をしに行きました。アメリカ人のご指導のもと、ローマ字でお経を読み、座禅を組み、お説教を聞き...。面白かったのは、全員でお経を読む時。日本人ならば明らかに不協和音になるところで、どうしてもハーモニーが、それも長調のハーモニーがついてしまうのです。他の方々が教会に行く時間帯に、禅センターにいらっしゃる方々。信じるものは違っても、体にしみ込んだ音感は拭いきれないものなんだな、と妙な発見をしてしまいました。(2008/9/21)
実験音楽専門のライブハウスRouletteにて、オール即興演奏のコンサートを聴いてきました。ジャズなどの即興と違い、ルールがないところからその時その場で生まれてくる音楽...。ピアノ、お筝、チェロ、ドラム、そしてライブ・エレクトロニクスという楽器編成でしたが、特に日本人ピアニストのShoko Nagaiさんが素晴らしかったです。鍵盤だけでなく、ピアノの弦や、内部のライブエレクトロニクス機材を操りながらの演奏。その迫力といい持続力といい、楽譜に書かれた音楽からはなかなか出し得ないような強烈さを感じました。これぞニューヨークベースのエネルギー!参考にさせていただきたいものです。(2008/9/20)
ピアニスト、マーガレット・レン・タンによるレッスン3回目。初めて鍵盤のみで弾く普通のピアノ曲、ジョン・ケージ作曲「四季」を見ていただきました。彼女の家にはスタインウェイが3台あります。1台はインサイド奏法(ピアノの弦を弾く曲)用、もう1台はプリペアド奏法(弦に物を挟み音色を変化させて弾く曲)用、残る1台が普通の奏法用。今日はその普通用の素晴らしいピアノを弾かせていただいたのでした...。ところで私は、ピアノレッスンとは'良い部分を褒められる'ものではなく'悪い部分を指摘していただく'ものと、経験的に思ってきたのですが、彼女はとにかく褒めてくださいます。こちらも気分が良くなってノリノリで弾くと、また「ワンダフル!」(笑)。何が「良い」のかが、感覚的に分かってくる気がします。その彼女の'悪い部分の指摘'法は、「楽譜に書いてあってあなたがやれていないこと」。ただそれは、実際に目に見える音符や強弱の間違えではなく、例えば拍子感であったりフレーズ感であったりします。いわばその楽譜の裏側の感覚を磨いていくことこそが、演奏の質を高めることにつながる気がしました。(2008/9/18)
マンハッタンの夜景を対岸ブルックリンから見渡せる、素敵なコンサートに行ってきました。と言っても、驚いたことに会場(Bargemusic)は、停泊中の船の中!ゆらゆら揺れながらのコンサートでした...。内容は、ピアノとチェロと打楽器の3人組(Real Quiet)によるアメリカの現代音楽特集。現代音楽と言っても、アメリカらしい分かりやすい曲が多く、なるほどという感じでしたが、とにかく浮遊する中でミニマル・ミュージック(反復音楽)など聴いていると、なんだか呪文にかかりそうな気に...。揺れる船の中でシリアスな作品もやってしまうアメリカ人の強さに、感服でした。(2008/9/17)
アメリカ屈指の難関校、コロンビア大学。そこに約40倍の倍率を突破して入られた、すごい日本人がいらっしゃいます。作曲家・大西義明さん。高校よりアメリカに渡られ、パシフィック大学、イェール大学大学院を経て、この秋よりここニューヨーク、コロンビア大学博士課程へ!同じアメリカでも地域により全く雰囲気が違う、という話は私もよく聞いていましたが、確かに「コネチカット州のイェール大学に比べて、こちらはより多様性に富んでいて刺激的です」とのこと。「例えば、この人はジャズピアノがすごく上手くて、あの人はサックスの名手、そしてあちらの人はエレクトロニクスの凄腕、というように、同じ作曲科にも実に色々な人がいて...」。ニューヨークには、白人・黒人・黄色人と本当に色々な人種が普通に混在していて、それだけでも私は日本と全く違う雰囲気を感じますが、その「サラダ状態」の中で、「新しいものを吸収しながら、常に立ち止まることなく進んでいきたい」と語る大西さん。「Find your own voice」(個性を確立せよ)という教育色も強いというアメリカにあって、この世界都市から今後大西さんがどのように羽ばたかれていくのか、とても楽しみです。ちなみに、ピアノ曲も数曲書いていらっしゃる大西さん。ご自身のHPの音源があまりに素敵で、思わず楽譜をお願いしました!(2008/9/16)
次回のレッスン曲、ジョン・ケージ作曲「四季」について調べ事をしに、ニューヨーク市立舞台芸術図書館(The New York Public Library for the performing Arts)に行ってきました。場所は、あのジュリアード音楽院の向かい、メトロポリタン歌劇場やエイヴリー・フィッシャー・ホールを含むリンカーンセンターの一角です。現在センター一帯は大工事中で、本当の姿は分かりませんでしたが、アメリカ最高レベルの音楽文化が集結した凄い場所、ということは感じました。その中の、4階建ての大きくてお洒落な建物が、舞台芸術専門図書館。楽譜や専門書、CDやDVDが無料で借りれます。公共図書館にも関わらず、私が探していた現代音楽関連のものまであり、感激でした。これから何回か通うことになりそうです。(2008/9/16)
ピアニスト、マーガレット・レン・タンによるレッスン2回目。今日は、ピアノの他にホイッスルとラジオとトランプを使う作品...、ジョン・ケージ作曲「ウォーター・ミュージック」をみていただきました。1952年に作曲されたこの作品は、ピアノ曲というよりパフォーマンス作品!大きなポスターのような楽譜には、「0秒:ラジオON! 21秒:(五線譜上の)和音 30秒:ホイッスルを吹け!」など脈略のない指示が...。正直、訳も分からず練習していった私でしたが、この作品の、そしてこの作曲者の背後にある「音楽=生活=劇場」という思想を、マーガレット(彼女はこの類の前衛作品のスペシャリストでもあります)に伺い、改めて現代音楽の面白さを知りました。「まずは楽譜に書いてあることを全てやれるように。そうしないと、その作品の言いたいことが見えてこないでしょ。」このような作品でも、演奏者に問われるのは基礎意識の高さなんだな、と実感です!(2008/9/13)
「9.11」...。いつもより街に緊張感がある気がします。今日は、ダンスの一戸小枝子さんと、アートマネージメントの小野真理さんにお会いし、素敵なお話をたくさん伺いました。
一戸さんは、ジュリアード音楽院ダンス部門ご出身(渡米前には、桐朋学園子どものための音楽教室にてリトミックも教えていらしたそうです!)。振付家として数々の賞を受賞された後、ニューヨークでご自身のダンス・カンパニーを設立されました。以来、日本の伝統を取り入れたダンス作品のご創作を続けていらっしゃいます。フルブライト奨学生として渡米されて以来、数々の試練を乗り越えて現在の地位を築かれた一戸さん。あるベトナム人作曲家の「才能=忍耐」というお言葉や、ジュリアードで師事されたマーサ・ヒル先生の「あなたはアメリカ人にはできない作品を作っている。それをもっと強調しなさい」というメッセージなど、周囲の方々のお言葉によってここまできました、とおっしゃいます。でも私には、その自然体でチャーミングなお人柄こそが、ご成功の全てを生み出してこられたように思えました。レディーファーストの概念や、非営利団体への優遇など、アメリカと日本の違いについてもお話を伺え、とても興味深かったです![なお小野真理さんのインタビューについては、また改めてご紹介させていただきます。](2008/9/11)
おもちゃのピアノのための真面目な曲があるのを、ご存知ですか。アメリカの作曲家ジョン・ケージが1948年に作曲した「Suite for Toy Piano」が、最初の作品と言われています。オルゴールに似た淡く切ない響き...。その曲のレッスンを、"トイピアニスト"としても知られる前衛ピアニスト、マーガレット・レン・タン氏に受けてきました。彼女は、ジュリアード音楽院で女性初の博士号も取った秀才ピアニスト!おもちゃだからこそ問われる高レベルの演奏能力(リズム感、フレージング力、読譜力etc)を間近にし、どんなジャンルでも大事なのは基礎力なんだな、と実感しました。(2008/9/9)
近所のグッゲンハイム美術館に、コンサートを聴きに行きました。と言っても、日本の美術館でもよくあるようなミュージアムコンサートではなく、音楽とダンスと映像を融合させた創造的なもの。ニューヨークでは、このような融合アートが盛んなようです。内容は、クセナキス(現代作曲家)の音楽劇「オレステイア」の一部を、日本の能からイメージを得てリメイクしたもの。日本人の私にとっては、ちょっと神秘的すぎて笑っちゃいそうなところも多々ありましたが、周りの人々はものすごく真剣...。「そんなものかぁ」と感じ入った次第です。(2008/9/8)
土曜日の午後、現代音楽アンサンブル"パーカッシア"による公民館無料コンサートを聴きに、電車で30分ほどのクイーンズ地区まで行ってきました。駅から出たとたん、町の雰囲気がマンハッタンとは随分違って貧しいことに驚愕...。アメリカでは、市や州の助成によって様々な芸術活動が行われていますが、このコンサートもその一環でした。どう見ても現代音楽に詳しくはない人々を前に、初演作を含む新曲を次々と演奏していくアンサンブル。"のれる時はのるし、のれない時は寝るさ"といった観客のピュアな反応を見つつ、音楽には本当は現代も古典もない気がしてきました。(2008/9/6)
ニューヨーク2日目。今日9月5日は、作曲家ジョン・ケージのお誕生日です。亡くなって16年経つ今でも、毎年この日には、彼と親しかった芸術家や、彼に敬意を表する人々が集まって、各自彼への想いを表現します(一般無料公開イベント)。今年のお題は、「ケージの残した詩集(Mesostic)をもとに、各自自由にパフォーマンスをすること(ただし制限時間は、一人4分33秒!)」。詩集を忠実に読む人、自作品を演奏する人、エピソードを話す人...etc。お茶目な大作曲家・ケージが、今でも確実に人々に愛されていることを実感した夜でした。(2008/9/5)