大人のためのJAPAN10:一柳慧『ピアノ音楽第2』(1960's -1「アヴァンギャルド」)
アメリカの作曲家ジョン・ケージが作曲した《4分33秒》(1952)という作品を、ご存知ですか?3楽章から成るこの曲は、20世紀を代表する名曲のひとつと言えましょう。ただ楽譜には、「1 TACET(休)」「2 TACET(休)」「3 TACET(休)」と記されているのみ...。全曲通して一切音を発するな、という作品なのです!!!さて皆さんは、この曲をどう「演奏」しますか?
この作品を初演したピアニスト、デイヴィッド・チューダーは、ピアノの蓋を閉じることによって曲を開始し、開けることによって終了した、と伝えられています。つまり、ピアニストがピアノの前に座っているにも関わらず、聴こえてくるのは沈黙と、そこに浮かぶ雑音ばかり(聴衆の咳払い、ざわめき、外の環境音etc)...。ケージは、このように意図されない音に光を当てる試みを通して、"音楽=作曲家が組織するもの"というそれまでの西洋音楽の常識を覆す「偶然性の音楽」を提唱したのでした。その"あるがままの音を受け入れる"という音楽思想の背景には、禅など東洋哲学の影響があったと言われています。
こうしたケージの実験的な音楽は、ブーレーズやシュトックハウゼンなど、当時のヨーロッパの作曲家たちにも大きな衝撃を与えました。そのケージとニューヨークにて一緒に活動をしていた日本人作曲家に、一柳慧がいます。1961年、その一柳氏がケージの思想を携えて帰国。当時活発に現代音楽の啓蒙活動を行っていた「二十世紀音楽研究所」や「草月アートセンター」にて「偶然性の音楽」を紹介し、大反響を巻き起こしました。翌62年にはケージ自身も来日し、評論家・吉田秀和が「ケージ・ショック」と称したほどの大きな影響を日本の音楽界に及ぼしたのです。
(⇒一柳慧氏インタビュー「新しい発想を持って」へ!)
ところで、「偶然性の音楽」には、先の《4分33秒》以外にどのような作品があるのでしょうか。今回ご紹介するのは、一柳氏が1959年に作曲した《ピアノ音楽第2》です 。この曲の楽譜は、いわゆる図形楽譜。五線や音符の無い、絵画のような楽譜です。
「○:鍵盤を弾く」「●:ピアノの内部を弾く」「/:高音域」「―:中音域」...
などの奏法指示を読みながら、図形を音にしていく作業...。"五線譜に書き込まれた音符を一音も間違わずに弾くこと"に慣れてきた私たちにとって、図形楽譜による即興的演奏は、自分の音楽経験やセンスを実感させられる刺激的な体験と言えましょう。五線譜で凝り固まった頭のリフレッシュに...、いかがでしょうか。
「偶然性の音楽」は、 作曲行為そのものを否定するという点において、それまでの西洋音楽の根幹を揺るがすほどの衝撃を持つものでした。政治的にも「60年安保」を経て"反体制的"な気運が高まっていた日本にとって、その"反芸術的"とも言えるケージの音楽は、時代の求めるものでもあったとも言えましょう。そして、ケージ受容を経た日本の音楽界は、経済の「高度成長期」とも相まって、より一層自由に、独自の魅力を開花させていくことになるのです。
1940 | 40 | ♪諸井三郎《ピアノソナタ第2番》 |
41 | ♪早坂文雄《室内のためのピアノ小品集》 | |
46 | 「新声会」結成 | |
47 | 「新作曲家協会」結成 | |
48 | ♪平尾貴四男《ピアノソナタ》 | |
48 | 「地人会」結成 | |
1950 | ||
51 | 「実験工房」結成 | |
53 | ♪三善晃《ピアノソナタ》 | |
53 | 「3人の会」結成 | |
「山羊の会」結成 | ||
55 | 「深新会」結成 | |
57 | ♪湯浅譲二《内触覚的宇宙1》 | |
58 | ♪入野義朗《3つのピアノ曲》 | |
1960 | ||
69 | ♪入野義朗《ピアノのための4つの小曲》 |