大人のためのJAPAN9:湯浅譲二『内触覚的宇宙』(1950's-3「実験工房」)
凛とした静けさ、シンプルな動き、立ち昇る香り...。茶道の何とも言えない清楚感は、忙しい毎日に、ふと癒しの時間を与えてくれる気がします。今回ご紹介する作品、湯浅譲二作曲「内触覚的宇宙」にも、私は同じような魅力を感じます。繰り返される音塊、絵巻物のような無限感、日常生活では忘れがちな研ぎ澄まされる感覚...。心身の浄化(?!)に、いかがでしょう。
作曲者の湯浅譲二は、オシャレでダンディなお姿が印象的な、日本作曲界の大御所です。慶應義塾大学医学部在学中に音楽活動に興味を抱き、ほとんど独学で作曲を始めた湯浅氏は、その後、武満徹等と「実験工房」という芸術家グループを結成し、本格的に作曲活動を始めます。この♪「内触覚的宇宙」も、1957年の「実験工房ピアノ作品演奏会」にて、同じくメンバーだったあの名ピアニスト、園田高弘により初演されました(※)。
グループ「実験工房」とは、滝口修造(評論家・詩人)を精神的リーダーに仰ぐ前衛芸術家集団です。音楽・美術・文学・写真等の若手アーティストにより、1951年に結成されました。音楽家では、先の湯浅譲二、武満徹、園田高弘の他に、作曲の鈴木博義、佐藤慶次郎、福島和夫、また評論の秋山邦晴等がいました。このグループは、自分たちの作品演奏会の他、メシアンやシェーンベルクの作品紹介や、視覚・聴覚の複合的な実験作品の発表、また電子音楽等のオーディションなど、時代の先端を行く斬新なイベントを7年間で16回にわたって開催しました。
最先端のアーティスト集団...、しかしその華やかな活動の背後では、「西欧の前衛的技法に学びつつも、内容としてはあくまで東洋の美意識にこだわる」といった真面目な裏コンセプトが共有されていたと言われます。そしてその「東洋の美意識」とは、彼等の音楽上の師・早坂文雄の言葉によれば、「単純性(⇔西洋の複雑性)、無限性(⇔完結性)、非合理性(⇔合理性)、平面性(⇔立体性)、植物的感性(⇔動物的感性)」といったものでした。
西洋の現代音楽が、リアルタイムで日本にも伝わるようになった1950s。その影響を受けて、日本製ピアノ曲にも様々なものが生まれました。シェーンベルクの12音音楽を取り入れた「12音主義」系の作品、それに対抗する「パリ音楽院主義」系の作品、そして今回ご紹介した「実験工房」系の作品...。中でもこの「実験工房」系の「西洋技法+東洋精神」的な路線は、"Takemitsu""Yuasa"等の海外での知名度の高さにも見られるとおり、その後の日本の現代音楽の一つの大きな潮流となっていったのでした!
1940 | 40 | ♪諸井三郎《ピアノソナタ第2番》 |
41 | ♪早坂文雄《室内のためのピアノ小品集》 | |
46 | 「新声会」結成 | |
47 | 「新作曲家協会」結成 | |
48 | ♪平尾貴四男《ピアノソナタ》 | |
48 | 「地人会」結成 | |
1950 | ||
51 | 「実験工房」結成 | |
53 | ♪三善晃《ピアノソナタ》 | |
53 | 「3人の会」結成 | |
「山羊の会」結成 | ||
55 | 「深新会」結成 | |
57 | ♪湯浅譲二《内触覚的宇宙1》 | |
58 | ♪入野義朗《3つのピアノ曲》 | |
1960 | ||
69 | ♪入野義朗《ピアノのための4つの小曲》 |