大人のためのJAPAN4:早坂文雄『室内のためのピアノ小品集』(1940's-1「民族日本派」)
今回の「ピアノ曲MADE IN JAPAN」は、久々に「歴史編」です。...といっても、まずご紹介したいのは、オススメピアノ楽譜です!
早坂文雄作曲「室内のためのピアノ小品集」(全音楽譜出版社、1500円)。1~3分程度の小品が17曲集まった、それはそれは素敵な曲集です。難易度は、バッハ「インベンションとシンフォニア」、ドビュッシー「ベルガマスク組曲」などと同レベル(全音難易度:中級第4課程)。ピアニスト高橋アキ氏による指使いやテンポ表示も付いていて、日本人作曲家の作品集としてはとても見やすい楽譜になっています。
楽譜を開くと1ページ目に、作曲者の「作曲ノート」が載っています。そこにはこの曲集について、コンサート用ではなく「弾いて自らが楽しむ」ものとしてまとめたこと、日本には「芸術を生活化する」特性があるが、この曲集も「日常における深い静かな」ピアノ曲として役立てたいこと...などが記されています。自分のために弾く、日記のようなピアノ曲。ひっそり、じんわりした贅沢な音楽を、是非お聴きください。
早坂文雄「室内のためのピアノ小品集」より第3番
余談ですが...17曲中一番好きな曲を、と選んだのがこの第3番でした。 「Andante melanconia=ゆっくり憂鬱に」と記されたこの曲。「amabile=愛らしく」や「umoroso=ユーモアをもって」という曲もある中...、私って...もしかして根暗?とちょっと悩みました(笑)。著者HPでは、他にもいくつか音源(こちらは文字通り室内〔自宅〕録音!)を掲載していますので、よろしければご試聴ください。みなさんは、どんな曲がお好きでしょう?
「作曲ノート」にも見て取れるように、早坂文雄は日本の美学や美意識を愛し、伝統を常にリニューアルしていくことが使命、と考える作曲家でした。クラシック輸入以前からの日本音楽の伝統、ヨーロッパとは異なる文化や思想。それらを自身の現実に合わせながら受け継いでいくこと。この曲集からも、日本の音使いや時間感覚、モーツァルトやショパンとは違う何か、が確かに感じられます。ただそれが押し付けがましくないのは、この曲集が、日本をアピールするためではなく、日本人作曲家である自分と向き合うために、それこそ日記のように書かれたものだから、かもしれません。
この小品集は1941年戦時下に書かれたものですが、終戦後1947年春には、早坂は同じ志向をもつ清瀬保二・松平頼則らと、作曲家グループ「新作曲家協会」を作ります。戦争ですべてを失った当時の日本では、自らの手で新しい音楽を作ろうと、他にも異なる様々なグループが生まれていました。たとえば、"エリート西欧派"「新声会」や、"中間折衷派"「地人会」など。その中にあって早坂らの「新作曲家協会」は...、"民族日本派 "と称されていたのでした。
次回「歴史編」では、"エリート西欧派"をご紹介したいと思います。"民族日本派"との違いを、どうぞお楽しみに!