こどものためのJAPANピアノ作品集0:中田喜直作曲『こどものピアノ曲』
「ピアノ曲MADE IN JAPAN」では、これまでに、滝廉太郎や山田耕筰などの様々な作品をご紹介してきました。今回は、特集として「子どものためのピアノ曲MADE IN JAPAN」をご紹介したいと思います。レッスンに発表会に、お役立ていただければ幸いです!
大きな楽譜屋さんには必ず、小さな楽譜屋さんにも大抵置いてあるこの黄色い楽譜。中田喜直作曲「こどものピアノ曲」(音楽之友社、1200円)です。約50年前に出版されたロングセラー。楽譜屋さんに勤める友人は「心あるピアノの先生がよく買っていかれる」と言っていましたが、見覚えのある方、既にお使いの方も多くいらっしゃると思います。ベテランの先生の発表会プログラムでも、よく見かけますね。
作曲者の故・中田喜直氏は、ご存知 『夏の思い出』の作曲者です。その他 『雪の降るまちを』や、『ちいさい秋みつけた』など、私たちがよく耳にする多くの歌曲を作曲しました。でもこの中田氏、実はピアノ科ご出身なのです (ピアノ曲事典「中田喜直」を見る)。ピアノを弾く作曲家の作品には、手の動きとして弾きやすいものが多いですね。この曲集にも、指使いがしっかりと書き込まれていて、弾きやすい工夫がされています。
この曲集は、中田氏の友人でピアノの先生の、むらたせつこさんの依頼により作曲されました。楽譜のあとがきによると、むらた先生は「子どもの弾く曲の種類がだいたい一定してしまっていて変化のないこと」や「日本人の作曲のものがほとんどないこと」を残念に思われていたようです。その意図を汲み、「ピアノを勉強した少年時代を思い出して」書いたというこの曲集には、中田氏ならではの想いやユーモアがいっぱい詰まっているように感じます。
この曲集には全17曲の小品が集められていますが、まず面白いのは、曲の名前です。『いもむしとちょうちょう』 『げんきなこども』 『小さなお花のバレー』 『山のこども』 『スピード自動車』等...。私が特に面白いと思うのは『げんきなこども』や『山のこども』等、人物系の題名です。この曲集以外にも、中田氏の作品には『つよいおじさんのうた』『やさしいおねえさんのうた』『アルトのおばさん』『チェロを弾くおじさん』など、色々な人物が登場します。曲名は、生徒の想像力を喚起するためにも、また発表会などで聴く方々に楽しんでいただくためにも、重要な要素になりますね。私は以前、自分の生徒の発表会で『つよいおじさんのうた』を小学5年生の男の子に弾いてもらいましたが、その子の雰囲気ともマッチして(失礼!)会場のお客様にも大いに楽しんでいただけました。
難易度について、あとがきには「バイエル→チェルニー、その他正統的な練習曲」の併用本として、とあります。17曲の中には比較的やさしいものから難しいものまで様々な曲がありますが、最もやさしい曲でも手のポジション移動を伴うため、バイエル後半レベルからが適当かもしれません。ブルグミュラーレベルならば、どの曲も無理なく弾けるでしょう。ただ「曲の順序は、必ずしも技巧のむずかしさの順序ではありません」とのことでしたので、主に手のポジション移動に注目して、難易度順にもくじを並びかえてみました。
17曲の中には、リズムや手の交差の訓練になるものから、和音や調性の変化を感じ取るものまで、各々に特徴があります。ここではほんの一部ですが、曲のご紹介をさせていただきます(音源付)。
難易度 | 曲名&一言解説 |
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1 | 『ひとりぽっち』 |
題名から曲のストーリーが思い浮かぶような作品。 長調と短調の変化が面白い。 |
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4 | 『おまつり』 |
太鼓役の左手に、笛役の右手。 夏の発表会にオススメのいかにもおまつり的作品。 |
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7 | 『エチュード・モデラート』 |
同じようなメロディーが違う調で何度も登場! 雰囲気の変化を各々表現できると楽しい。 |
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9 | 『げんきなこども』 |
"げんきな"こどもをスタッカートで表現! (おまけ『つよいおじさんのうた』) |
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11 | 『夕方のうた』(01m30s) |
大人でも涙が出るような美しい作品。 左手の和音の変化が夕焼けを思い起こさせる。 |
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15 | 『エチュード・アレグロ』(02m20s) |
16分音符が華やかな作品。 『エチュード・モデラート』とセットで発表会に! |
中田氏の作品には、懐かしさを感じさせるような部分がよく出てきます。外国の教材にはあまりない類のこの懐かしさ...。その秘密は、使われている音階にあります。一般に音階といえば、7つの音を並べたものを思い浮かべられると思います。
中田氏の作品も、大部分はこの7音音階の音から作曲されていますが、ところどころでそれが5音になってしまっているのです。音階の4番目と7番目を抜いた「ヨナ抜き音階」。唱歌や演歌でも使われてきた日本の5音音階の音が、随所で使われているのです。例えば『夕方のうた』の右手など、懐かしさを感じさせるメロディーで調べてみると面白いかもしれません。
他にも「民謡音階」「律音階」など、中田氏の作品には、日本古来の5音音階から作られている部分が多く見られます。その音の選び方こそが、中田節独特の魅力になっていると言えるでしょう!
どこか懐かしさを秘めた曲集、中田喜直「こどものピアノ曲」。これまでの教材にプラスして、あるいは発表会のプログラムの一部に、是非ご活用ください!こどもたちの感性が、きっとちょっと豊かになる...そんな気がします!