Category XXV「カプリス Capriccio」
当シリーズ最後のカテゴリーに「カプリス」を据えた。「奇想的」と訳されるこの曲種の起源は16世紀に遡る。「気まぐれ」を意味するように、特定のリズムや様式はなく、これまでのカテゴリー名などに当て嵌まらない音楽の総称ともなり得よう。ただ、この世代における「カプリス」の直接のモデルとなったのは、パガニーニのヴァイオリン独奏のための「24のカプリス」Op.1と考えられる。従って概ね快活で技巧的な作品が多く見られる。
僅か23才で早世した鬼才ルードヴィヒ・シュンケ(1810-1834)が残した作品は14点に過ぎない。しかしながらシューマン、ショパン、ヘンリエッテ・フォイクトらに捧げられたそれらの作品はピアノ音楽史上重要な意味を持つ。シューマンは「トッカータ」Op.7でこの盟友を讃えた。「カプリス第1番」はクララ・ヴィークに献呈されており、才気煥発なシニングの面影が偲ばれる。
pf:Osamu N. Kanazawa (録音:2017/7/28)
パリ音楽院出身のレオン・オノレ(1818-1874)については未だ情報が乏しいが、ロシア・イタリア滞在を経て、ニースに没した人とみられる。確認できる作品は極めて僅かながら、アルカン(Op.38)やニコライ・ルビンシテイン(Op.11)からの洗練された作品献呈を考えると相当に傑出した音楽家であったことは疑い得ない。ここでは「2つのカプリス」からの第1曲を提示する。盛り上がりのない回転木馬のような調子は、尋常ならざる気配がある。
pf:Osamu N. Kanazawa (録音:2017/7/28)
ドイツの作曲家カール・ズィーマース(1817-1876)については作品、情報ともに詳細は不明である。Op.が一桁のもの、60番代ものもがそれぞれ数点ベルリンの図書館に残されていることから、70点近い作品があったようだ。穏健な小品が多いようだが「ツィゴイネル・カプリス」は行進曲の様式による初期の意欲作。
pf:Osamu N. Kanazawa (録音:2017/7/28)
ベルリンの音楽家、アルベルト・レッシュホルン(1899-1905)の200点を超える作品は総てピアノ曲で、中上級の学習教材を多く含む良心的な内容である。鋭い創意は見られない代りに、充実した力量を誇る教育者としての人格が窮知される。この世代にあっては貴重な存在といえる。華麗なカプリス「ファンファーレ」で「ピアノ・ブロッサム」を締め括ることにしよう。
pf:Osamu N. Kanazawa (録音:2017/7/28)