Category XXI「タランテラ Tarantelle」
ナポリに代表される南イタリアの舞曲タランテラ。概ね6/8拍子の急速で弾くようなリズムの音楽がピアノに導入されたのはこの世代からのようだ。ここでもショパンの作例はその嚆矢となっていて、改めて彼の進取性に驚かされる。
ただ、本質的に野趣で熱狂的性格の音楽は、当時のピアノの優雅なサロン的雰囲気とどこか噛み合わず、また洗練し過ぎるとタランテラの魅力が損なわれるなど、作品の成功例は少ない。楽曲と音色を釣り合わせるだけの視点の設定、知的な配慮が必要となる。以下に挙げた作品は、いずれも異なる形でそれをクリアしたものとなっている。
フランツ・リスト(1811-1886)最後の編作が、この「キュイのタランテラ」である。ロシア王人組のメンバーで辛辣な批評家として知られたセザール・キュイ(1835-1918)のピアノ4手作品(Op.12)を独奏用にしたものではあるが、単なるトランスクリプションではない。最初から最後までほとんどがリストの手によるオリジナルで、時折原曲が聴こえてくる、といった形である。このようなオリジナルとも編曲とも言い難い自由な編作は、リストのショーマンとしての体験によって開かれた、新たな領域であった。
pf:Osamu N. Kanazawa (録音:2017/4/26)
ドイツのラッハナー3兄弟と並ぶ、マンゴルト3兄弟の次男、カール・ゲオルス・マンゴルト(1812-1887)はピアニストとしてロンドンで活躍した。作品は少なく、30点程度で、しかもピアノ曲ばかりではない。このタランテラは「星」と題された3つの性格的小品Op.20の第3曲で「美しきエスパニョール」のタイトルを持つ。
pf:Osamu N. Kanazawa(録音:2017/4/26)
パリの名ヴァイオリニスト、ピエール・バイヨ(1771-1842)の息子、ルネ・バイヨ(1813-1889)はピアニスト、教師として30点余りの作品がある。小規模な小品ばかりとはいえ、知的なアイロニーを秘めた独創性が光る。2曲のタランテラがあり、これはその1番である。
pf:Osamu N. Kanazawa (録音:2017/4/26)
ウェールズ出身のヘンリー・ブリンレイ・リチャーズ(1819-1885)はこの世代におけるイギリスのサロン風ピアノ曲の最大の量産者である。大半がアマチュア向けの内容で、変ホ長調、もしくは変イ長調の曲がやたら多い。チャールズ・ハレに捧げられたこのタランテラは、さすがに名手を想定したものだけに、格別な秀作となっている。
pf:Osamu N. Kanazawa (録音:2017/4/26)