Category XX「Spirit」
このカテゴリーでは妖精や小人、神霊をひとまとめにした。これらもピアノ音楽の中では無視できないテーマであり、当然人間とは異質の、それでいて生命感溢れる表現が求められることになる。だがこうした題材は花や昆虫以上に創意が必要とされる。漫画のようになってしまい易いからだ。特に19世紀のピアノ音楽で現在するのはリストの「小人の踊り」ほか僅かな例しかない。
子供用に書かれたとみられる、エステンを除いて、他の3名はリスト同様、極めて高度なピアニズムを用いてそれらを写し出している。
子供の発表会などで誰もが知る「人形の夢とめざめ」。しかし、その作曲者テオドール・エステン(1813-1870)についてはほとんど知られていない。彼が生涯に書いた初心者・愛好家向けピアノ曲は1000曲にのぼるとみられる。かの「人形」が象徴するように、彼の作品はどれも人形の如く表情に変化がなく、紙芝居のように平面的に見える。その異様さが一種の魅力につながっている。バレエ・シーン「水の精と地の精」は典型的な例であろう。
pf:Osamu N. Kanazawa(録音:2017/4/3)
パリ音楽院出身ながら、タールベルクに圧倒的感化を受けたエミール・プリューダン(1817-1863)は、フランスのタールベルクというべき存在である。約70点のピアノ曲はタールベルク以上に滑らかな音感、暖かく内省的な表情に富んでいる。代表作の一つ「妖精たちの踊り」はベルリオーズに捧げられ、無窮動のエチュードの形をとっている。
pf:Osamu N. Kanazawa(録音:2017/4/3)
19世紀屈指のピアノ教育者として名高いテオドール・クラク(1818-1882)はチェルニーの衣鉢を継ぐ。彼の門弟にはニコライ・ルビンシテイン、シャルベンカ兄弟、モシュコフスキらが名を連ねる。今日では僅かに「オクターヴ練習曲」の作者として知られるが、120点を超える作品があり、その多くは深い情感と魅力的な表情を特徴とする。初期の「妖精の輪舞」は妖精たちの発動を生きいきと描く。
pf:Osamu N. Kanazawa (録音:2017/4/3)
カルロ・アンドレア・ガンビーニ(1819-1865)はゴリネッリと並ぶイタリアのピアニスト=コンポーザー中興の祖といえよう。150点近いと思われるその作品は、ゴリネッリのような歌謡性はないが、より高雅で洗練されており、爽やかな印象を与える。「イリーデ」は虹の女神で、バレエ風のリズムに乗って、時折虹のような音階を繰り出す。
pf:Osamu N. Kanazawa(録音:2017/4/3)