ピティナ調査・研究

Category XIX「泉 Fountain」

Category XIX「泉 Fountain」

Fontaine=フォンテーヌは泉・噴水を指す言葉であり、この2つの異なる事象を一括りにする謂われは、湧き上る水のイメージにあるのだろう。情感とは別の、こうした即物的な描写、質感はドビュッシーやラヴェルに先立つ時代にあって、どのように表現されていたのだろうか。

ここでの4名の作曲家たちは、いずれも長調で、メロディを支える伴奏のフィギュレーションを水の流れに模している。とはいえ、テンポ感、表情はまちまちで、各人の個性が鮮やかに描き分けられている。

なお、リストの有名な「エステ荘の噴水」は、原題が「水の戯れ」であって、これを「噴水」と訳すのは無理があるように思う。


ヴィオラ奏者として高名だったベルトルド・ダムケ(1812-1875)の約60点の作品のうち、ほぼ半数がピアノ曲で占められる。ピアニスティックにこなれたピアニストとしての技倆が伝わる内容だが、巧みな対位法、やや控え目な音感は明らかにヴィオラの音色と重なるものがある。Op.8は「2つの性格的小品」と題され、「泉」はその第1曲。

B.Damcke:La Fontaine Op.8-1 ホ長調
pf:Osamu N. Kanazawa (録音:2017/2/20)

かつて「詩的練習曲」Op.53で広く知られていたエルンスト・ハーバービロー(1813-1869)はケーニヒスベルクに生れ、ノルウェーのベルゲンで演奏中に落命した。その華々しい独自のピアニズムはOp.1のエチュード「噴水」(これは明らかに泉ではない)に満載されている。このタイトルにおける、最も傑出した作品であろう。

E.Haberbier:La Fontaine, Etude Initative Op.1 変ホ長調
pf:Osamu N. Kanazawa(録音:2017/2/20)

この世代のイギリスを代表する作曲家、ウィリアム・スダンダール・ベネット(1816-1875)は、メンデルスゾーンやシューマンらとの親交もあって、ドイツ風のロマンティシズムをイギリスにもたらしたといえるだろう。シューマンが「交響練習曲」Op.13を献呈したことでも知られている古典的な様式感、イギリスのナチュラルな素地にドイツ・ロマンの息吹が適度に流れ込み、バランスのとれたものとしている。「泉」は「3つの音楽のスケッチ」Op.10の第3曲。

W.S.Bennett:The Fountain Op.10-3 ロ長調
pf:Osamu N. Kanazawa(録音:2017/2/20)

一説にはリストを凌ぐといわれる超絶技巧と、けたたましい音量の演奏で聴衆を驚倒させたボヘミアの名手、アレクサンダー・ドライショック(1818-1869)。そのインパクトから一種奇人・変人的な扱いでその名を持ち上げられがちだが、作曲家としての構造的で充実した作品について、注意が払われなくてはならない。「泉」Op.96は後期の比較的地味な小品だが、ブリリアントな彼のピアニズムが確かに窺える。

A.Dreyschock:La Fontaine Op.96 変イ長調
pf:Osamu N. Kanazawa(録音:2017/2/20)
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