ピティナ調査・研究

Category XIV「ソナタの第2楽章」2nd Movement of Sonata

Category XIV「ソナタの第2楽章」2nd Movement of Sonata

ピアノ・ソナタはベートーヴェンを頂点として極められた後、休息に下火となった。ベートーヴェンの創作史はピアノの発達史とほぼ重なるが、この曲種は元来が「交響曲」 の独奏用転写といった性格を持っていて、ピアノの音色の上に成り立ったものとは考えにくい。それは次第に耳が聴こえなくなっていくベートーヴェンが、それと同時に現実のピアノの音色から離れ、思索と空想によって作品を構築していったことと深く関わっている。
しかし、ソナタの伝統はその後も重いテーマとして引き継がれ、ショパン世代の作曲家たちも少数ながら取り組むことを忘れなかった。この世代ではタウベルトとエヴェルスが各6曲のソナタを書いているのが最多である。ここではその「第2楽章」をテーマに据えた。


ユリウス・エミール・レオンハルト(1810~1883)の厳格かつ高雅な音楽は、メンデルスゾーンを健全にしたような印象がある。残念ながら残された作品数は少なく、Op.番号 では25を数えるうち、研究できるピアノ曲は3点のみ。「ソナタ・クァジ・ファンタジア Op.5」は、学習時代の総仕上げとしてコンクール入賞した作品で、一つの主題が4つの楽章を統一する仕掛けとなっている。第一楽章はヘ短調

J.E.Leonhard:Sonata quasi Fantasia Op.5, 2nd mov. Andante(変イ長調)
pf:Osamu N. Kanazawa(録音:2016/12/12)

ヨハネス・リーツ(1812~1877)はベルリン出身のチェリスト・指揮者。ピアノ曲の割合は少ないが2曲のソナタがある。当然ながらその内容はピアニスティックではなくシンフォニックなもので、この第2楽章は穏やかなスケルツォ楽章に当り、緩徐楽章の第3楽章から終楽章へは切れ目なくつながる。まさにベートーヴェンとブラームスをつなぐ時代の交響曲を思わせるものがある。

J.Rietz:Sonata Op.17、2nd Mov. Molto moderato (イ短調)
pf:Osamu N. Kanazawa(録音:2016/12/12)

19世紀イギリスを代表する巨匠、サー・ジョージ・アレクサンダー・マクファーレン(1813~1887)のピアノ曲は3曲のソナタに限られる。オペラや合唱曲に力を注いだらしく、この第3ソナタも、劇的で声楽的なフレージングが特筆される。激しく主観・主情をぶつけるタイプの音楽ばかりが「ロマン派」として高く評価されたことで、古典的格調や節度を重んじたこの時代のイギリス音楽が顧みられなくなったのは、ひとえに評価する側の問題であろう。

G.A.Macfarren:Third Sonata, 2nd mov. Andantw (変ホ長調)
pf:Osamu N. Kanazawa(録音:2016/12/12)

知的で洗練され、しかも情緒豊かなテオドール・グーヴィ(1819~1898)は近年復興のきざしが強い。どこかビゼーを先取りしている感があるが、ビゼーよりはるかに楽観的である。
ここでは2曲のソナタのうちの1番を取り上げた。オペラでもヴィルトゥオーゾ指向でもない、こうした端正な作品は、フランスのピアノ音楽史上、貴重な意義を持っている。

Th.Gouvy:Sonata Op.17. 2nd Mov. Andante con moto (ハ長調)
pf:Osamu N. Kanazawa (録音:2016/12/12)
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