ピティナ調査・研究

Category VI 「エチュード」

Category VI 「エチュード」

この世代のピアノ曲で最も意欲的・先鋭的なジャンルがエチュードである。日本語では「練習曲」とされるが、ショパンやリストの例が示すように、エチュードは単なる指の訓練曲ではなく、高度な技術と音楽性の双方を追求するものとなっている。特に1830年代から50年代にかけて、ピアノ音楽史を代表するような優れたエチュード集の数々が上梓された。それらのほとんどは今日闇の中にある。形としては6曲、12曲、24曲などの曲集が多くみられ、また単一曲のエチュードも少なくない。ここでは特定の標題を持たない、特徴的なエチュードを拾い出した。


プラハ出身のジギスムント・ゴルドシュミットは6曲からなる2つのコンサート・エチュード集(Op.4,13)を残している。それらは技術的な華々しさよりも、内に情熱を秘めたタイプの音楽であり、節度と品位を特長とするこの作曲家の個性を反映している。Op.13-1は左手に重点を置いたエチュード。

 「バラード」Op.17はショパンと同じト短調で書かれ、メロディをほとんど登場させず、リズム動機の反復と和声進行によって劇的効果をもたらす異色作である。同郷出身のE.ヴォルフに献呈。

ジギスムント・ゴルドシュミット:「6つのコンサート・エチュード Op.13」より 第1曲 ホ短調
Sigismund Goldschmidt / Zwölf Concert-Etüden Op.13 No.1
pf:Osamu N. Kanazawa(録音:2016/4/24)

ベルギーのグレゴアール兄弟の兄、ジョセフの神秘的な叙情性は特筆すべきものがある。「エコール・モデルヌ」と題された4冊分の「24のグランド・エチュード Op.99」は各曲が当時の名ピアニストたちに書かれた力作。第5番は右手の無窮動で、ジョセフィーヌ・マルタンへの献呈曲。黎明の光を思わせるようなコラールが美しい。


サンクト・ペテルスブルグに生れ、ロンドンを中心に活躍したアレクサンドル・ビエはベートーヴェンのハンマー・クラヴィーアソナタを最も早い時期に公開演奏したピアニストでもあった。Op.番号にして70を超える作品を残したが、現在確認できるのは20点足らず。Op.34はジュール・リッタ伯爵なる人物のバラード「インドの恋人たち」によるメロディを用いた単品のグランド・エチュード。華麗な技巧を散りばめたショー・ピースになっていて、原作者に献呈されている。

アレクサンドル・ビエ:「グランド・エチュード Op.34」 ニ短調
A. Billet / Grande Étude, sur la ballade Gli Amanti Indiani
pf:Osamu N. Kanazawa(録音:2016/4/21)

パリで活動したレオン・クロイツェル(1817~1868)は評論家としても高名で、ベートーヴェンの「クロイツェル・ソナタ」で知られる、ルドルフ・クロイツェルの甥に当る。1860年に出版された「ラ・ジムナスティック(体操)~6つのエチュード」は音楽的にも異色作であるだけでなく、技術的にも不条理なものとなっている。Op.番号が付けられていない点からも、この曲集が特殊な実験作であることを示すものだが、その時代を超えた才智に驚嘆する。

レオン・クロイツェル:「ラ・ジムナスティック~6つのエチュード」より第5曲 ヘ長調
Léon Kreuzer / La Gymnastique du piano, Six études, No.5
pf:Osamu N. Kanazawa(録音:2016/4/21)
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