上海メッセ・レポート
2005年10月、上海で開催された楽器博覧会を取材することができました。会場の広さは11月に横浜で開かれた日本の楽器フェアの数倍あり、胡弓や巨大な銅鑼など、中国の民族楽器を扱った一画は見た目にも楽しいものでした。ピアノのメーカーも数十社が出展しており、会場全体ではおそらく数百台に及ぶ壮大な規模でした。
最初に弾いた中国製ピアノはドイツ風のブランド名で、金メッキの装飾が豪華な雰囲気を出しているのですが、音は耳障りとしか言えないようなものでした。塗装はところどころ波打っており、数ヶ月でひび割れると思います。そのピアノは最もひどいものでしたが、ブースを構えている数十社のメーカー製品中、率直に言って品質の怪しい楽器の方が多数でした。そのような中で日本製や欧米製品を試し弾きすると、段違いと言える品質の確かさを感じることができました。中古の国産楽器を扱っているブースもいくつかありましたが、外見は古びていてもやはり新品より格段に状態が良いと言えるものでした。
パールリバーのような有名ブランドの楽器については、さすがに動作面での不安は無さそうです。ただ、音質は乾いた感じで独特なものでした。展示会場は同種のイベントが大抵そうであるように騒音だらけで、微細な音の違いを聞き取れるような環境ではなかったのが残念です。より落ち着いた環境でいずれまた弾いてみたいと思います。
なお、Wendl & Lungというかなりしっかりした品質のピアノを展示しているメーカーの設計者の方(オーストリア人)には、詳しく話を聞くことができました。この会社はウィーンで創業したそうで、これはヨーロッパのメーカーによる海外生産というべきもののようでした。
上記に紹介したようなメーカーの楽器は国内でも流通していますが、インターネット上の情報を見る限りでは国産ピアノとそれほど価格差はありません。ブランドイメージの差などを考慮すると、格安とまでは言えません。
中国は「世界の工場」と呼ばれるまでの工業国となり、製品の品質向上も著しいと言われていますが、いまだ玉石混交の様相が強いことは否めません。自動車などでは過剰な生産能力が問題となりつつ(日経新聞の記事によれば、2004年の自動車販売台数は570万台だそうですが、870万台生産する設備があり、220万台分生産するための施設が建設中とのこと)ありますが、それはピアノも同じことでしょう。それにも関わらず、比較的品質の高いものは中国製とはいってもそれなりに高価です。
現在の中国では、ピアノを「作れば売れる」という状況だそうで、現在はまだ粗製濫造をしてもある程度売れるという事情があるようです。しかし、かつて日本にあった多数のメーカーが淘汰されたのと同様、中国人のピアノに対する審美眼の向上とともに、ピアノメーカーも今後競争にさらされて良いものが残っていくことと思います。
文責 実方 康介