ブリュートナー・レビュー
第二次世界大戦前はベヒシュタインと並ぶ有名メーカーだったという伝統あるブランドです。しかし私自身は最初そのような歴史も技術的な特徴も知らず、ほぼ先入観のない状態で音を鳴らし、素晴らしさを感じることができたので、幸運な出会いでした。以前、スタインウェイの良さを理解するのに時間がかかった、と書いたことがあるのですが、それは「スタインウェイは世界最高のピアノ」という評価があまりにも浸透していて、私個人のひねくれた性格上、まずはそれに懐疑的にならざるをえなかったからかもしれません。そのようなわけで、人間が先入観から逃れることは不可能ですが、一方で、幸運な出会い方というのもあります。
ベーゼンドルファーの取材中、同じショールームに置かれていたフルコンサートピアノをほとんど気まぐれに試弾したのが、その出会いでした。280cmの奥行きがあるフルコンとしてもやや大柄なピアノは、滑らかな操作性と上質感ある音質を持っていると感じました。直前に試弾していたベーゼンドルファー・インペリアルはとても状態がよく、その場を離れるのが惜しいくらいに楽しい楽器だったのですが、ブリュートナーに関してはまったく無知だったにも関わらず、劣らない魅力を感じたので最初は驚きました。もちろんベーゼンドルファーとは大きく性質が異なりますが。その後最も小さい奥行き154cmと190cmのピアノを試弾し、フルコンに強くあらわれている魅力を、普及モデルも備えていると感じ、深く興味を持つことになりました。
ブリュートナーピアノは高音の豊かさに特徴があると言われます。ブリュートナーのグランドピアノ(154cmは除く)は高音部にハンマーで打弦されない弦を持っています。それは基本弦の倍音を強調し、響きを良くする目的で張られています。一般のピアノの中高音部が3本弦であるのに対し、ブリュートナーは4本の弦を持っています。これはアリコートと呼ばれ、現代の他メーカーでも採用例がありますが、もともとはブリュートナー独特の機構でした。その音は「輝かしい」とか「きらびやか」と表現するのも外れてはいないのですが、私は「力強く」と言うのがふさわしいような気がします。
取材の過程で、現社長のクリスティアン・ブリュートナー氏の講演を聴き、インタビューを行なう機会を得ました。創業以来ライプツィヒを本拠としてきたブリュートナーは、東西ドイツ時代には東側にありました。現代にあっても創業者直系による経営を守っている珍しいメーカーでもあります。しかし第二次大戦では工場が焼けてしまい、会社そのものが存亡の危機に見舞われました。また、東側時代の1970年代から1990年にかけて、会社は一度国有化されました。20世紀後半は、この会社の長い歴史の中で苦難の時代でした。
ドイツではベルリンの壁崩壊後も、とかく東西の経済的な格差が問題とされます。どちらかというと暗い話題の多い旧東ドイツですが、その中にあって現社長の積極的な経営姿勢からは、伝統と品質に対する高い自信が感じられました。それはピアノそのものが持つ魅力となって結実しているようです。
グランド | ||
機種名 | 奥行き | 国内価格 |
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Model No11 | 154cm | 4,410,000 |
Model No10 | 166cm | 5,040,000 |
Model No6 | 190cm | 5,775,000 |
Model No4 | 210cm | 6,615,000 |
Model No2 | 238cm | 8,715,000 |
Model No1 | 280cm | 12,075,000 |
実方 康介(2005/9/2)
- ブリュートナーの音を聴きたい
⇒こちら - 参考:ブリュートナー・ホームページ