アポロ・レビュー
現在の中国と同じように、かつて日本にも多くのピアノメーカーが存在した時期がありましたが、統合、廃業が進んで今では数社を残すのみとなりました。東洋ピアノ製造はグランドピアノを製造できる数少ない国内メーカーのうちの一つで、ヤマハ、カワイに次ぐ第3のメーカーです。私は今回の取材ではじめてその製品に触れました。
アポロピアノはその東洋ピアノで作られるピアノのブランドです。そのラインナップの中で私が最も興味をもち、かつ弾いた時のインパクトも大きかったのはSSSシリーズのアップライトピアノです。グランドピアノの左ペダルはソフトペダルあるいはシフトペダルと呼ばれ、アクション全体がずれることによって、ハンマーが打弦する位置が変化し、これによって音色が変わります。ぐっと踏み込めばハンマーがたたく弦が2本になるので音が弱くなりますし、ハンマーフェルトの硬さもかわりますので、踏み方によって様々な音色を作ることができます。いっぽう通常のアップライトピアノは左ペダルを踏むと、ハンマーが弦に近づく仕組みになっています。このため、打弦までの距離が短くなって弱い音がでます。この機構ではどうしても表現の幅がグランドピアノより狭いですし、ハンマーの勢いが削がれますので、連打性能が落ちてしまうという問題点を抱えています。 この問題点を解決するため、アップライトには難しいとされていたシフトペダルを搭載したのがSSSモデルです。試弾したSSSモデルの隣には通常のアップライトピアノもあったので比較できたのですが、早いパッセージを弾くときには、明らかな差がありました。複雑な機構を収めるためか、SSS搭載モデルはアップライトピアノとしては大型です。また、通常のアップライトピアノよりも高価です。しかしグランドピアノに限りなく近いタッチからは価格以上の価値を感じることができました。
グランドピアノの生産台数は多くないそうですが、ゲール・アポロと名づけられた上位機種を弾くことができました。操作性の高さ、明るい響きなどからスタインウェイピアノに似ているという感想を持ちました。東洋ピアノでは新品をはじめ様々な年代のスタインウェイピアノの販売も行っています。その修復工房を見学させていただいたのですが、その業務を通じてピアノ作りに関しても多くのノウハウが蓄積されつつあるようです。スタインウェイをはじめ世界のピアノも深く研究しつつ、あくまでピアノメーカーとして独自の方向性を探ろうとする姿勢に、ものづくりにこだわる人たちへの敬意を感じました。ゲール・アポロはその努力の成果が注ぎ込まれた楽器であると言えそうです。
グランド | ||
機種名 | 奥行き | 国内価格 |
---|---|---|
Ger.Apollo | ||
A-171E | 171cm | 2,625,000 |
A-188E | 188cm | 2,940,000 |
RGシリーズ | ||
RG-30 | 188cm | 1,890,000 |
RG-35 | 206cm | 2,100,000 |
RG-38 | 231cm | 3,255,000 |
アップライト | ||
機種名 | 高さ | 国内価格 |
SSSシリーズ | ||
RU-350E | 126cm | 724,500 |
RU-385E | 132cm | 829,500 |
RU-388M | 133cm | 1,029,000 |
RUシリーズ | ||
RU-5 | 126cm | 661,500 |
RU-8 | 132cm | 798,000 |
- 価格は2005年9月時点のものです。
実方 康介(2005/9/2)
- 取材協力 | 東洋ピアノ製造株式会社 |