シュタイングレーバー・レビュー
シュタイングレーバーはワーグナーファンの聖地としても有名なドイツのバイロイトに工房を置く小さなピアノメーカーです。日本ではその名前はあまり知られていませんが、ヨーロッパではピアノの品評会において高い評価を得るなどの実績もあり、トップブランドの一つとして認知されているようです。
グランドピアノのラインナップは奥行き168cm、205cmとフルコン(272cm)のみです。1820年代の創業ですが、製造台数はアップライトも含めて2005年1月時点で通算5万台以下。特にグランドピアノは月に数台という少量生産だそうですので、モデル数としてはこのくらいが限度でもあるでしょう。しかし、このラインナップには非常に説得力があります。
まず驚くのはモデル168の音の豊かさです。168cmといえば国内で売れ筋と言われる180~190cmくらいの中型グランドピアノより一回り以上小さいコンパクトなものですが、低音の圧倒的な音量や豊かな響きは、小ささをネガティブなものとして意識させることはないでしょう。このモデルで外見上の特徴として挙げられるのは平面形が円形に近い、ということです。ピアノの右サイドの「くびれ」が浅く、奥行きが短い割には占有面積が広くなっています。結果として響板が同じ奥行きの他モデルより大きく、低音の弦が長くなっています。モデル205はまだ1台しか試弾の機会を得られていないのですが、音量、操作性ともに大型ピアノらしい重厚さが増していて、非常に魅力的な楽器でした。コンサートグランドの272は、残念ながら日本国内にはまだ無いそうです。
アップライトピアノには5種類のサイズがあり、それぞれにかなり多様なデザイン上のバリエーションが用意されています。異例のダブル・エスケープメントアクション(通常はグランドピアノ特有の機構。グランドピアノ並みの反応が得られる)を備えたモデル、前面が布張りとなっていて音響を確保するという大胆な設計のもの、かなり奇抜な色使いとデザインのものなど、さまざまな試みがされています。カタログによれば、アレルギー体質の方に合わせた健康に優しい素材のピアノなどもあるそうです。もし状態の良いアップライトに触れたとすれば、溢れ出るような豊かで深い響きや、滑らかな操作性に驚かれることと思います。
シュタイングレーバーのピアノは見た目にも質実剛健そのものといった作りでとても品質が高いのですが、注意すべきは個体差がかなり大きいと思われる点です。モデル168については何台か試弾したり音を聞いたりする機会を得ました。比べてみると音量などの基本的な性能は変わらないと思われるものの、音色にはかなり個性の違いを感じました。ただし、これらの点はメンテナンスの状態でも変わりますので、本気で購入を検討される際には、技術者の方に好みの音を伝えてみると良いでしょう。オーダーする手もありますが、おそらく高くつく上に納品が半年以上先になりそうですし、出回っているものにかなりの個体差があることを考えると、既存の楽器から選んだ方が安心な気がしないでもありません。
いずれにしてもこの種のマイナーな楽器を購入するには、さまざまなピアノを比較して知識や感覚を磨くとともに、地道に足を使ってのお店巡りや運も必要かもしれません。しかし、どのモデルでもよいので、一度状態のよいシュタイングレーバーに触れたとすれば、その魅力はすぐにお分かりになるものと思います。
グランド | ||
機種名 | 奥行き | 国内価格 |
---|---|---|
168Studio | 168cm | 5,900,000 |
205Studio | 205cm | 7,900,000 |
C-272 | 272cm | 受注生産 |
アップライト | ||
機種名 | 高さ | 国内価格 |
110Tradition | 110cm | - |
116Tradition | 116cm | 2,350,000 |
122Tradition | 122cm | 2,800,000 |
130Classic | 130cm | 3,500,000 |
138Classic | 138cm | 3,800,000 |
- 価格は2004年11月時点のものです。
実方 康介(2005/2/4)
- 取材協力 | ヨシカワピアノカンパニー |