ピティナ調査・研究

第27回 石井なをみ先生

レッスン室拝見

石井なをみ先生のレッスン室は、ご結婚とともにご実家から宝塚市のマンションに移りましたが、1995年1月17日の阪神・淡路大震災でどちらも被災されました。震災後に移り住まれた現在の石井先生のご自宅は、阪急西宮北口駅から徒歩15分程のところ、関西学院大学や神戸女学院などの名門校が並ぶ閑静な住宅街にあります。ご自宅のレッスン室からは、美しいピアノの音色と楽しそうな笑い声が聞こえてきます。
「石井なをみ先生のマル秘スーパーレッスン術~楽しくなければ続かない!やれば出来る!!」でも有名な石井先生は、ピティナ・ピアノコンペティションにおいてA2級~G級の幅広い年齢層で全国大会上位入賞者を指導さ れており、地元の兵庫県立西宮高校音楽科で東京芸大、京都芸大をはじめ多くの難関音楽大学での合格者を輩出されています。また、ピティナ神戸中央支部運営委員長としても地域の指導者をまとめ、ステーション活動やセミナー計画など幅広く活躍されています。

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石井先生の詳しいプロフィールはこちら
1.「第二の母」として、生徒に自立させることが私の仕事

先生の、レッスンに対してのポリシーとは?

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私は、生徒が自分で考えられるように自立させるのが仕事だと思っています。生徒と同じ目線で考え、生徒の意志を尊重します。また、基礎的な練習は徹底的に指導し、特に脱力の勉強には時間をかけます。辛い練習かもしれませんが、ピアニストにとって一番大切な「美しい音色」の追求に欠かせないものだからです。
そして、留学中に師事したライグラフ先生の教えを元に、頭と耳を使って練習するということを生徒に伝えています。例えば、ハノンやツェルニーを日本では機械的に練習させることが多いですが、もっと音楽的な作品としてとらえて学習するべきなのです。そこには、大作曲家の有名な曲につながるテクニックや音楽性が備わっていますから、毎日の練習で多くのことを学ぶ事が出来るのです。
しかし、厳しいだけのレッスンでは人を育てることは出来ないですね。私の講座の副題にも有るように、"楽しくなければ続かない"と思います。レッスンの時も生徒達の心に浸透するようにユニークな言葉(私自身は意識して使っている言葉ではないのですが)を用いて説明したり、生徒の良くない演奏時の癖をジェスチャーを交えて気付かせるようにします。
皆、私の話や物真似を見て、クスクス笑いながらも、私の指摘する事をよく理解しているようです。

中高生の生徒を指導する時の接し方、特に反抗期にあたる年代の生徒のレッスンについてお聞かせ下さい

親に対しては反抗期があるようですが、私に対しては特に無いみたいですね。プライベートな相談をしてくる生徒もいますし、「第二の母」のつもりで接しています。生徒を上達するように導くためには、生徒との信頼関係が何より大切だと思っていますので、レッスン外でも常に携帯メールなどでコミュニケーションをはかるようにしています。

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生徒といつもメールをしているという石井先生の携帯電話には、数え切れないほどのかわいい携帯ストラップが。「修学旅行のお土産や、遠方のコンクールの時などに生徒が買って来てくれるのですが、全部つけています」
2.生徒さんインタビュー 「石井先生はどんな先生?」
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榎本優人君(2006年度 全国大会 F級 ベスト賞)

「『頭と耳を使う』ことで、自分の音を聴くことを学んだ」

先生に習い始めた時、「頭と耳を使って!」ー"頭と耳を使う"は先生の代名詞ですがーと言われ、初めて自分の音を"聴く"ということを学びました。そしてイメージ通りの音を出すにはタッチの研究や脱力を身につけることが大切だと初めて理解し、自分の演奏が大きくかわりました。
高校入試の時に県西の音楽科で石井先生に師事することが出来ない事がわかり、それでも受験をするか迷いましたが、『自分はこれからも石井先生に習いたい』という思いが強く、地元の高校に進学しました。今はご自宅でレッスンを受け、来年の受験に備え頑張っています。
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丸尾祐嗣君(2006年度 全国大会 F級 銅賞)

「3ヶ月ぐらい、ひたすら脱力の練習ばかりしました」

石井先生に師事して一年。習い始めたころは脱力の勉強に時間がかかり、3ヶ月位は曲を弾かせてもらえず、腕や手首の力を抜く練習をさせられました。大変辛かったです。
コンペが始まり、やっと曲が弾かせてもらえるようになると、今度は自分で考えて曲想を造っていく勉強が始まりました。コンペに向けて先生の熱心なレッスンが続き、少しずつですが、いろいろな事をマスター出来たと思います。今では、苦しかった脱力の訓練も美しい音を生み出すために大切な事だったと理解出来ます。
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本田侑梨佳さん(2006年度 全国大会 E級 入選)

「毎回のレッスンが心に残っています」

初めて教えて頂いた曲はシューマンでした。先生が弾いて聴かせて下さった時は、「何て綺麗な音なのだろう」と驚き、「どうしたら先生のような音が出るのかな」と思っていると、先生が私の演奏の物真似をして、良くないところを再現して下さいました。それがあまりにも面白くて(笑)、直すべきところがよく理解出来ました。先生は、「ピアニストにとって一番大切なのは音の美しさよ」とおっしゃって、"音"に妥協しないで追求し続ける大切さを教えて下さいました。
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谷川由衣さん(2006年度 全国大会 E級 ベスト賞)

「今の自分があるのは先生のお陰です」

6年生の時に石井先生に習い始めるまで、特に専門のレッスンを受けていた訳ではなく、ハノンやツェルニーさえも勉強したことがなかった私が、コンペでこんなに良い成績がとれるまでに成長出来たのは、先生のお陰だと思っています。
練習嫌いな私に、先生は毎日のようにメールで「練習しよう!」と励まして下さり、練習方法も送って下さいました。また、レッスンでは、感覚的に演奏してしまう私に、どう弾きたいか、どこに持って行きたいかを分析して楽譜に書き込むようにと言われ、曲を理解して弾けるように指導して下さいました。今まで知らなかった事を沢山教えて頂き、本当に感謝しています。
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酒井さやかさん(2005年度 全国大会 C級 銅賞)

「レッスンは、まるで『吉本新喜劇』を見ているみたい」

私は、石井先生のレッスンが大好きです。先生の表現はいつも面白く、私が理解しやすいように"簡単で楽しい言葉"をいっぱい使って教えてくださいます。まるで"吉本新喜劇"を見ているような感じで、本当に楽しいです。
石井先生のレッスンの特徴とも言える"理解しやすい言葉"を紹介します!
・バッハ等、ポリフォニー音楽のレッスンでは、音のバランスが甘くなってバスが強すぎる時は「おじちゃん、うるさい!」、ソプラノの場合は「おばちゃん、何とかして!」と注意されます。よくわかります!
・曲を盛り上げていくところは「ケーキのミルフィーユが重なって行くように」と優しく笑って下さいます。
・必死になるがあまり、急いでしまって曲想が一本調子になっている時は「まるで暴走族みたいになっているで~」と知らせて下さいます。
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遠藤優美さん(2006年度 全国大会 C級 入選)

「音を聴くこと、キャラクターのイメージを表現することを教えていただきました」

アドバイスレッスンで見ていただいた事がきっかけで、教えて頂くようになりました。自宅からの遠い道のりも忘れてしまうほど、レッスンは楽しいです。
先生のレッスンを受けるようになってから、私はどんな音の響きで弾いているのか、自分の耳で気を付けて聴きながら弾くようになりました。曲のキャラクターをイメージし、それを表現する事も少しずつ出来るようになりました。これからも、石井先生のもとで一生懸命に勉強していきたいと思います。
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石井美緒さん(2006年度 西日本本選 A1級 優秀賞)

「『お指の先がバナナにならないように』気をつけています」

石井先生に習い初めて三年になります。先生のところは、大きな生徒さんが多いので、当時幼稚園だった私を教えて頂けるのか不安でしたが、思い切って連絡してみました。すると先生は気持ちよくお引き受け下さいました。
レッスンでは、幼い私にもよく理解出来るように解りやすい言葉で楽しく指導して下さいます。 いつも注意されるのは「お指の先がバナナにならないように弾いてネ」と「もっと耳を使ってネ」と言う事です。いつも気を付けるようにしていますが、ちょっと気を抜くと左手の音を聞いていない事があります。もっと集中してレッスンを受けたいと思います。
3.受験はいつも二人三脚。合格への強い思いを持ってサポートしています

たった十数名しか合格出来ない、東京芸大や京都芸大のような超難関音大に毎年合格者を出しておられますが、入試に対するお考えや指導する上でのエピソードなどをお聞かせください。

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昔、私自身が東京芸大の付属音楽高校に行きたかったという夢を生徒に託しています。生徒とは、まさに二人三脚。どんなに才能があっても、『その生徒を絶対に合格させる!』という強い思いを持った先生が常にサポートしないと、そう簡単にうまくいくものではないと思います。

レッスンでは、それはそれは色々なことがあります。一番大変なのは、受験当日に一番最高な状態に持っていくことだとおもいます。入試前には、調子の良い時、悪い時があって当たり前ですが、スランプに入ってしまった時は大変。慰めたり誉めたり、その反面うぬぼれさせて油断させないように、 "押したり、引いたり"(アメとムチ)常に目をかけて、技術的にも精神的にもベストな状態で試験に臨めるように持っていきます。不思議なことに、スランプを経験した生徒の方が後々うまくいく事が多いような気がします。土壇場で火事場の底力が出るからでしょうか。

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毎年、うれしい知らせが次々と届くと、自分の事以上にうれしい気持ちで一杯になります。入試は本当に大変ですが、私のライフワークだと思っていますので、これからも多くの受験生を指導していきたいと思っています。

<生徒さんインタビュー>

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今年無事難関大に合格された、柴田さん(左)と奥村さん(右)
柴田さおりさん (今春、兵庫県立西宮高校卒業、東京芸大ピアノ科入学)

「自己表現を引き出せてもらえたことで、『自分の演奏』にたどりつけた」

私は、高校生になってから石井先生に習い始めました。それまでは先生に言われた事を練習し、そのまま表現していたので、最初のレッスンの時、「あなたは、どう弾きたいの?」と聞かれ、大変びっくりしました。そして、「それを言葉で言ってみて!」とも言われ、頭でわかっていても言葉ではなかなか表現することが出来ず、私は本当の意味で曲を理解できていないということに気付きました。
それからのレッスンでも先生は、「曲のキャラクターを自分でイメージし、それを聴いている人にわかるように弾こう!そして、どこが一番言いたいところかを考えてみよう!」とおっしゃり,"自分の考え"をもとに曲を組み立てていく事の大切さを教えて下さいました。その後は、"自分表現"をしようという意欲がわいてきて、練習も楽しくなりました。石井先生は、私が考えた演奏に対して決して否定的なことはおっしゃらず、「私ならこう弾くけどね」と実際に弾いて聴かせて下さったり、考えを引き出すような問いかけをして下さいます。そのおかげで私は、自然なかたちで"自分の演奏"が出来るようになりました。これは、私の中で革命的な出来事でした。

「演奏の日には必ずメールが」

コンクールや受験というのは、精神的なプレッシャーが多いですよね。私はそんなに強い方ではないので、それらに直面して、何度もくじけてあきらめそうになりました。でも、その度に先生が私のことを気にかけて、励まして下さったので、最後まで頑張りぬく事が出来ました。
特に忘れられないのは、よくメールを下さった事です。演奏する日には、必ず「自分の音をよく聴いて!落ち着いて!自分の演奏を!」などと応援のメールを送って下さいました。そんな優しい石井先生に本当に感謝の気持ちでいっぱいです。
奥村真綾さん(今春、兵庫県立西宮高校音楽科卒業、京都市立芸術大学ピアノ科入学)

「人間的にも育てていただいたおかげで、受験を乗り切れました」

私は、中1の終わりから石井先生に習い始めました。最初に先生に言われた事は、「根性がない!」「精神的に弱い!」そしてそれが「演奏にも表れている!」ということ。私は、石井先生に「コンクールや受験を乗り越えていくには、心の強さを持つ事が大切で、その自立した姿勢が必ず演奏を変えてくれる」のだということを教えて頂きました。一人っ子の私にとって、それは大変難しい事で、真剣に考えさせられました。
それからの私は、今まで当たり前だと思っていた母の助けを借りず、なるべく一人で考えて行動するように心がけました。レッスンはもちろん、コンクールにも自分だけで出かけて行って、演奏するようにしました。今では、自分の意志をしっかり持つ事が出来るようになり、昔に比べて随分自立出来たと思います。そして、何よりもそのお陰で、自分の演奏が変わったと思います。受験も無事に乗り切り、志望校に合格する事が出来ました。石井先生には、ピアノの技術だけでなく、人間的にも育てて頂いたという気がします。
4.コンペ・ステップは目的に応じた参加スタイルを
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先生の生徒さんは、ピティナ・ピアノコンペティションやステップにも、多く参加されていますね。

コンペを受ける事が決まると、具体的な目標が出来るからか、みなさんやる気が出るようです。でも大切なのは結果ではなく、その経過。私は目の前の事より、長い目で見た時の目標に合わせてレッスンを進めるようにしています。専門の道を志す生徒には、基礎作りが大切ですから、課題曲の練習を通して正しい奏法を身につけるように指導し、変な癖は改善し、正しい姿勢で弾けるように注意を促します。また、普段から自分の考えで曲作りが出来るように、課題曲を使ってそれを経験してもらいます。根気の要る練習の積み重ねとなりますが、皆よく頑張っています。

ステップは目的に応じた参加を勧めています。趣味で習っている生徒には、好きな曲を弾かせたり、アンサンブルを経験させたりするなど、楽しめる計画で演奏の場を提供します。専門の生徒は、コンクールや受験のリハーサルとして利用したり、バッハの組曲を全曲弾いたりする舞台として活用しています。

先生ご自身も、審査員やアドバイザーとしてご活躍されています。

「教えることは学ぶ事」。これは私のモットーですので、審査やアドバイスをすることも自分の勉強だと思っています。審査をすると色々な演奏と出会い、私自身も学ぶ事が本当にたくさんあります。また、審査員をすることで多くの先生方との交流の機会も増え、仲間もたくさん出来ました。視野も広がりましたし、地域活動など多くの事を知る機会が増えました。

<父兄インタビュー>

「区切りごとの感動や達成感を大切にしてくださいます」

石井先生は、演奏の技術指導だけではなく様々な側面から子供を見て長所を伸ばしてくださいます。たとえば、ステップ等による体験を生かして、主体的に自分の評価や分析を繰り返しながら自ら課題を見つけ克服していく姿勢を支援して下さるので、モチベーションがより一層高まります。また、コンクールを前にしたときには、先生の豊富な経験をもとにした思いやりのあるアドバイスがたいへん心強く感じられ、先生と一つになって共感できる喜びを実感しているようです。練習から発表までを計画的に考えて下さり、その区切りごとに感動や達成感を得る喜びを大切にして下さるので、親としてとても感謝しています。  (谷川純子)
5.これまでに9ステーション設立。そのパワーの源とは
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神戸中央支部運営委員長としては、地元では色々な企画を実施されている様ですが。

支部活動を活性化させる為には、先生方の意識向上をはかることが必要だと思います。私自身も含め、先生方が勉強することが大切なのです。その機会になればと思い、様々な講座や講演会を企画して、参加して下さるように呼びかけています。最近では、兵庫県立芸術文化センター大ホールにおいて、ポーランド・クラクフ国立管弦楽団とのコンチェルトの演奏会を開催し、幼稚園生から社会人の方までの演奏を1400人余りの方々が聴きに来て下さいまして、大好評でした。
又、有名なピアニスト、ルイサダ先生をはじめ、外国の先生を定期的にお招きして公開レッスンもしています。その他、バロック時代の舞曲を実際に目の前で踊っていただく舞踏演奏会や、指導に役立つコーチィング講座、脱力講座、バッハ講座など、先生方のご希望を取り入れながら多くの講座を企画して来ました。毎回、多くの先生方が受講して下さり、交流の場となっているようです。

9つのステーションを立ち上げられたと伺っておりますが。

コンクールや受験のリハーサル等、「身近な演奏の場として神戸に色々な時期にステップがあると便利なのに」と思ったのがきっかけでした。それから多くの先生方に呼びかけ、協力をお願いしました。今ではほとんど毎月、それぞれの特徴をもったステップが開催されるようになり、指導者の輪が出来て、支部の活性化にもつながりました。

「364日働いているのでは?」という声もあるほどですが、健康管理などで気をつけていらっしゃることはありますか?

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神戸中央支部のメンバーと。この日は、池川礼子先生のお誕生日のお祝いでした。

元気の秘訣は"ためないこと"ですね。トラブルがあると早めに話し合い早期解決するように心掛けています。
又、多くの方々に支えられているからだと思います。主人や子供達、お手伝いさん、支部関係の先生方、そしてYM神戸の福田さん。皆さんに助けられて、今の仕事が出来ているのだと感謝しています。

<取材を終えて>
私は、石井先生とは神戸中央支部でのお付き合いと、門下生の父兄としてのお付き合いをさせて頂いております。どんなシーンでも、いつもエネルギッシュで前向きな先生に圧倒されながらも、多くの事を学ばせて頂いております。今回の取材で、先生が生徒さんに対してどれだけ深い愛情を持って指導されているかという事、また、生徒さん達もそれをよく理解した上で先生を尊敬し、指導された事を活かそうと努力されているかという事がわかりました。石井門下の皆さんが、レベルの高い優秀な生徒さんに育っておられるのは、先生の素晴らしい指導力はもちろんのこと、先生のお人柄を慕っている生徒さんとの信頼関係が成せる技だと思いました。また、先生は、私達指導者に対しても気さくにお声をかけて下さり、勉強や活躍の場を多く与えて下さいます。そんなお優しい先生の周りには、自然に多くの方が集まってきます。生徒さんからも、御父兄の方々からも、神戸中央支部の先生方からも、本当に多くの人に愛されている素晴らしい先生。それは、レッスン室が移り変わる度に、さまざまなご経験をされ、人と人のつながりを大切にしながら、常に生徒とともに自らをも成長させてこられた賜物だと感じました。これからも石井先生ならではのアイデアで、どんどん新しい事にチャレンジし、更なる御活躍をされる事を期待しております。
本田真貴子