ピティナ調査・研究

第22回 江崎光世先生

レッスン室拝見

港ヨコハマの歴史と新しいベイエリアや活気溢れる中華街。こんなおしゃれな街から電車で10分ほどの静かな住宅地に江崎先生のお宅はあります。
日当たりのいいお庭には、先生のご主人様が丹精込めて育てた四季折々の花が咲き誇ります。今日も江崎先生の妥協を許さぬ精神で、音楽性とテクニックを鍛えぬく熱心なレッスンが始まります。

写真
1.楽しいソルフェージュクラス

2005年1月27日、江崎先生ソルフェージュクラスのグループレッスンを取材しました。小2-中1までの8人の子供たちが楽しくて力のつくソルフェージュレッスンを受けていました。
綿密なプログラムが立てられたレッスンは、テンポ良く進みあっという間の1時間です。実際のピアノのレッスンで学んでいる事をソルフェージュと結びつけた総合学習です。実際のレッスン風景を、ビデオで見てみましょう。

1.2人で伴奏。他の子は指揮をしながら歌う。
テキスト:きれいにうたいましょう ソルフェージュ1(ヤマハ)
WMV384K(39秒)

2.先生に言われたコードネームを鍵盤で弾く。その和音の解決を捜す。V7→
WMV384K(2分28秒)

3.先生の演奏を聞いて調性を当てる。

4.異名同音について。音階を書いたり、ドイツ音名で言う。ここは、先生としては生徒がパパッと言えるようになって欲しい所!
WMV384K(1分37秒)

5.先生の弾いた和音を聴いてコードネームで答える。和音の解決を口で言う。VとV7の違い。和音の性格の違い。
WMV384K(1分34秒)

6.和音の持つイメージを自由に語る。
WMV384K(2分07秒)

7.カードを見て、調を当てる。カデンツ、コードネームで答える。
WMV384K(2分22秒)

8.白熱する子供達の手作りのカード取り。
WMV384K(1分02秒)

写真

写真

写真

写真

ソルフェージュで培った力で生徒さん自身でアナリーゼした楽譜

写真
写真
写真
写真
2.ピアノ以外の道を選んで(卒業生に聞く)

「ピアノを教えることは人を育てること。そして自分が進む人生をしっかり歩んで欲しい」そう願って長年人間教育をテーマにレッスンを行ってきた江崎先生。
今回は、多くの門下生の中でも特にピアノ以外の道へ進まれた方に その後の様子と青春の日々を振り返っていただきました。

写真

※アンケートにご協力いただいた方々(敬称略)
秋山知子、岡本智恵子、木村康子、野村由紀、松崎敦子、松本みどり、矢島明子

ピアノを習っていて楽しかったことは?

・レッスンに行った時に会える友人とのお喋りは楽しみでした。

・先生、仲間、家族と真剣にコミュニケイトできた事です。また、コンクールやコンサートで大勢の人の前で演奏できた事は楽しかったです。先生のレッスンはその当時は厳しかったこともあったのかもしれないけれど、今思うと楽しかったことばかり。また、ピアノを弾いてみたくなりました。

・まだ豊かでなかった子供時代、クリスマス会や勉強会は本当に楽しかった思い出です。

ピアノを学んで人生のプラスになったことは?

・道を極める厳しさ、何かを学ぶ時は妥協してはならない事を学びました。

・集中力がついたことです。音楽に限らず、芸術的に素敵なものに惹かれるようになりました。

・何事もコツコツやり続けると大切なものが見えてくるということを学びました。

・コンクールや発表会を通じて、人前に立つ度胸がつきました。

ピアノを習っていて悩んだことは?

・高校2,3年生の頃「自分の実力では音楽の道へ進むのは無理かも。向いていないかも」と感じていたが、それを自分で認めることも、周囲に言うことも出来ず、進路の選択で悩みました。

・自分には音楽の才能が無いのではと悩んだこともあります。

・持続する力がついたと思います。

ピアノの道に進まなかった理由

・自分の才能を見極めた為です。音大に進学できても、その先音楽家として成功する自信が無かったからです。

・ピアノは趣味で、好きな時好きなように弾きたかったからです。

・ピアノを弾くことを職業にするには、仕事の場が少ないと思ったからです。

・他の学問も学びたかったからです。

・やりたいこととの両立ができなかったからです。

江崎先生を一言で言うとどんな先生ですか?

・行動するマリア様、私が生きていく上での指針

・ピアノの先生というより人生の先生

・パイオニア

・お世話になった方々の中でも別格の存在。

後輩たちに伝えたいことは?

・努力した分、自分に返って来ます。

・挫折は失敗でも落第でもない、曲がり角にすぎないということです。また、自分の能力を社会に役立てることが「社会人」ということ。ピアノ学習者は、ピアノを通じて社会にどう貢献していけるのかという事を意識してピアノを学んで欲しいと思います。ただ親のスネをかじっているだけでは、「社会の寄生虫」になってしまうから。ピアノは自発的に弾いて欲しいです。「弾かされている」と思ったときは、一度立ち止まる勇気をもって欲しいと思います。

・長い人生の中で集中してひとつの事を勉強する機会が持てた事は本当に幸せです。ただ、私が学生の時に気が付かなかったことは、音楽の道は音大に進みピアノの先生になることが全てではないという事です。

江崎・・ 親が結果の出るコンクールにはまってしまって、私のコントロールが効かなくなりピアノから離れてしまった子、他の才能を伸ばしていった子、さまざまな生徒がいます。 でもピアノをやめても"頑張ってきたこと"は無駄ではない事、そして、その時わからなくてもいつかわかる時が来るだろうと信じ、願ってここまでやってきました。
ですから、門下生達が自分で見つけた道で活躍している話を聞くと本当に嬉しいのです。
また、発表会やあゆみ会コンサートでは、昔の仲間が集まり元気な顔を見せてくれることも楽しみにしています。
他の道に進んだ子は、特にユニークな活動ぶりを発揮しているようです。頼もしいですね。
3.先生クローズアップ

江崎先生ご自身に、一問一答でいろいろな質問をさせていただきました。

好きなこと

勉強と前向きな姿勢。

先生の好きな語録集より

【相田みつを語録より】

・アノネ がんばらなくてもいいからさ 具体的に動く事だね

・そんかとくか 人間のものさし うそかまことか 佛さまのものさし

・体験して はじめて 身につくんだなあ

・古いものを出さなければ あたらしいものは入らない

・一生燃焼 一生感動 一生不悟

写真

写真

【シューマンの座右の銘】

・耳を養う事が、一番大切です。早くから調性と音を知るように心掛けなさい。

・やさしい曲を上手に美しく弾くように努力しなさい。難しい曲をいい加減に弾くよりずっとましです。

・あなたの弾こうとしている曲を 指だけでなくピアノなしにも口ずさめるようにならなくてはいけません。想像力を研ぎ澄まして、曲の旋律だけでなく、その旋律に属する和音も一緒に記憶するように。

・二重奏、三重奏など。他の人と一緒に演奏することのできる機会を逃さないようになさい。それは、貴女の演奏を流暢に活発にしてくれます。時々歌い手の伴奏もやりなさい。

・学ぶ事に終わりはありません。

尊敬する人

シュバイツァー

嫌いなこと

責任感の無い事。

健康の秘訣

黄色の信号を見落とさずによく眠る事。
自分の体の癖を知り、自然治癒力を信じること。
たいていの病気は、自分でコントロールして病院へ行かずに治します。

好きな作曲家・作家

シフの演奏するバッハは好きです。曲によって好きな演奏家は異なりますが、モーツアルトは癒されますね。
常に読んでいるのは、野口晴哉の整体の本です。

※野口晴哉(1911?1976)
野口整体を編み出し、整体協会を設立。自分の体癖を知ることによって、自立能力を活性化し、薬に頼らない健康生活を提唱。

これから取り組みたいこと

楽譜を音にするだけのレッスンでは、音楽離れに繋がるのではと危惧しています。本当の音楽の楽しみ方を提案していきたいですね。
でも、ただ楽しくするのではなく、私のやり方は「苦痛を伴いながらも光の見える学び方」です。
新しいアイデアとしては「アミューズピアノアンサンブル」別名おばさんアンサンブルです。なんて言ったら怒られちゃうかな?
老後に長く楽しめるピアノとの関わりあい方に取り組みます。

江崎光世先生 最近の活動から

○ 最新のピティナ会報から
★Our Music 247号:特集1「表現力を高めるエチュードレッスン」
私はエチュードをこう考える-技術とは、総合学習で得られるもの

★Our Music 248号:特集1「編曲で広がるレッスンの可能性」
ピアノ指導者と作曲家のコラボレーションがもたらすもの

★Our Music 251号:巻末特集「課題曲アドバイス」
ピティナ・ピアノコンペティション課題曲セミナー

○今後の主な予定

★ピティナ・ピアノステップアドバイザー

10/10(月) 岐阜
10/16(日) 鯖江
11/3(木) 掛川
11/13(日) 犬山
12/4(日) 川越12月

○江崎光世先生監修「ピアノ学習者のための室内楽導入シリーズ」

ピアノ学習者のための室内楽導入シリーズ Vol.1(編曲●小山和彦)
  <収録曲>
シューマン◎楽しき農夫
シューマン◎勇敢な騎士
チャイコフスキー◎甘い夢
チャイコフスキー◎フランスの古い歌

ピアノ学習者のための室内楽導入シリーズVol.2(編曲●轟千尋)
<収録曲>
ブルグミュラー◎牧歌
ブルグミュラー◎小さな嘆き
ブルグミュラー◎天使の声
テュルク◎アリエッタ

4.ピアノを長く続けてほしい

ピアノを学ぶ子供たちにメッセージをお願いします。

真剣にきちんとお稽古に取り組んで、しっかり基礎を身につけて下さいね。そうすれば、途中で怠けても休んでも大丈夫。中断することを恐れることはありません。
むしろ、ピアノ以外の栄養を体に取り組んで、いつでもピアノに戻っていらっしゃい。長く続けていれば、必ず良いことがありますよ。
人生は長いのです。

写真

とっておき

[江崎先生の妹さんのコメント]

小さい頃はいつも姉がミニコンサートや発表会で私たちの伴奏をしてくれていました。1度だけ姉以外の人に伴奏してもらった時、姉がいかに私たちに呼吸をあわせてくれていたかを知って、びっくりしたんですよ。
だから、音大でもよく先生方に頼まれて伴奏していましたね。
また、常に10年先を見て物事を考えるところを尊敬しています。
(江口邦子先生 ヴァイオリン)

写真
2人の妹さんと江崎先生(ピアノ)42年前の写真
写真

[江崎先生ご主人のコメント]

ママさんは、素晴しい奥さんで素晴しい先生です。ワッハッハ
(江崎孝三郎氏 元大阪府立大教授)

インタビューを終えて
写真
 この日は、江崎先生のご主人様の70歳のお誕生日でした。
 江崎先生は、ピアノ指導者として第一線で活躍されていますが、とても家庭的な先生です。昔は(30年位前)レッスンに伺った時に、先生手作りのミルクの香りのする素朴なクッキー、ちょっと固いけれど最高においしいバターロール、先生お得意のチーズケーキやドウから仕上げたピッツァなどをご馳走になるのが楽しみでした。レッスンで、怒られてしゃくり上げながらも口に入れた手作りの味は懐かしく甘酸っぱい思い出で胸が一杯になります。
 そして、レッスンの後私達は、洗濯物をたたんだり、掃除機をかけたり、お米を研いだり小さなお手伝いです。レッスンから開放されて先生の役に立てる喜びでうってかわって生き生きと働きます。
 また先生宅に泊まり込んで連弾の特訓を受けたり、BFや婚約者を連れて行ってご馳走になったり、先生はいつも母親のように私たちを受け入れて下さいました。この夜は喜多村知子先生と川崎みゆき先生からは素敵なマフラーのプレゼント。私たちの即興のハッピーバースデー連弾、そして夫達も加わって手料理で暖かくお祝いしました。
(取材:青木理恵、協力:沼田はるみ)
調査・研究へのご支援