ピティナ調査・研究

第20回 庄司美知子先生

レッスン室拝見

杜の都・仙台は今、新プロ野球団歓迎ムードで盛り上がっています。
JR仙台駅から徒歩で5分ほどのところに庄司美知子先生のご自宅があります。先生の下で研鑚を積んだ門下生の皆さんは、毎日学生音楽コンクール、カワイ音楽コンクール、PTNAピアノコンペティション等を始めとする多くの国内コンクールで優勝、入賞を果たしており、また、仙台国際音楽コンクールへの出場やイタリアのベッリーニ国際コンクールでの入賞等、世界の舞台においても活躍し、注目されています。PTNAコンペティションの審査員としてもご活躍ですが、ここ数年は海外の講習会にも講師として招かれ大活躍。地元の仙台で指導を始めて30年。その魅力的なレッスンにたくさんの生徒達が東北各地から集まってきます。先生のお宅にお邪魔してレッスンを拝見しました。

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1.国境を越えたレッスン

庄司先生がこれまでに講師として招聘された夏期講習会

2000年 スペイン・ピレネー音楽祭
2002年、2003年 イタリア「トスカーナの夏」
2002年 ユーロ・ミュージックフェスティバルinコーリア
2003年 バルセロナ国際フォーラム
2004年 スペイン・ヴィーライエール講習会
2004年 ユーロ・ミュージックフェスティバルinプラハ

こういった講習会にはご自分の生徒も一緒に連れて行かれる庄司先生にお話を伺いました。

日本の子供たちと海外の子供たち、双方を教えてみて感じた違いは何ですか?

庄司: 小さい子に関しては日本人のほうがずっと弾けます。器用だし、難しいものを弾いている。よく練習するし、テクニックもある。レッスン中も集中しています。
 向こうの子供たちはのんびりしていますが、雰囲気がありますね。そしてある年齢を過ぎたときに、音楽的にとても「豊か」な演奏をします。それはやっぱり見聞きしているもの、文化の違いかしらね。
 アメリカからいらした先生に私の生徒がレッスンを受けたときに「日本語はとてもフラット(平面的)に聞こえるけれど、それが演奏に出ているよ。音楽にイントネーションがない。」そう言われて、とてもショックでした。私はやらせているつもりだったから。特にここ、東北地方の人間は消極的だし、言葉の表現もおとなしいでしょ(笑)そういうのが音楽に出ていることに、あらためて気づかされた気がします。

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日本の生徒達が海外の講習に参加して、どんな変化が見られますか?

庄司:やっぱり頭で知っているのと実際に見たり聴いたりするものは全然違いますよね。自然はもちろんだけれど、建物、特に教会の雰囲気なんかも。何百年もたっている時の流れ、歴史の重さが石の壁から感じられる・・・それは言葉では表現できないものですね。
 それから文化。スペインではシエスタ(昼寝)をして10時半からのコンサートに出演して遅い夕食をとって・・・とかね。そういう文化の実体験を小・中学生でできるのは貴重なことです。
 向こうの人たちは表情が豊かだし友好的でしょう?セミナー中は合宿生活のような部分もあって、先生ともお友達とも交流が深くなるから、おとなしいと思っていた子も変化をみせましたね。言葉が通じなくても身振り手振りで何とか伝えて友達をつくったりして。
 日本ってなんでも予定通りにことが運びますよね。でも向こうは全然そうじゃない。レッスンにしてもコンサートにしても、自分の予定は自分で確認しないとね。誰も助けてくれないし、自分で表現しないと伝わらない。それに気がつくのは大きな変化ですね。
 何もかもが新鮮で何もかもが驚きで。「感動する」ことを覚えたんじゃないかしら。日本に帰ってからも今まで当たり前にあったものが違って見えてきたりしてね。

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プラハ音楽院からのぞむモルダウ川

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韓国でのコンサート

先生ご自身、指導される上でどんな変化がありましたか?

 私自身も大らかになりました。以前はやっぱり生真面目に教えていましたね(笑)自分にも余裕がなかったし、生真面目に教えて、生徒達も生真面目に学び取っていたと思います。それが「今できなくてもいつかできるかもしれないね。」って言えるようになりました。年のせいかもしれないけれど(笑)それは確実な変化ですね。

2.海外の講習会に参加して~生徒達の声~

今年、スペインの講習会に参加した古関美乃莉さん(小6、2004年D級仙台中央地区優秀賞)、佐藤衣麻さん(小6、2004年C級東北地区優良賞)にお話を伺いました。

外国の先生のレッスンを受けてどう思った?

みのり:外国の先生は日本の先生より体を使って教えてくれるから面白かったです。 歌ったり踊ったり・・・。

外国のお友達はできましたか?

えま:できました!エリサちゃん、マイケルくん・・・。
一緒に鬼ごっこしたよね。ジェスチャーとかで何とか会話もできました。

外国のお友達もよく練習していた?

みのり:全然してなかったです。でもコンサートでは上手だったのが不思議。

海外で庄司先生のレッスンを受けるとき、先生はいつもと違う?

みのり:うーん・・・日本語で通じるのに英語使ったりしていたよね(笑)
えま:日本にいるときよりよく笑っていると思いました。

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左から佐藤衣麻さん、古関美乃莉さん
「スペインでは毎日遅くまで起きていたけれどちっとも疲れなかった!」と元気いっぱい。

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コンサートでは連弾もしました。
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浴衣を着てすっかり人気者。お友達もできました。

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お話を聞かせてくれたみなさん

海外に行って自分は変わったと思う?

みのり:外国のピアノと日本のピアノの違いがわかりました。
えま:ピアノを弾くとき、音を出すことに気をつけるようになりました。

また海外に行きたい?

みのり&えま:絶対行きたい!!

どうもありがとう。

3.毎日のレッスン~庄司先生が大好き!

先生のご自宅では毎日4時頃から7時過ぎまでレッスンが続きます。今日はピティナっ子たちのレッスンを拝見しました。

レッスン風景を見せてくださった生徒さんたち

(1) 湯目詩織さん(小5、2003年C級東北地区優良賞、デュオ部門東北地区優良賞、2004年ステップ継続表彰コンサート出演)

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レッスン曲目:バルトーク/ルーマニア舞曲
「庄司先生には3歳からみていただいています。初めてステージに出たとき、たくさんのお客さんにビックリして大泣きして、袖にいる先生のところに戻ったこともありました。
先生はピアノ以外のことも教えてくださる、お母さんのような先生です。ステージに出るときにはいつも背中をポンと押してくれます。
今年の9月に出演したステップ継続記念コンサートでは、95歳のおばあさんの演奏にとても感動しました。私もピアノが大好きなのでこれからもずっと続けて行きたいです。」

(2) 山内美玲さん(小2、2004年B級山形地区優秀賞)

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レッスン曲目:バッハ/インベンション3番
「庄司先生は優しくて、ピアノの弾き方をていねいに教えてくれます。
 私はお客様の前でピアノを弾くのが大好きなので、将来はピアニストになりたいです。」

(3) 梅川侑里恵さん(小5、2004年C級東北地区優秀賞、全国大会出場)

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レッスン曲目:ショパン/ワルツ Op.64
「集中して弾けたときや思い通りの音が出せたとき、そしてその努力が結果になったとき、ピアノをやっていて良かったなぁと思います。自分の音で聴いている人を感動させられるようなピアニストになりたいです。
4.門下生のつながり~みちの会について

2003年10月、庄司美知子ピアノ門下生有志が集まって「みちの会」を結成しました。
会員は現在33名。学生だったり留学中だったり、後進の指導にあたったり。旅館の経営者だったり新米ママだったり、皆それぞれの「みち」を歩んでいます。共通点は庄司先生のもとで音楽が大好きになったこと。
「みちの会」について、会員の住田怜美さん(指導者会員:桐朋学園附属こどものための音楽教室仙台教室講師)にお話を伺いました。

★みちの会問合せ先はこちら(michinokai@hotmail.com)

まず、「みちの会」の名前の由来を教えてください。

もちろん先生のお名前「みちこ」から来ていますが、「道」「未知」「美知」・・・さまざまな意味をかけています。

会が始まったきっかけは?

私もその1人ですが、進学や留学で先生と疎遠になってしまった門下生が、海外の講習会で先生と再会して時間をかけてゆっくり話をするうちに、また先生の魅力に取り付かれて・・・先生と一緒に勉強した頃の気持ちに戻って、あの頃の仲間とまた集まりたいね、皆でコンサートができたら楽しいね、と。仙台の会員を事務局にして今年の4月に発足記念演奏会を開催し、幕開けとなりました。

活動内容は?

会員による演奏会の企画・開催、会報「ROAD」の発行、庄司先生や会員が関わるコンサートの案内、公開レッスンは夏季セミナーの案内、年末の交流会開催が主な活動です。

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住田怜美さん
10月28日に仙台でリサイタルを開催。

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師弟で連弾

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2004年4月みちの会発足記念演奏会にて
(仙台:電力ホール)

今後の予定は?

ただ演奏するだけではなくて何かテーマを決めて・・・例えばある曲集を分担して全曲演奏するとか、研究するとか。お互いに勉強できる企画をしたいと思っています。発足記念演奏会は仙台でしたが、来年は東京で開催の予定です。  それから、いつも人のつながりを大切にしたいですね。縦にも横にも。仲間にはすごく刺激されるし、先輩から学ぶことは大きいし、後輩は応援していきたいです。今現在、庄司先生に習っている生徒さんたちとの交流も大事にしています。彼らのひたむきに勉強する姿、先生の教える姿、学ぶところがたくさんあります。進学や留学の際にはお手伝いしたいと思いますし。  それからもう一つ、地元を大切にしたいと思っています。これは先生のご意向でもあるのですが、育ったこの街に感謝をこめて、街角の小さな空間でコンサートができたら素敵だな、なんて。まだまだ夢ばかりですけどね。

5.仙台から世界へ~仙台国際音楽コンクール~門下生の活躍
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今年5月、久しぶりに「楽都仙台」の緑色の文字が街中を飾りました。3年に一度開かれる『仙台国際音楽コンクール』(ピアノ・ヴァイオリンの2部門)は、コンチェルトを課題曲の中心に据えた、たいへん特色のあるコンクールです。
参加申込者は、出場者を決定するためのオーディションから、ピアノ伴奏で協奏曲の第1楽章を演奏します。

オーディションに合格したコンクール出場者は、すべての審査段階で弦楽五重奏やオーケストラと協奏曲を共演することが求められ、4曲の協奏曲を準備しなければなりません。出場者には、たいへん高い技術と音楽性が要求されます。
このコンクールに2回とも庄司先生のお弟子さん(第1回:今村亜紀さん、第2回阿部祥子さん)が出場し、地元出身の出場者による堂々とした演奏に聴衆は大いに沸きました。

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今村亜紀さん(第1回仙台国際音楽コンクール出場:現在桐朋学園大学2年生在学中)

当時はまだ高校生、しかも初めて出た国際コンクールでコンチェルトを数曲も準備するのは大変でしたがいい経験になったと思います。庄司先生には演奏だけでなく、あらゆる面で助けていただきました。
 これからは音楽だけでなく絵を見たり本を読んだり、自分を高めながら幅広く勉強していきたいと思っています。

庄司(仙台国際音楽コンクール組織委員):

このコンクールは多くの市民が参加してとてもあたたかい雰囲気です。生徒達もほとんど毎日通っていましたね。予選から応援しているので、好きな出場者には追っかけのようにくっついてまわったりして。これから世界で活躍していく若い才能のある音楽家の演奏を目の当たりにすることは生徒達にとって本当にいい刺激です。憧れるのでしょうね。地元にこのようなコンクールがあるのは大変嬉しいことです。

海外で活躍中の門下生の中から3人をご紹介。

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阿部祥子さん(ドイツ:ドレスデン音楽大学在学)

1995年イブラ大賞国際音楽コンクール第3位

「ドレスデンはベルリンに比べると小さいけれど、芸術があふれる街です。現在はピアニスト4人で結成されたオーロラカルテットというグループの一員としての活動、そのほかにはドレスデンフィルのチェリストとのデュオ、またアラブ人作曲家の新しい作品を中心としたプログラムでシリア人バイオリニストとのデュオ活動を行っています。
最近は仙台での仕事も多く、そのたびに庄司先生といろいろなお話ができることが嬉しいですね。」

阿部祥子リサイタル:2005年10月20日(木)電力ホール(仙台)


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松坂優希さん(オランダ:ロッテルダム音楽院在学)

2003年ベッリーニ国際音楽コンクール(イタリア)第3位  2004年フォルミア市国際音楽コンクール(イタリア)優勝。

「ロッテルダムは近代的な雰囲気で、学校の雰囲気は自由で明るい感じです。多種多様な人々と接することができ、彼らと話すことはとても刺激になります。
留学して驚いたことのひとつはクラシック音楽がごく自然に人々に浸透していること。コンサートで演奏できる機会は日本とは比べ物にならないほどあります。大体が教会でのランチコンサートで45分ほどのリサイタルですが、私たち学生にとっては大きなチャンスであり、いい勉強をさせていただいています。」

松坂さん今後のコンサート:ぴあの日和(ブログ)


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我妻みず穂さん(モロッコ国立ケニトラ音楽学校勤務)

「青年海外協力隊員としてこちらにきて1年半。50人近い生徒に個人レッスンしています。ほとんどの生徒は家にピアノがないけれど一生懸命で、目をキラキラさせて通ってきます。最近は郊外の町をまわって移動音楽教室をしたり、異文化を楽しめるようになりました。帰国後はこの経験を生かしていければと思います。」


6.最後に
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桐朋学園附属音楽教室の ソルフェージュの授業
みんな庄司先生が大好き!

先生がピアノを指導していく上で一番大切にしていることを教えてください。

勉強の場はやはり自分だと思うんですね。求めなければ誰も与えてくれない、ということです。それは私がいつも生徒達に伝えたいことでもあります。私が教えるのではなくてあなたたちが求めてほしい、と。

それからもう一つ、基礎をしっかりとさせること。音楽家にならなくとも良い聴衆になってほしいと願っています。良い聴衆がいなければ音楽家は育たないし食べていけませんから。音楽の良し悪しがわかるように育てたいといつも思っています。

そして出会いを大切にしてほしい。先生との出会い、お友達との出会い、コンクールではたとえ入賞しなくとも曲と、聴衆とホールに出会えるわけですよね。ひとつひとつの出会いを大切にしてほしいと思います。
みちの会を作ったのも、ここから羽ばたいてここに戻ってきて欲しいという思いからです。生まれ育ったこの街に音楽の花の種を持って帰ってきてほしいですね。そのためにもみんなが勉強できる環境作りをこれからも進めていかなければ、と思っています。

◇ 庄司美知子先生 今後の予定 ◇

♪ニューイヤーコンサート2005 庄司美知子&東京ゾリステン
 2005年1月25日(火)19:00~電力ホール(仙台)
 曲目:バッハ/ピアノ協奏曲 他
 お問い合わせ:仙台放送 http://www.ox-tv.co.jp/event/

♪2台ピアノでモーツァルト
 2005年1月27日(木)18:30~戦災復興記念館(仙台)
 曲目:モーツァルト/2台ピアノのためのソナタ K.375a 他
 共演:菅野潤
 お問い合わせ:仙台モーツァルト協会
 メール:swpiano.hayashi@beach.ocn.ne.jp

☆ ピティナ・ピアノステップ仙台中央地区
 2005年3月5日(土)6日(日)戦災復興記念館(仙台)
 アドバイザー:庄司美知子、村井頌子
 お問い合わせ:PTNA仙台中央支部 : 林
 メール:swpiano.hayashi@beach.ocn.ne.jp

★ 庄司先生が主宰される仙台中央音楽センターのホームページ
  https://scmct.com/

★ 桐朋学園大学附属子供のための音楽教室仙台教室ホームページ
 https://toho-child.jp/class/sendai/

~編集後記~
 先生のお宅に伺うときは必ず階段を上ります。上に近づくとだんだん聴こえてくるピアノの音。 「うまく弾けるかな」「あの曲、今日であがるといいな。」ドキドキしながら制服を着て上ったころの気持ちが今も蘇ります。
 庄司先生は不思議な人で、決して怖いわけではないけれど、お会いすると背筋が伸びます。先生の隣でピアノに触れば魔法にかかったように上手に弾けたり、先生に「大丈夫」と背中を押してもらえばどんな場面でも勇気が出てきたり。
 今回取材して一番印象に残ったのは弾いている生徒のまっすぐな目。先生に向けられる憧れのまなざし。ピアノが何より好きなんだ、と、全身で語っていました。そんな彼らを1人の音楽家として受け入れる庄司先生。
彼らを育てていくのはコンクールでも演奏会でもなく、この瞬間の連続なのでしょうね。
 先生と生徒の関係っていつもいい状態ではいられない。反抗してみたり疎遠になってみたり。そうかと思えば急に不安になって先生の顔が浮かんできたり、親にも言えないことを相談してみたり。自分が教える立場になって初めて、その一つ一つのプロセスが教育なんだって思えるようになりました。
 庄司先生には、女性らしさや音楽家としての心構え、ひとりの人間として夢や勇気を持ち続けることの大切さを教えてくださったことに感謝しています。
 人のお世話でいつも忙しい庄司先生。生徒がさらによくなるために、いつもチャンスと勇気をくださいます。「自分のことはできないのに人のことばかりやっちゃうのよ、ダメね。」と先生はおっしゃるけれど、そんな先生が大好きで、今日もたくさんの生徒が緊張と期待に胸をふくらませて階段を上ります。
 最後になりましたが、取材のためにご協力くださった生徒の皆さん、PTNA仙台中央支部の林さん、記事を編集してくださったPTNAスタッフの皆様、そして庄司美知子先生に心より感謝申し上げます。
【取材・文 吉田 彩】