ピティナ調査・研究

第12回 西村万理先生

レッスン室拝見
1. 設計・建築・防音を各専門業者へ委託した効果

これまではマンションの一室をレッスン室にしていましたが、今回の一戸建て新築を契機に、約13畳のレッスン室を作りました。地形の関係で家の形がやや複雑になったため、設計は専門の設計会社に、建築は熟練した腕の良い大工さんに頼みました。ここは隣家が道路を隔てて離れている上、反対側は広い駐車場になっていて、その向こうに県道が通っているため、全く静かな環境とはいえませんが、それがかえって大きな音を出しても気にならない条件となり、ピアノを心置きなく弾くのに適した環境といえます。とはいえ夜遅くまでピアノを弾くことを考えると、レッスン室はしっかりした防音が必要と思い、防音室の設計をヤマハに依頼しました。以前のマンションのレッスン室もヤマハのユニットタイプのアビテックスを入れていましたので、今度のレッスン室も当初からアビテックスにしようと決めていました。

設計は設計士、建築は大工、防音はヤマハ、つまり専門業者。理想的な形ですね。毎日だいたいどのくらいピアノを弾かれますか。

朝は10時くらいから、夜は1時くらいまで弾きますね。自分の演奏会がある日は、(都内のホールの場合)朝6:30から練習して出かけることもあります。レッスンは通常夜の9時頃までやっていますが、子供は学校が終わってご飯を食べてから夜レッスンに来たり、大人の方も仕事の都合で遅くなるケースがあります。この防音室だと深夜でも音が近所に伝わらないので、遅い時間帯のレッスンにも対応できます。

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透き通るような声で優しくレッスンする西村万理先生。ピアノ指導のかたわら、友人とのアンサンブル演奏も。このレッスン室で練習したり、生徒さんに演奏を聴かせたりすることもあるそうだ。

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今までばらばらに置いてあった楽譜は、オーダーで製作してもらったこの機能的な本棚のおかげで、きちんと一箇所に収まった。
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この窓のみ3重にしてある。演奏者の背面から、やわらかい光が差し込む。

深夜でも音が漏れないのは、心強いですね。響きはいかがでしょうか。

響きが以前に比べてはるかに良くなりましたので、生徒にとっては程よい緊張感が生まれているようです。練習も以前よりきちんとしてくるようになりました。響きといいましても、単に残響が長くなったというよりは、「いい感じに響く」感じです。実はこの家は梁が太いので、通常は梁の下に木をあてがうのですが、今回は特別にその中にはめこむ要領で仕上げて頂きました。下地の状態で260センチという、高い天井が実現しました。その天井の高さが一役買っているのだと思います。

2.「音を楽しむ空間」への進化、アンサンブルの生演奏も可能に

響きがいいのは、天井のパネルの組み合わせが上手く出来ているのも一因と思います。その他、このレッスン室で展開されていることはありますか。

このレッスン室は「音楽する楽しさを味わう空間」にすることを心がけました。生徒にはソロだけでなく、人と合わせることも楽しんでもらうため、定期的に連弾勉強会をしたりしますが、以前のレッスン室では連弾1組を入れるのがやっとでした。1組終わったら、次の組を入れて、残りの生徒は玄関の方まで利用して待って頂いたり。。今はお客さんまで入れられるので、非常にゆとりが生まれましたね。これで勉強会も、楽しく開けそうです。

また私自身が学生の頃からアンサンブルをやっているのですが、その練習、演奏も気軽にできるようになりましたね。生徒にもピアノだけではなく、日頃あまり接することのない楽器にも親しんで欲しい、それで生のアンサンブルを聴かせてあげたいと思うようになりました。実は11月にサロンコンサートをするのですが、そこでバイオリン、ホルンと組んで、ブラームスのトリオを演奏する予定です。アンサンブルの練習場所を探すのが大変なのですが、この空間があるので集まりやすくなりました。ここで弾いたアンサンブルメンバーの一人は、「弦の響きがきれい」と絶賛しています。

ところで、スピーカーがサラウンドになっていますね。

ゆくゆくはホームシアターを設置したいと思い、サラウンドにしました。天井が柔らかいので、業者の方に取り付けて頂きました。実は主人がレコード収集をしており、かなりの所蔵があるのですが、今はそれを音量たっぷりで聞いています。CDに比べてレコードの音の良さと味わいが際立ちますね。

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ピアノは2台置くか迷ったが、結局1台のみ置くことに。そのおかげでアンサ ンブルができる空間ができた。

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ドアには黒いパッキンが施されており、出入りの際は力を要するが、音はぴたりと 止まる。

外に漏れないだけでなく、家の中の防音も重要です。薄い一重ドアですが、防音効果はいかほどでしょうか。

ドアに黒いゴムパッキンが施されているので、家の中で響くこともないですね。閉めると隙間がなくなるので、音はしっかりシャットアウトされています。窓は全て二重窓で、3つあります。窓なしだと遮音効果が高くなるのは当然なのですが、やはり窓がある方が開放感が出るのでよいですね。壁面が少なくなりますが、遮音性に問題はありません。

3.防音は、「思い切り弾ける」という安心感を得るため
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この日は午前中に大人の生徒さんのレッスン。ただ今ソナチネを練習中。

生徒さんにお伺いします。生徒さんご自身はアミューズということで、ピアノを楽しんで弾いていらっしゃると思いますが、家ではどのように練習されているのでしょうか。

昔少しピアノを習っていたのですが、先生のところに通い始めて6年、バイエルからやり直しました。現在はソナチネや多声音楽など、4冊くらい同時にやっています。家にはかつて娘が使っていたピアノが2台あります。そのうちの1台にサイレント機能を後付けし、練習しています。家は比較的広く、近所とも少し離れているのですが(先生注:明治5年建築のお屋敷)、やはり音が漏れてないかは気になります。主婦ですから家事を片付けた後、夜9時頃から練習するのですが、サイレント無しでは思い切り弾けませんね。とはいえ、アコースティックな響きをもっと感じたいので、先生のレッスン室で思い切り弾かせて頂いています。
やはり今後、防音は「安心感」のために必要かもしれませんね。

なるほど。どれだけ周囲には聞こえない環境であると分かっていても、やはり弾いているご本人が気になってしまうと、集中できませんね。安心材料として、防音設備を整えることも大切なのですね。
本日は素敵な演奏もありがとうございました。

音環境にますます敏感になっている日本。周囲に気を使いながら恐る恐る弾くよりは、夜でも思い切り弾ける環境を、そんな願いを形にする防音室。西村先生の選んだフリータイプは、設計段階から組み込まれているので、全く違和感なく、細かい部分にまで遮音機能が施されている優れものだ。環境を整えることが、生徒さんの意識向上のみならず、音楽をより深く、幅広く楽しむことにもつながる、そんなことを再認識させられる事例だった。

(協賛:ヤマハ株式会社)

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